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第6話:人ならざる者

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


体調を崩してしまい、しばらく筆が止まっていました。

皆様もお身体にお気をつけてお過ごしください。


 ドラゴンになってから誰かと一緒に朝を迎えるのは、初めてだった。誰かがずっとそばにいてくれるというのは心地よい。


 

 今日、準備が整い次第俺たちはこの森から旅立つ。

 

 この寝床で眠るのも今日が最後だと思うと少し寂しい。

 ずっとぐうたらしていたかったのだが、俺の正体が分からないままでは俺も世界も危ない。

 何の憂いもなくぐうたらできる世界にするために、俺は旅に出るのだ。


 

 寝床の寝心地をしみじみと味わっていると、美味しそうな匂いがしてきた。

 先に起きていたエーギルが、朝ご飯の支度をしていた。エルフの朝はとにかく早い。朝早くからちゃきちゃきとよく動く。

 

「お前は朝から元気だなぁ」

 

「そうかな?普通だと思うよ。ねぇクロ、君の朝ごはんはこれくらいで足りるかな?」

 エーギルが今朝狩ってきた獲物を見せてくれた。どれも綺麗な状態で傷が少なく、彼の狩りの腕の良さがわかる。

 

 結構な量だが、俺の胃袋を満たすには足りない。エーギルに普段の食事量を教えたら、当分の課題は食費になりそうだねとひきつった笑顔で言われた。

 俺の心臓にはマナを動力にした炉心がある。マナがある限り、つまみ程度で問題ないと伝えた。

 俺にとって食事に大切なのは量ではなく質なのだ。マナさえあれば飲まず食わずで100年以上眠れるので、ぐうたら生活に理想的なドラゴンボディだ。

 

「その()()()程度でも、人間からすればものすごい量なんだけどなあ」

 

   

「そういえばエーギル。昨夜ほとんど寝ていなかっただろう。野宿で夜を警戒するのはわかるが、ちゃんと寝ろ。俺が眠っている間は『黄金の兜』が自動発動する。俺とくっついて眠れば外敵の心配はいらん、朝までぐっすりだぞ」

 

 「頼もしいね。じゃあお言葉に甘えて、今夜からそうさせてもらおうかな。ありがとう」

 

 ……俺のこの提案が後々大変な悲劇を引き起こすことになるのだが、それはまた別の話……。


  

「ところでユニークスキルは神様から賜るものなんだけど、クロのはどの神様から賜ったの?」

 

「……分からん。チビの頃に戦闘中にレベルアップして習得したということだけは覚えている」

 

「へえ……魔物と人だと、加護を得る過程とかが違うのかな?紋様が無いからどの神かは不明だけど、クロが神様と縁があるのは確かだよ」

 

「グハハハハ!お前の願いで転生したからな!もっとすごい神かもしれないぞぉ?」


 確かにその可能性はあるね、とエーギルが真剣な顔でまた考え込んでしまった。

 深く考えずに言った冗談だったが、俺が思っている以上にユニークスキルって奴はヤバいものなのかもしれない。

 

 エーギルの話だと、6柱以外の神は聞いたことがないらしい。

 俺の「黄金の兜」は発動時に紋様が出ない。しかしユニークスキルを持つということは、何らかの神の加護を得ているということだ。神の加護を持つドラゴンがいるとなると、大騒ぎになるのは必至なので、人前では伏せておく事になった。

 


 エーギルが朝食を作っている間、ゆうべ聴いた歌「世界のはじまり」を思い出す。

 

 エーギルがこの世界の勉強がてら、俺に子守唄を歌ってくれたのだ。エルフの子供はこの歌を聞いて育つらしい。

 

 夜の森で歌うエーギルの姿はとても幻想的で美しかった。

 エーギルの銀髪と美貌が青白い月光に濡れて輝く。

 美しく透き通る彼の歌声が、夜風に乗って森中に静かに染み渡る。エルフは空気だけではなく、気中のマナも一緒に震わせる特殊な声帯をもつという。

 歌っているのは彼一人だけなのに、森そのものも歌に加わっているような不思議な響き方だった。

 海で人を惑わせるのが人魚の声ならば、森で人を惑わせる妖精の声はこういうものなのではないか……。

 

 海で歌う人魚(かのじょ)達が「人」ではないように、エルフもまた「人」ではないのだ──俺は人ならざる身でそう思った。


 ともかくあの歌は古い言葉が多く、完全に暗唱はできないが、だいたいこんな内容だった。


 ───とてもとても遠い昔、世界がまだマナのもやだった頃。世界はまだ真っ暗で、何も見えませんでした。


 最初に、光─最高神エウリジが光をもたらし、世界をまんべんなく照らしました。


 そして、土─万物と生贄の神マクフが、生物と大陸を作りました。


 つぎに、水─原初と航海の女神ケドナが、世界に海を作りました。


 この時点ではまだ世界は寒かったのです。

 そこで、火─智恵と青炎の女神アプロガが、地底に炎を巡らせ、世界を温めました。


 そして、風─天候の神ウォフザィオスは、世界に風を巡らせます。雨雲や植物の種を運び、恵みをもたらしました。

 

 最後に、闇─破壊の神ベツゴは、世界に夜と死をもたらしました。

 万物に休息を与えることで、世界が長く正しく回るようにしました。

 

 今日もこの世界は6柱の神様で世界が回っています。



 ……エーギルの解説によると、この世界は6柱の神様で回っている。

 つまり、この世界は水・火・土・風・光・闇この6属性のマナによって、万物が動いているらしい。天候や自然現象までもが。


 そして、この6属性は魔法の基礎元素だ。この世界は元いた世界と違って魔法中心の世界で、科学が全く発展していない。そのため、こちらの水道や灯りなどはすべて魔法によるものだという。

 価値観や宗教にも関わってくるので、6柱の神のことは頭に入れておいた方がいいらしい。

 


 熱々の朝食を頬張りながら、他に何か覚えておいた方がいいことはないかエーギルに聞いてみた。

 

「特にないかな、今のところは……一気に教えたら、クロはきっと忘れちゃうでしょ。だから少しずつ教えていくよ」

 万が一何かあっても、若いドラゴンだから無知でもある程度は見逃してくれるだろうとのことだった。



「腹ごしらえもしたし、そろそろ出発するか!エーギル、背中に乗れ。空を飛んでいくぞ!」

 クロは勢いよく翼を大きく広げた。

 親友を背に乗せて空を飛ぶという、前世からの密かな夢があった俺は少し浮かれていた。

 

「いや、空はよそう。クロはでかくて目立つから、絶対天使達だけじゃなくて、人間達にも狙われるよ」

 エーギルは渋い顔をしながらクロの翼を撫でる。少しでも傷つけたくないし、面倒ごとは避けたい。

 

「面倒だな。俺は悪いドラゴンじゃないぞアピールしながら、うんと早く飛べばいけるか?」

 

「見た目の時点でもうアウトなんだよなあ……」

 威風堂々とした立派な大きな黒角、禍々しい紫色の燐光を放つ四眼に、黒曜石の如く輝く黒鱗。そして山と並んでも遜色ないほどの巨体。

 そう、クロの外見は完全に邪竜のそれなのである。警戒され狙われない方がおかしい。


 

「そんなにどうしても飛びたいなら、まずは王都を目指そう」

「いきなり王都か?」

 

「クロを俺の従魔として登録するんだ。勇者の仲間と分かれば、警戒されたり攻撃されるようなことはなくなると思う。そうすれば飛んでも大丈夫だよ」

 

「おお!名案だな!そうしよう」


 とりあえず俺たちは徒歩で王都を目指すことにした。

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