山間部:下層
装備がとてつもなく強化された俺はまたイルンに戻ってきていた。
それにしてもミルさんにあんな地雷があったなんてな。今後はできるだけ踏まないように気をつけないと。
と、疲れ果てた顔で一旦ベンチに座る。
「はぁ、疲れた」
正直今すぐログアウトして寝たいのだが、装備の質が上がったのとステータスも全体的(HPのみ)に底上げされたから、その検証と攻略もしてみたい。
俺はその二つの選択に悩んだ果てに、攻略をすることにした。
ベンチに座っていたらなんやかんや疲れも取れてきたのだ。
もしかしてこのベンチ疲労回復みたいな効果がついているのか・・・?
と、しょうもないことを考えられるほどには回復していた。
ちなみに、実際このベンチには疲労回復の効果がついているのだが、ジンはそれに気づくことはない。
実はこのベンチが神器の一種だということにもジンは一生気づくことはないだろう。
「じゃあ、行くか」
俺はそう呟いて、西の山に転移する。
それにしても本当に体が軽いな。このゲームベンチに座ったら体力回復するとか、こういうところで凝るんだよな。
もっと他のところに凝れ、と声をあげて言いたい。
そんなことを考えながら俺はまた森に入っていく。
「グェェェ!」
ある程度歩いていくと、八つ目蛙とエンカウントする。
今回は何かに追われている感じではなく、ちゃんと俺を敵としてみている。
まあ、流石に2回連続でレッサーポイズンドラゴンみたいな化け物にエンカウントするわけがないもんな。
「グルェェ」
八つ目蛙は8個の目でギョロリとこちらを見つめる。
どうせだから今回強化された装備試すために今回は自爆を使わずに立ち回ってみるか。
「【挑発】」
俺は久しぶりに挑発を使って蛙の気を引く。
「グルェェェェ!」
ちゃんとその効果は効いたようで、目を赤色に変えて舌をこちらに伸ばしてきた。
俺は当然その攻撃を避けれず、舌に絡め取られる。
「グルェ」
「うおっ」
蛙は勝ち誇ったような笑みを浮かべてその舌を一気に引き戻す。
「グエッ」
ある程度近くまで引き込んだら、今度は口から胃袋を吐き出してきた。
うえー、気持ちわるいな。口から胃液とセットでゴポッって出てきたんだが。
当然絡め取られている俺はこの攻撃も避けれず、顔を顰めながら正面から受ける。
うえっ、なんかヌメヌメしてる。しかも胃袋が俺の体に合わせて伸縮して身動き取れなくなってるんだが。
ちなみに八つ目蛙の胃袋は獲物に合わせて大きさが変わり、確実に捕えるための非常に強い攻撃手段になっている。
「グルッ」
八つ目蛙よりも小さな獲物ならこの場合そのまま飲み込まれるのだが、俺は丸呑みできるほど小さくはない。
だから、このまま俺がある程度溶けるのを待つのだろう。
胃袋を切り離して、俺を捕まえたまま周りを観察し始めた。
が、それは悪手。
毎秒10ダメージと、今までのスリップダメージの中では一番高いダメージを出しているので、確かに他のプレイヤーにとっては脅威だろう。が、俺にはむしろありがたい。
その反射ダメージはしっかりと八つ目蛙の身に刻まれていっている。しかもそのダメージが小さすぎて八つ目蛙は気づいていないようだ。
◇◇◇◇◇
「グエッ?」
5分ほど経ち、スリップダメージによって八つ目蛙のHPバーがなくなる。
結局八つ目蛙は最後まで自分がダメージを喰らっているとこに気付けず、死んでしまった。
それと同時に俺を捕まえていた胃袋と八つ目蛙の体が消え、素材がドロップする。
それにしても、スリップダメージか。今回強化された毒を付与できないから試すには微妙だったな。次からはこいつに出会ったら自爆で倒すか。
そう、今回の装備の反射による毒はスリップダメージには効果がない。それを的確に突かれたので八つ目蛙では試運転にならなかったのだ。
八つ目蛙を倒した俺は、皮と目玉、それと胃壁という絶妙なドロップ品をみて、顔を顰めた。
なんでここにいる奴らはドロップ品が気持ち悪い部位ばかりなんだ。精神攻撃もついでにやろうという魂胆なのか?運営も姑息だな。
と、変なことを考えながら俺はまた先に進んでいく。
◇◇◇◇◇
「【自爆】」
ボンッ!
俺を中心に半径10mほどの爆発が起き、それに巻きれた八つ目蛙がドロップ品を落とす。
あれから30分ほど進んだのだが、今のところ魔物は八つ目蛙しか見ていない。そしてその八つ目蛙も舌に絡め取られて、近づいたところで自爆をすれば簡単に倒すことができると気づいてからは敵ではない。
この山の八つ目蛙は全員、初撃が舌によるからめとりなんだよな。もっと高性能なAIを追加してワンパターン戦法を取らないようにすればよかったと思うのだが。
八つ目蛙のドロップ品を拾ってさらに上に行こうと足を出した時、
「キシャァァ!」
一本の木がその根を鞭のようにしならせて俺に叩きつける。
ドン!
そしてそれは、突然の攻撃に驚いて体が止まって避けれなかった俺をもろに叩き、吹き飛ばした。
・・・まあ正面から今の攻撃をされても避けれないが。
と、そんなどうでもいいことは置いておいて、俺は体制を整え目の前の敵に集中する。
すげー、さっきまで普通の木だったのに。今はその根やら枝をうねらせており、さらには幹に顔みたいなものも出来ている。
まあ、見た目的に図書館で情報を見たトレントってやつだろう。
「キシャァァ!」
トレントはまたしても俺に根を叩きつけるべく、根を振り上げる。
その顔はどこか焦っているようにも見え、動きも精細さを欠いていた。
まだ挑発もしてないのに、なんでこのトレントは全力で俺を殺そうとしているんだ?いくら魔物とはいえ明らかに攻めるテンポが早すぎる。
ドォォン!
と、そんなことを思っているとトレントはその根を一気に振り下ろしてきた。
さらに追撃として横なぎにその根を振り払おうと振りかざした。
が、その攻撃が俺に届くことはない。
振り下ろしをもろに食らった俺の反射ダメージがトレントに大量にダメージを与えており、追撃をする前にはトレントのHPバーは無くなっていたのだ。
やばいな。1000ダメージくらいくらったぞ今。
てっきりトレントというからには防御力高めで攻撃力が低めなのかと油断していたら、ゴリゴリのファイターだったので、相当HPを持って行かれた。
やはり油断はよくないな。あのドラゴン戦で学んだはずなんだが、どこかで慢心していたようだ。
油断大敵。
俺はその言葉をどこかで軽く見ていたようだと、今回の件で思い知らされた。
それにしてもこんなワンパン野郎が奇襲してくるとか難易度高すぎねーか?あと、装備を強化したのにスリップダメージマンと馬鹿火力マンしかいないせいで試せなかったんだが?
と、内心愚痴をこぼしながら俺はさらに森の深みを目指していくのであった。
後書き
八つ目蛙くん「勝ちパターンにはめたのに負けるの?何このクソゲー」




