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第十一話 落ち込んでくる

 ステュクス王国行きの馬車の中で、私はパナギオティスへいくつか質問をしていた。


「アサナシオス王子殿下は、どのような方でしょう? 私は何分にも人里離れた土地に暮らしていましたから、お噂すらも聞いたことがありません」


 パナギオティスは、それはそうだろう、と言わんばかりに頷いた。


「ご不安に思われるのも無理はございません。ですが、王子殿下は、実に立派なお方です。まだ二十歳という年齢ながら、国の政務外交を司る執政官として名を馳せ、その美貌は昔から万人に褒め称えられ、少々苛烈なきらいはございますが高潔かつ公正を好むお人柄です」

「まあ……本当に、素晴らしいお方なのですね。それが」


 それが、私なんかを娶らなければならなくなるなんて、神託のせいとはいえ申し訳なくなってくる。


 アサナシオス王子はきっと、口で何と言おうと私のことを好きになることはないだろう。形式上の妻として扱ってくれるかもしれないが、私はアサナシオス王子の寵愛を受けられるとは思っていない。王子という身分であれば、それこそ女性は選び放題なのだから、目も肥えているだろうし、求めるものもレベルが高いに違いない。


 身なりも貧相で、贔屓目に見ても身分はせいぜい公女程度で、世間知らずで大して人と接したこともない女を、誰だってどう扱っていいか分からないはずだ。


 そう思うと、さすがに私も落ち込んでくる。


「王子殿下は、神託を信じておられるのでしょうか?」


 私は信じていない、そう言いたかったが、我慢する。神官長の前で、神の預言を疑うようなことは言えない。


 ただ、アサナシオス王子がどう思っているかは、聞いたっていいだろう。


 パナギオティスは淀みなく答える。


「もちろん、王子殿下は……いえ」

「何か?」

「ここだけの話なのですが……我々ステュクス神殿と、王子殿下は対立しております」


 えっ、と私は驚きの声を漏らす。突然何を言い出すのか、と思っているうちに、パナギオティスは話を続ける。


「王子殿下はステュクス王国の要職に就くお方。ステュクス神殿の神託に、自らの指揮する政治へ口出しされることが、お嫌いのご様子。無論、それはこちらも分かっております、しかし主神ステュクスの言葉は絶対。伝えぬわけにはまいりません。表面上は穏やかですが、どうしても争うこともございます」

「そう、なのですか」


 私は一気に不安になってきた。パナギオティスの言葉が事実であれば、アサナシオス王子は、神託を快く思っていない。結婚相手さえ決められて、きっと怒っている。私のことなど、神託のせいで結婚させられた女と思い、遠ざけ、邪険にすることも考えられる。


 何だか、先行きはとても不安だ。分かっていても、つらい。


 私はステュクス王国へ行きたくなくてたまらないのに、無情にも馬車は着実にステュクス王国へ向かっていった。

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