一方その頃(運営)
その日、ULOを作った制作会社の代表かつ部長である田中はいつもの昼休憩のティータイムを満喫していた。
「ふう、やはり休憩時の紅茶は格別だな。何度飲んでも美味しい」
バン!!
そんなことを呟いていた時、急に部長室の扉が強く開けられた。
「どうした、急に」
田中が驚いてそこを見ると、そこには焦った顔の部下、伊藤がいた。彼はこのゲームのバランス調整をしている部門の1人だ。
「どうしたもこうしたもありませんよ!!部長、想定外の事態が起きたんです。ひとまずこの映像を見てください」
そう言って伊藤がタブレットを手渡してきた。するとそこにはゲームをプレイしているパッと見普通の少年がいた。
「この少年がどうしたんだ?見た感じ確かに装備が少し変だが、それ以外に違和感を感じないぞ?」
「部長、違います。僕はその少年の容姿ではなく、ステータスの話をしているんです」
「ほう、どれどれ?」
そう言いながら、田中はその少年のステータスを確認し、表情が固まる。その少年の職業欄に書いてあってはならないものが見えたのだ。
そう、「M[初心者]」という職業が。
田中は何度か目を擦って見直すが何度見ても文字は変わらない。田中は思わず頭を抱えた。
「だから僕はゲーム開発部にこんな職業を作るなって言ったのに。あいつら悪ノリして色々要らないものまで作るから・・・」
と、伊藤が何やら呟いているが、思考が停止してしまった田中の耳には入らない。
しばらく、動かない田中に伊藤が愚痴をぶつぶつとこぼしたあと、田中の意識が戻る。
「おい、伊藤。確かこの職業って最初の頃は設定で痛覚を減らせるけど、後半になるとその設定を覆して強制的に痛覚を発生させる職業だったよな?」
「え、ああ、そうです。最初は割合増加ですが、後半は加算値になっていきます。その代わり、性能はとんでもなく上がっていきますが。ゲーム開発部の連中が法律に触れないギリギリのラインで作ったとドヤ顔で話してきて、イライラしたのでよく覚えてます」
それを聞いてまた田中は頭を抱えた。しかし、その条件を思い出してまた聞き直す。
「その代わり、めちゃくちゃ取得難易度を上げさせたはずなんだが?まず、最初の進化にしてはありえない量のHP値。それに加えてこの世界では頭の狂ったやつか、数個のスキルでしか与えられない自傷ダメージを一定量受ける。それと明記してないが、フィールドボスをソロで倒すという条件もあったはずだ」
「そうです、それで間違い無いです。その無理難題をこの少年は達成したというわけです。いやー、世の中広いですね」
そう言う伊藤の目は遠いどこかを眺めていた。
そして田中もまた胃を抑えながら頭を抱えていた。
そう、この職業何が悪いかというと序盤こそ痛覚が乗算増加で、設定で痛覚を0にしていればいいのだが、後半職業が進化していくにつれて、性能がとてつもなく上がる代わりに痛覚が乗算増加だけじゃなく加算増加もついてくるのだ。
つまり、痛覚の設定を0にしていても、それを無理やり突破してきて、痛みを発生させるのだ。さらに、普通痛覚の上限は100%で、現実世界と同じにできるのだが、この職業の場合はその上限の壁を壊すことができる。例えば、かすり傷が骨折のような痛みになる可能性があるのだ。
そしてそうなるとどうなるか。その人が痛みに耐えてくればいいのだが、痛みに耐えられずゲームを辞めた場合、最悪会社が訴えられるのである。というか、普通に訴えられる。
それを田中は危惧しているのである。
「おい、伊藤。とりあえずゲーム開発部の連中にこのことを知らせろ。そして、その職業の効果を設定を貫通しないように調整させるか何か対策を作らせろ。それと、他の悪ノリで作った職業効果の再確認、取得条件の難易度上昇、それとーーーーー」
伊藤は、その田中の指示を聞きながら「ああ、今夜は寝れないんだろうな」と思いながら、それぞれの場所に移動していく。
その日の深夜、ULOの緊急アップデートがあったのは言うまでもない。多くのユーザーは、まあ何か問題があって、自分には関係がないんだろうなと軽く流した。当然仁もその中の1人で自分には関係のないことだと思っている。
そのアップデートの原因が自分であるということも、その裏で運営の胃に穴が空き、寝不足になっていることも知らず仁はその日は眠りについた・・・
後書き
田中さん可哀想。




