閑話:彼は今
《レベルを徴収します》
「あ、ああぁぁぁ。俺の、俺の、レベルがぁ!やめろ!やめてくれぇ!」
俺の名前はグレン。たった今初心者だと思っていたプレイヤーにレベルを吸われて絶望している。もはや絶望しすぎて、冷静になれる程には。
あ、勘違いしないで欲しいのだが、これは合法だ。俺が奢って経験値をかけてしまったからこんなことになっているのだ。
《レベルの徴収が終了しました》
「あ、あぁぁぁ」
レベルの徴収が終わった。あれだけ頑張ってあげたレベルもまた1に戻っている。
・・・やっぱり俺に悪役なんて無理だったのかなぁ。
俺は現実世界では妻と子供を持っている。休日はいつもみんなで家族旅行に行ったりもする順風満帆な生活を送っている。
そんな中、誕生日に妻から結婚してからは全然ゲームをしてないんだからたまには息抜きをしたらどうかということでプレゼントをもらったのだ。
それが「ULO」
オープンワールド型のゲームで、レベル制限がないという新しいジャンルのVRMMOだった。
俺は彼女と出会うまではかなりゲームをやっていて、仕事のない日はプレイ時間が12時間を超えることもざらにあった。
が、彼女と出会ってからは、家族の時間を取りたいからその全てを封印していたのだ。
が、俺もゲーマー。こんな面白そうなゲームをもらったらその血が騒いで、すぐにプレイし始めたのだ。
そして、俺はどうせならあまりやらないことをしようということで、悪役のロールプレイを始めた。
・・・今思えばここが全ての問題点だったのだろう。
悪役っぽく初心者狩りをしたり、PKをしたりした。
時にはロールプレイを忘れて普通に人助けをしてしまったこともあったが。
そして、そんなことを何度か繰り返しているうちになぜか俺のファンが増えていった。
「グレンさんが悪役のロールプレイングをしていても滲み出る善人のオーラに惹かれたんすよ」
ファンの1人になぜ俺を応援してくれるのか聞いたらこんなことが帰ってきたのだ。不安に思って他のファンにも聞いたのだが、皆大体同じような答えだった。
これに関しては本当によくわからない。なんでだ?できるだけ悪役になりきったはずなんだがな。
そして、初心者狩りをしていたらよくわからないプレイヤーに会ってボコボコにされて今に至るわけだ。
なんだあの理不尽な能力。なんで攻撃したら俺が死ぬんだよ。どういうことだよ。
と、内心愚痴が溢れるほどには、謎な能力を持ったプレイヤーだった。
「やっぱり俺には悪役は合わなかったのか・・・」
そうボソリと呟いた時、俺の様子を見ていたファンの1人が驚くべき提案をしてきた。
「じゃあ今度は善人でやったらどうっすか?」
その提案は悪役は俺の肌に合わないことを感じていた俺を変えるのに十分だった。
「確かにな!これからは善人でやっていくぜ!それでもお前らはついてきてくれるか?」
俺はサッと切り替え、これからは善人でやっていくとファンの皆に伝える。昔からの俺の特技は切り替えが早いことだ。俺は基本的に進み続けないとやっていけないたちでウヨウヨを考えるなら行動しろ!という派である。
「善人のグレンさんが見れるなんて!」
「やっぱりグレンさんは善人があってるよな」
「悪役をやっていてもそのオーラが滲み出てたもんな」
「「「はははは!」」」
ファンの皆は俺についてきてくれるようだ。むしろこの時を待っていたかのような顔で俺のことを見ている。
「よっしゃ!じゃあまずは失ったレベル上げからだな!」
そう言って俺は始まりの草原に向かった。
◇◇◇◇◇
そして、俺はその後「困っている人がいたら最優先で助ける」を第一目標にプレイしていた。
何度も何度も人を助けるうちに悪役だった頃の俺の噂は全く聞かなくなり、その代わりに俺の良い評判が色んな場所に広がっていった。
そして、ファンも数十人だったのが今や1000人を超える規模まで増えている。それに伴って俺の元には感謝の手紙や言葉、報酬が大量に届いた。
そんな中、俺は3人のプレイヤーとパーティを組んだ。2人は俺が助けて関わりを持って、それと俺のファンの1人を加えた3人に熱列にアプローチを受けて、なんやかんや押しに弱い俺は彼らとパーティを組むことを許可した。
彼らと出会ったのは非常に運が良かったとは思う。皆俺と気が合うし気兼ねなく話せる。そして弱くなった俺を支えてくれる役割も持ってくれた。
・・・もちろん寄生ではない。俺が基本先陣を切っていた。
情けは人のためならず、と先人の人が言っていたがまさにその通りだ。
悪役をしていた頃よりも明らかに早い速度で成長しているのだ。
そうして、わずか3日で俺はまた森のフィールドボスである毒蛇の前に来ていた。
「行きますよ!グレンさん」
「防御は俺に任せて、グレンさんは攻撃に集中していてください!」
「援助は私に任せてください!精一杯がんばります!」
俺のパーティメンバーの3人が俺を鼓舞してくれる。俺はその優しさを噛み締めながら返事をする。
「おう!!いくぞお前ら!」
後書き
グレン君、厚生。




