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かていもなかよし

家庭をなかよしにするお話です。

あるところに一人の少女がいた。

少女は常々思っていた。

「どうしてみんな仲良くできないんだろう?」

なぜかというと少女の周りでは喧嘩やイジメが絶えなかったからだ。

学校に行けば。

「よくもやったな!ぶっ殺すぞ!」

なんて言葉が聞こえてきたり。

ただ泣いてばかりいる子供に、暴力を振るっている光景などをよく見た。

家にいれば両親は。

「なんでお前はこんな事もできないんだ!」

「うるさいわね、あなたこそ大した給料も稼げないくせに何様のつもり!」

などと口うるさく喧嘩していて、聞くに堪えなかった。

ときには暴力も振るわれて、その時少女は耳を塞いで布団をかぶっていることしかできなかった。

少女は平和を願っていてもそれを行使する強い力も意志もなかった。

だからいつもこう願っていた。

「神様、どうか世界中の争いがなくなりますように。みんな仲良しになれますように・・・」

そんなことを願っても無駄なことはわかる年齢ではあったが、願わずに入られなかった。

「痛いのはイヤ、苦しいのもイヤ」

「でも他の人達が争っている姿を見るのはもっとイヤ」

学校のいじめや両親の喧嘩はエスカレートするばかり。

このままで本当にいいんだろうか?

そんなことを考えていながら、でも、何もできないで悶々とした日々を過ごしていた。

そしてある時火がついた。

両親の喧嘩とはもう言えないような事態になったのだ。

母親が包丁を取り出し父親に突きつけてながら言った。

「あなたが悪いのよ、ロクに稼ぎもしないのにいつも文句ばかり」

父親も包丁を突きつけられて多少日和ってはいるが、負けじと言い返す。

「うるさい!俺はATMか?誰の給料で食わせてもらっていると思っているんだ!」

こちらは素手なので多少頼りないが、それでも力では勝っているだろう。

このままでは少なくともどちらかが怪我、悪ければ死人が出るだろう。

一方少女はと言うと。

「あ・・・あ・・・」

などとつぶやきながらどうにもできないようだ。

とは言え、ここで少女にできることと言ったら「お父さん、お母さんどっちもやめて!」などと叫ぶぐらいなのだろうが。

そんなこともできないぐらいに混乱しているようだ。

代わりに出た言葉はこれだけだった。

「神様・・・助けて・・・」

少女は両親に訴えかけることもできず、日頃祈ってばかりいた癖だろうか?

見たこともない神様に助けを求めていた。

当然こんなことに首を突っ込む神様なんて言うものはいない。

そして無慈悲にも両親がともに最悪の状態へ突入しようとしたその時だった。


「助けてほしいの?」


急に割って入った見知らぬ声に少女は思わずつぶっていた目を恐る恐る開いた。

そこにはなんとも言えない生き物?がいた。


いや、それよりも両親はどうなった?

思わずそちらを見ると両親はまるで時間が止まったかのように動かない。


「ああ、そっちは気にしなくていいよ。時間を止めたわけじゃないけど。このあたりの要素を一時的に修正して極端に遅延させているから」

そんなことを言うとひょいと近くのテーブルに飛び乗った。

「ちょっと目線の高さが違うからね、失礼かもしれないけどここから話させてもらうよ」

少女はビクビクしながら、しかしながらその何とも言えない生き物に助けてもらったのは確かなようなので恐る恐るうなずいた。


「ああ、僕の姿が気になるの?本当は人間っぽい姿もできるんだけど、それをすると天使だ悪魔だって騒がれちゃったりするからね」

できるだけ目立たない姿をしているんだ。

(そういう理由ならもっと犬や猫に近い姿をすればいいのに・・・)

極端な緊張から解き放たれた少女はそんなくだらないことを思っていた。

確かにこのなんとも言えない生き物は、あえて言うとすれば小さな猫と鹿をかけ合わせ多様な姿をしていた。

そんなことをぼうっと考えていた少女は、止まったままの両親の姿を見て、はっと我に返った。

「お母さんとお父さんが喧嘩しているのを止めてくれるの?」

「まあ多少語弊があるけど、端的に言うとそうだね」

「本当に!」

少女は思わず何とも言えない生き物に近づいた。

「君には警戒心というものがないのかい?」

そんなことをぼやきながら何とも言えない生き物はふるふると首を振った。

「だって・・・」

「僕が善人かどうかもわからないうちから気を許すのは良くないよ」

そう言って彼女の頭を前足てポンポンと叩いた。

そんなことを言う、なんとも言えない生き物は少なくとも善かどうかは置いておいて『人』の姿ではないのだが。

「そんなわけで君の願いを聞いてあげたいところだけど、僕にも制約があってね。

僕自身は『直接』人に介入することはできないんだよ。」

「じゃあ・・・」

(どうすればいいの?)

