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第14話:戸惑いの果てに

 「解析される分には構わないが……なぜだ?」


 『私はこの都市の守護者。この都市を様々な脅威から守る使命があります。』

  ユース・ユーキスの光がひときわ強く輝く。

 

 『セキュリティシステムの自動鑑定スキルで、侵入者のステータス情報を得ています。ところが、クロ様については鑑定ができませんでした。よってクロ様は警戒対象となり、この結界を展開しています。』

 そのまっすぐな光は、この都市の守護者であるという誇りと静かな警戒心に満ちたものだった。


 なるほど、この黒空間は結界だったのか。

 都市や入り口で確認しても良さそうなのに、ここに誘い込んでさりげなく結界を展開させるあたり、ユース・ユーキスがいかに用心深い守護者である事が伺える。

 

 俺にこの都市で暴れられたら困る──おそらく街並みも守護対象の一つなのだろう。

 エーギルが言っていたあの祠の魔物避けもこいつが施したものと思ってよさそうだ。

 

 500年間、この規模で都市を守り続けてきたユース・ユーキスの元になった転生石とやらは相当な代物だったみたいだな。魂の研究にも使われていたぐらいだ……ますますこの都市を滅ぼした「不測の事態」が気になってくる。


 

「言っておくが、俺は悪いドラゴンじゃないぞ。なぜ鑑定できなかったのかはわからないが」

 

「それは俺からも保証するよ。竜殺し、そして光の勇者の名に誓って、クロは悪い奴じゃない。もし悪いことをしようとしていたら俺が止める」

 自分が何者か示す身分や安全な存在である証拠もなく、うまく返せず歯痒く思っていた俺にとって、エーギルのその言葉は頼もしく嬉しいものだった。

 


『ええ、承知しております。……ですがあなたはその姿でそれほどの力を持っていながら、あまりにもドラゴンらしくないのです。例えば、ドラゴンは生まれながらにして感情の起伏が激しく、攻撃性も高いものが多いです。それなのに、あなたの目は非常に穏やかで、他の生物への興味関心がとても強い。───まるで人間のように。』

 


 何も後ろ暗いことはしていないはずなのに、とても痛いところを突かれてしまった。

 自分が迷子になっていることに初めて気づいた幼子のような気分だ。

 

 俺はエーギルと出会うまでは天涯孤独だった。

 生まれた時の記憶は大昔すぎてあまりないが、親の記憶は一切ない。一人で孵化したのだろうと思う。

 

 エーギルと出会う前、俺にあったのは「自分はドラゴンである」という自認と無限の睡眠欲、ただそれだけだった。

 そんなさなか、エーギルと出会って前世の記憶を取り戻した。

 また、エーギルの話から自分が厄災になる可能性と自分が神という大層な存在に狙われているらしいことを知った。

 

 ドラゴンと人間の生態の違いに戸惑い、自分が何者なのか揺らぐ今、ドラゴンらしくないと言われたら───俺はなんと答えれば良いのだろう?


  

「……俺はそんなにドラゴンらしくないのか?」

 その問いを口にするのに、少し勇気がいった。

    

『はい。私のデータベースにあるどのドラゴンの種族にも当てはまりません。』

その言葉にはどんな感情も、ためらいも、なかった。

 

『ドラゴンは生まれながらにしてマナを操るものです。あなたが探し求めている人化の術は、あなたほどのドラゴンなら、とても簡単なもの。教わらずとも、本能的に分かるはずなのです。』


 俺は弱々しく首を横に振った。

 俺は自分が思っている以上に、わからないことが多いのかもしれない。


『……ええ。あなたはそれがわからず、その方法を知るために探しにここまで来た。』

 光が一際、強く輝く。それは春の日差しのようにあたたかく優しい光だった。

 ユース・ユーキスは、俺に手を差し伸べてくれているのだ。


『私は、あなたを非常に興味深く感じています。さらなる“解析”の許可を頂ければ、お力になれるかもしれません。』


「……自分が何者なのか、俺も知りたい。解析を頼む。もし、何かわかったら俺とエーギルにも教えてくれ」

 俺は少し驚いたエーギルの顔を見て頷いた。

 方便とはいえ、これから俺の主人を名乗るなら知っておいて貰わなければな。

 

『かしこまりました。それでは解析を始めます。よろしいですか?』

「ああ、よろしく」

 

 ユース・ユーキスの光が感謝の意を表すように、ふわりと優しくゆらぐ。

 俺は青白い光に包まれた。



  

 ああ、光の向こうで()()は微笑んでいる──やはり光の中に誰かがいる。

 

 ……ああ、なんとなくだがわかったぞ。この光の先にいるのは……。

 

 ユース・ユーキスが生まれた時──転生石をこの守護者に転生させる際に、魔術師を取り込んで自我を得たのか。

  

 ただの“都市防衛“なら、まだ街並みを守る必要はない。

 ユース・ユーキスの使命は「都市の守護」……街並みも含めて守ろうとしている。 

 名も顔も知らぬあの魔術師は、心からこの都市を大切に思い、その身をこの都市に捧げたのだ。

 その姿勢はまるで自分の命を捧げる生贄の巫女のようだと、俺は思った。 


 

『──解析完了しました。』

 

「もう終わったのか!?もっとかかるのかと思ったぞ」

 ほとんど一瞬だった。ちくっとしたり弄られたような感覚すらなかった。

 

『解析結果ですが……あなたは正しくドラゴンでありながらそれ以上にドラゴンではない。あなたは神の子です。

 脅威的な数字と初めて見る項目ばかりでした。魂は異世界の方なのですね。興味深いことばかりです。』


「神の子……ってなんだ?比喩か何かか?」


『いいえ。比喩などではなく文字通り、そのままの意味の、神の子です。』

 

「わけわからん、どういうことだ?分かるように言え」

エーギルにもそういう名称の種族や慣用句があるか聞いたが、分からないと首を横に振るばかりだった。


 『……言い換えれば。神によって創造された存在、あるいは神と人間の間に生まれた存在と言えるかもしれません。あなたの魂の中には、通常のドラゴンには存在しない、非常に高度な知性と感情、そして力が宿っています。それは、神から受け継いだものだと考えられます。』


 「受け継いだ……だって?」

 俺は思わず自分の手を見た。見慣れた黒いドラゴンの手だ。

 この体に神の力が宿っているとは思えない。

 俺は本当に神様なのか……?

 神との繋がりについて心当たりもなければ、そんな感覚も実感も何も全くない。

 

 『神々は、時に新しい生命を創造します。あなたは大きな使命を背負っている存在である可能性が高いです。』 

  

 「クロが本当に神の子なら、厄災の件や神に追われる理由がなんとなく見えてきそうだね。ユース様、どういう神様とか経緯とかその辺りは……」

  

 『……申し訳ありません、エーギル様。これ以上はお答えできません。悪い結末を招かないためにも、詳しくはクロ様自身がご自分で探り識っていくのが最善と、解が出ました。』

 

 ユース・ユーキスは少し申し訳なさそうに光を弱めながら言った。 

『それからクロ様、あなたが望んでいた人化の術ですが……あなたの体質上、習得は非常に難しそうです。』

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