きぎょうどうしもなかよし
きぎょうどうしをなかよくさせるおはなしです。
少女はこのチカラの『対象が個人とは限られない』ということに気づいてから、いろいろなものを『なかよし』にしようとためした。
例えば《国のみんな国のみんなと仲良くなれ》や《世界のみんな世界のみんなと仲良くなれ》などだ。
ところがチカラが発動した気配はなく、実際、その効果もなかった。
最初のうちは(大きなチカラを使ったあとだからだろうか?)もしくは(対象の範囲が広すぎる?)などと考えていた。
しかし、例えば近所のお店や町の人たちをなかよしにさせることはできたので、その考えも間違っていたと気づいた。
そうやって試行錯誤しいるときのことだ、たまたま違う街にでかけたときに喧嘩している人たちを見かけた。
だから《そこで喧嘩をしているグループの人喧嘩をしているグループと仲良くなれ》とやってみたのだが、効果が現れなかった。
人数は数人程度の小規模で、そこまで大きな喧嘩をしていたわけでもないのに。
だから仕方なく一緒に来ていた友達と仲裁に一緒に入っていった。
彼らを仲裁しているうちに、喧嘩しているのは大学のボランティアグループと町内会の清掃チームの人たちで、作業範囲で揉めているがわかった。
(なんで同じ目的を持っているのに仲良くできないんだろう・・・)
そう思いながら話しているうちに、《ボランティアの人達と町内会の人たちなかよくしてください》という言葉が出た。
その言葉をきっかけに、急に彼らは喧嘩を止めた。
彼らはお互いに怒っていたことを反省し、そしてなかよく清掃作業を始めた。
少女たちにも仲裁に入ってくれたことを感謝しているようだった。
そこで少女はこのチカラについてあらためて考えた。
そして彼が『この力は君の想いの強さと連動する』といっていたのを思い出した。
(私が彼のことを識って本当にやめてほしいと思ったから?)
はじめにチカラを使おうとした時は、少女にそんなに強い想いはなかった。
実際に彼らは見知らぬ街の見知らぬ住人であり、無視しても少女にはなんの影響もなかったからだ。
だからはじめにチカラを使おうとした時はちょっとした気持ちだったのだ。
そこでよくわからないけど喧嘩をしているし止めようという本当に軽い気持ち。
(このチカラをもっと使うためには、心の底から本当に喧嘩を止めさせたいと想わないといけない?)
ただ想いというのはそう簡単に高まるものではない。
(私は世界中の人達のことをもっと識る必要がある。ただ、そのためには何をすればいいのだろう・・・)
少女は途方に暮れるのだった。
どうやってみんなのことを識るか、そんなことを考えていたときだ。
最近いつも幸せそうだった少女の父親が珍しく落ち込んだ顔をしていた。
「どうしたのお父さん、落ち込んだ顔をして?」
「あれ、顔に出ちゃってたかなごめんね」
はじめのうちこそ「君にはまだ早いと思うんだけど」そんな事を言いっていたが、催促するとポツポツと話しはじめた。
父親の勤めている企業と競合する製品を作っている敵対企業があるらしく、最近その対立が激しくなってきたらしい。
壮烈な値下げ合戦や、時には嫌がらせじみた行為もあるようだ。
「なんでそんなひどいことをするんだろう」と少女は心を痛めた。
少女は父親の会社は識っていた。
昔は色々ときついこともあったのだが、少女がチカラを使ってからはみんな朗らかないい人たちになった。
そして、たまに少女も父親の会社に行くことがあった。
主に母親がせっかく作ったお弁当を忘れて、父親が電話で泣きついてきたときなどではあったが。
だから少女は頑張ろうと思った。
(絶対にお父さんが勤めている会社と敵対企業をなかよくさせてやるんだ)
そう思ってまずは《お父さんの会社敵対企業となかよくなれ》と言ってみた。
もちろん少女はすぐに成功するとは思っていなかった。
なぜならお父さんの会社は識っていても敵対企業のことは何も識らなかったからだ。
次に少女がやったことはスマホなどで敵対企業のことを調べることだった。
敵対企業の社長の理念や企業情報を頭に叩き込んでいく。
少女には難しい言葉もたくさんあったが、それでもなかよくさせたいという気持ちは本物だったから、辞書などを引きながら朝から晩まで調べ尽くした。
そうして数日後、改めて言った。
《お父さんの会社敵対企業となかよくなれ》
しかし、チカラは発動しなかった。
「どうして発動しないんだろう?」
(企業というものがよくわかっていないからだろうか?)
しかしそれは父親の企業の全員をなかよくさせることができたから違うように思えた。
これ以上敵対企業のことを識ることはかなり難しいことに思えた。
少女は最初にあった勢いと心が、少しだけ折れそうになった。
(勝手に企業を訪問するのは難しいだろうし)
そうやって悩んでいるうちに学校でこんな事があった。
「今度の社会見学で企業を訪問することになりました。
訪問する企業はここです」
訪問企業はずっと調べていた敵対企業だった。
まさに棚からぼた餅とはこの事を言うのだろう。
少女は喜んだ。
そして入念な準備をして、当日を迎えた。
訪問した企業はなかよくした企業とは雰囲気が違うように思えた。
なんというのだろうか、出会う人みんなが以前の父親の会社のように、欲というものががそこかしこなくはびこっているように思えた。
案内してくれる人も態度こそ丁重なものの、やはりどこかなにかに執着しているような違和感を覚えた。
そして最後にその企業の社長が簡単な挨拶をしてくれたところでそれは確信に変わった。
企業のホームページでは『社会貢献』や『エコロジー』、『お客様からの信頼』と言った言葉で装飾されていたが、結局のところ彼らはお金がほしいだけなのだ。
きれいな挨拶をする企業の社長も目には欲望が透けて見えるようだった。
(そういうことだったのね)
企業のホームページなどの外部に出るところの情報はきれいな情報しか出てこないのだ。
だからいくら調べてもチカラは発動しなかった。
少女は社会見学から戻ると早速チカラを使った。
《お父さんの企業と今日言った企業仲良くなれ》
今度こそチカラが発動した気配があった。
そして企業同士は仲良くなった。
それからひと月も立たないときだろうか。
たまたま置いてあった新聞を眺めていたときにそれを見た。
どうも父親の勤めている会社と元敵対企業が合併することになったらしい。
それを見て少女は「ふふっ」と笑った。