という言葉を少女は飲み込んだ

途中で、『直接』という言葉に気がついたのだ。

「私に・・・私に協力してくれるんですか?」

「そのとおり」

「よく気づいたね」と彼?は続けた。

「僕は君に協力することができる、特定の条件のもとでなら」

「どうすれば協力してくれるの?」

「簡単なことだよ。僕には喧嘩を止める力がある。

ただし自分の意志では力を使えない。

---そして君は喧嘩を止めたい。」

「私が頼めば喧嘩を止めてくれるの?」

彼は首を振った。

「ちょっと解釈が違うかな、行うのは力の貸与だよ」

「つまり私があなたの力を使えるということ?」

「その通り」今度はうなずきながら彼は言った。

「もちろん条件付きだけどね」

やっぱりと少女は思った。

そんなに簡単な話があるはずがないと思っていたからだ。

「どんな対価を払えばいいんですか?」

「対価?それは違うね」

彼はまた首を振った。

「対価ではなくて条件だ。力を使う上でのね。」

彼は雄弁に続ける。

「つまりこういうことさ、僕は君が言うところの『喧嘩を止める』つまり相手の悪感情を止める力を持っている。そしてその発動条件は『対象と対象仲良くなれ』という言葉がキーになっている」

「そして君と僕との力を受け渡す上での条件は『生涯君ができる限り喧嘩を止めて回ること』これだけだ」

「つまり私は両親の喧嘩を止めさせてくれる代わりに、他の人達がしている喧嘩も止めてほしいってことでいいの?」

それは少女の願いそのものだった。

「まあ大体あってるよ。この世界の言葉は難しいけど、そこまで理解してくれれば力の貸与を行うのに問題ない」

「覚悟はあるかい?」そう言って彼は前足を差し出した。

少女は迷った。

「本当に騙してないの?こんなにいい条件なんて・・・」

彼はちょっと首を傾げた。

「そんなにいい条件かな?『生涯君ができる限り喧嘩を止めて回ること』これはけっこう大変だよ?それに、この力は君の想いの強さと連動する」

「つまり、君が本当に喧嘩を止めてほしいと思わない限り発動はしないってことさ」

「わかりました、その条件は私の願いそのものだもの。

『世界中の喧嘩を止めてやる』それぐらいのつもりでやってみる」

「願ってもない」と彼はうなずいた。

「ただし効力は君が存命の間だけだ。他の『誰か力を引き渡す』ことなんてことはできないから気をつけてね」

「悪用なんてされたらいけないからね」と彼は自分言葉にうなずいた。

「力の貸与というのはどうすればいいの?」

「君も手を出して」

少女が彼の前に手を出すと彼は少女と手を繋いだ。

「ハイ握手」そして少女に『チカラ』が伝わった。

少女は自分の中にとてつもない、しかし聞いた通りの力が流れ込んでくるのを感じた。

「『チカラ』を受け取った気分はどうだい?」

少女は力強くうなずいた。

そう、少女はもう何もできない子供ではなくなったのだ。

「それじゃあ君の初仕事だ」

彼は少女の両親に視線を送った。

「要素をいじったのは一時的なものだから、もうすぐ動き出す」

そして彼女はこう言った。

《お母さんとお父さん仲良くなれ!》

発動の効果は地味なものだった。

だがたしかに『チカラ』が伝わった感触が少女にはあった。

「どうやらうまくできたようだね。」

「じゃあ要素を戻すよ」そう言って、時間が動き出すとともに彼は消えてしまった。

そして目の前の両親はお互いになぜ喧嘩していたのかわからないといった具合で動揺していた。

しかし喧嘩を続ける気はもうなさそうだ。

少女は自分のチカラに満足した。

「お母さん、お父さんもう喧嘩しなくてもいいんだよ」

彼女はニッコリと微笑んで両親に言った。


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