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第4話:今世でもよろしく!

 エーギルの右手から溢れた光がバチバチと弾けて、いろんな光景がフラッシュバックする。


 これは───


 ……それは見慣れた光景だった。夜遅くのがらんとした薄暗い事務所。

 俺の前にあるモニターは作りかけの表計算ソフトのデータを映し出していた。

 それを目にするだけで気分が重くなる。嫌な気持ちになり、目を閉じると背後から声がした。

   

「お前はもし転生したら何になりたい?」


 それはとてもよく聞き覚えのある声だった。

 かつての「俺」は熱いコーヒーを啜りながらその質問に答えた。

 口が勝手に動く。自然と頬が緩む。


「そうだな……ドラゴンになりたい。まずは寝たいな……飽きるまで眠りたい。そんでたくさん、たくさん食う!ドラゴンは胃袋がでかいから、食いたい物を悩まず全部食えるだろ。メニュー全種類大盛りで注文してみたいな」


「ははは!お前ならその食欲で国を滅ぼせそうだな!面白そうだから、お前の転生先がドラゴンになるよう祈っておくよ。なんてな」


「簡単には滅ぼさない。美味かったら守ろう。……もしお前も異世界で一緒だったらいいな。」

 

 

 ──光が収束し、視界が元に戻っていく。


 「……ああ、思い出した。俺はミヤモトヨシユキ……」

 

 色んな記憶が一気に頭になだれ込んだが、最後のあの記憶は前世で親友と交わした会話だった。

 

 そうだ。あの時は半分冗談だった。本当にドラゴンに転生するなんて思わなかった。

 あいつの()()、凄すぎんだろ……あいつのしたり顔が目に浮かんで、思わず笑ってしまった。

 

 俺は宮本由之(よしゆき)、享年27歳だった。

 突然死というやつだった。よくわからないまま死んだが、おそらく原因は寝不足と過労死。

 心当たりがありすぎてそれしか考えられない。

 

 ドラゴンに転生した今世では、たくさん寝られて健康的かつ充実した毎日を過ごせている。

 もしも本当にあいつのおかげなら、感謝だな。



「……今のは……?いやそれよりもクロ!今なんて言った?」

 

 あ、忘れてた。こいつ(エーギル)がいたな……全部説明するのも面倒だし、適当に答えておくか。

 

「……ミヤモトヨシユキ。俺の前世での名前だ。さっきの光で前世のことを思い出した。」

  

 それを聞いたエーギルの顔色が一瞬で変わった。

 ……なんだ?これはどういう感情の顔だ?本当にこのエルフは結構感情豊かだな。


「ユキだって……?ユキ!お、俺だよ!俺!まさか今世でも会えるなんて!」

 エーギルは感動した面持ちで目に涙を滲ませながら、両手を広げて俺に抱きついてきた。

 

「突然どうした?この世界でもオレオレ詐欺があるのか?俺は騙されんぞ。」

 

「ぐっ……!そうだ、合言葉!いやこんな時の合言葉は決めていなかったな……どうしよう……」

 

「ユキ」は俺のあだ名だった。

 そして、うろたえて百面相するその様子にとてもよく見覚えがあった。

 俺の親友は、顔と体で喋っているのかと思うほど表情豊かで、今みたいに気持ちが昂ると途端に言葉が足りなくなる奴だった。

 

 ……そして、こんな時に合言葉とか言い出すなんて、前世二人でハマっていたあの作品を知っているみたいじゃないか。

 その作品にこんなシーンがある。

 異世界転生した主人公と幼馴染が、今世では敵同士の間柄。相手の正体を知らずに戦い続ける日々。

 前世よくやっていた問答を主人公が偶然したのをきっかけに、互いの正体に気付き和解する。

 その問答シーンは、ファンの間で合言葉と呼ばれている。

 

 もしかして、もしかしなくても、お前は。


 頭を抱えて悩みこむエーギルに、声をかけた。

 

「ゴホン!……その声は、我が友……シュウか?」

 

 正直に言おう、俺はあの作品の再現をやってみたかった。

 当然声は前世と全く違うが、今大切なのはこの作品を知っているかどうかだ。

 合言葉はないが、このシーンならできる。知らなければ正しく返せない。

 ……そして、俺のよく知るあいつなら絶対にノってくるはずだ!


 エーギルは一瞬驚いた顔をした後、何かを悟り、力強く頷いてキリッと顔を引き締めた。

 ああ、この感じは間違いなくあいつだ。

 

 「……いかにも。俺はお前の相棒、ウツミシュウだ」

 その瞬間、全てがカチリとはまった。


「オオォォォオオオ─────!!!」

「うおおお────!!!」

 

 勢いでハイタッチしたかったが、この体格差だ。

 

 俺はグッと我慢して喜びの雄叫びを上げた。シュウも一緒に叫んでいた。

 森じゅうの鳥や魔物が驚いて飛び去ったが、今の俺の目にはなんだか再会を祝福する華やかな桜吹雪のように映った。

 無数の鳥影が花吹雪のように降る中で、俺たちはしばらく笑い合っていた。

 

 前世些細なことで笑い合って満足していたように、今世でも多くを語り合う必要はなかった。

 その笑い方だけで、互いに目の前の相手がかつての親友であるとますます確信を持てた。

 転生して姿が異なっていても面白いほど確信を持てるのがおかしくて、ますます笑いが止まらなかった。

 

 まったく不思議な縁を感じずにはいられない。まさしくこれを運命と呼ぶのだろう。

 この世界の空はこんなにも青かったのか?一気に世界が鮮やかになった気がした。

 


「ははは……実際にやってみると恥ずかしいね、これ」

 

「……本当にシュウなのか?」

 

「うん!まさかユキが本当にドラゴンになるなんて……祈った甲斐があったよ!めっちゃくちゃかっこいい!!」

 

「ははは、よせやい……まじで祈ってくれたんだな」

 

「本当に叶うとは思わなかったけどね。また逢えて嬉しいよ。こっちではどう呼んだらいい?」

 

「……さっき名乗った通り、クロで。新しい人生をエンジョイしているからな」

 

「いい事だね。改めてよろしく、クロ。」

 

「ああこちらこそよろしく、エーギル。」

 


 ドラゴンの大きな手に小さなエルフの手が重なる。

 かくして、二人の運命は思いがけぬ形で再び交わったのであった。

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