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レオンティエンとして

  

  

 国王の御前で壮年の男の怒声が響くと、拘束されている若い青年の弱々しい謝罪の声が小さく漏れる。

 青年の横で震え上がる拘束されている少女が、泣きながら何度も自分に助けを求める。だが、自分は睨んで拒む。

 当然だ。この二人は自分に罪を擦り付けようとしたのだから。

 しかも、動機が酷い。自分との婚約を白紙にする為に行ったのだ。



 事の始まりは数時間前。王城の伝令から齎された。

 ――神殿で神杖が破壊された。破壊した犯人は、宮廷魔導士のレオンティエン。

 この知らせを聞いて、自分は首を傾げ、手に持っている先端に白く半透明の鉱石が付いた杖を見た。

 その杖、自分が今持っているんだけど。どうなっているんだろう。隣にいる二人の壮年の男性と顔を見合わせる。

 片方の男性は三年前に何故か唐突に決まった、婚約者の父にして、王国に五人しかいない宮廷魔導士の一人で、同僚でもある、セードルフ公爵だ。

 もう一人はこの国の宰相である、クラーセン侯爵だ。国王とは幼馴染何だとか。



 数時間前、王都の魔物除けの結界の点検業務で、神殿から借り受けた、神杖片手に王都の外壁にいた。

 正式な公務で有り、結界の点検中に老化している箇所が有れば、いつ交換するか、どこまで持つか、交換もしくは補強の費用はどれぐらいかかるか、話し合いながらの仕事である。監督の宰相は財務大臣との打ち合わせをどう行うか悩んでいる。

 さて、何故自分は神殿に祀られている杖を持っているのかと言うと、王都の魔物除けの不可視の結界を常時展開している聖結晶なる石に魔力を補充する為だ。王都の七ヶ所に存在するこの石はどう言う訳か、神杖経由でなければ魔力を溜め込む事が出来ない。

 個人的な推測では、『聖結晶は魔力が溜め込めない性質を持った特殊な鉱石』だと思っている。気になり鉱物鑑定のスキル魔法で調査した結果、推測通り魔力が溜め込めない鉱石だった。しかし、判明したのはそれだけではなかった。 

 鑑定結果を見て驚いた。『神聖魔力変換』と言う珍しい性質を持っていたのだ。『神聖魔力』とは、『祈りの銀光』とも呼ばれる、魔力に別の性質を与えた、特殊な魔力を指す。非常に分かりにくいが要は『魔物が嫌う神聖な力』である。

 自分が持っている『霊力』に似ているようで微妙に違うので、機会があれば聖結晶と一緒に調べたい。

 聖結晶自体はほぼ見つからない為、自力で探さねばならないが。

 ん? 『霊力』とは何かって? 『浄化の砂金』と呼ばれる金色の魔力と似ているが違う力の事で、自分が所有している力の一種だ。

 機会があれば、いつか語るよ。説明が面倒で逃げた訳じゃないからね。

 この世界だと使う機会がないから、説明する機会がないんだからね。……本当だよ?

 


 閑話休題。

 話を戻そう。

 神殿から正式な手続きを行って杖を借りた。監督として宰相がいる。これは国王も神殿の司祭長も知っている……と言うか貸し出し現場にいた。本当はいなくてもいいのだが、『サボりたい』とやって来た。司祭長にお茶を要求した直後、王妃の命令でやって来た近衛騎士団長に捕まり、執務室に泣く泣く連行されて行った。後で茶菓子を差し入れるか。

 自分が杖を破壊したと、伝えて来た伝令にその杖を見せると愕然とした。当然だ。本物が無事なのに、何故壊れたなどと言う知らせが入って来るのか――そう言えば、と思い出す。本物は一つしか存在しないが、偽物なら一つだけ存在した。

 神殿には、一般公開用の偽物の神杖が存在する。完全な飾りとなっているので警備人もいない。だって偽物だから。

 第一発見者は誰なのか。どこにあった杖が破壊されたのか、伝令に尋ねたら全ての謎が解けた。

「ヘリット・セードルフ公爵令息とカトリーン・ヴァンダム子爵令嬢の二名です。杖があった場所ですが、一般公開されている場所だったと」

「ああ~……ついにやったか」

 今回の事件の犯人は、浮気男と寝取り元妹のバカ二名である。知能犯も驚愕するほどの、杜撰過ぎる計画だ。

 頭を抱えていると、公爵と宰相に何が分かったのか尋ねられ、推測を交えて答えた。

「縁を切った元妹は、何かにつけて私のものを欲しがります。今度は、婚約者のヘリット殿が欲しくなったのでしょう。婚約直後から、縁を切ったのに妹だと言ってヘリット殿に付きまとっていましたから。元妹は彼と婚約する為に、今回の事を起こしたのでしょう。目的は私に罪を擦り付けて解消させるためでしょう。――しかし、ここまでバカだったとは」

「我が息子ながら申し訳ない。婚約は当家有責で解消とし、息子には即刻、勘当を言い渡す」

「と言うか、神殿で一般公開されている杖が、偽物であるのは有名ではないが広く知れているぞ。警備がない時点で、本物に気づかんとか、呆れる」

 三人でため息を吐く。伝令は、どうなってんの? みたいな顔をしている。

 宰相が第一発見者の二人の拘束を、伝令経由で騎士団に命じた。

 国王と司祭長に連絡、元両親の呼び出しも行う。

 さて、忙しくなって来た。



 宰相主導の元、表敬訪問などで使われる小広間に関係者が集められた。

 国王、宰相、司祭長、セードルフ公爵、ヴァンダム子爵夫妻、実行犯のバカ二人。そして、自分。正式な裁判でないからか、集まった人数は少数だった。

 拘束され、床に転がされているバカ二人は、自分が神杖片手に小広間に入ると口を半開きにして間抜けな顔を晒した。

「お姉様、その杖は?」

 元妹は声を震わせながら訊ねて来る。

「姉と呼ぶな元妹。これは本物だ」

 バッサリ切って捨て、本物をよく見えるように掲げる。

「嘘、壊したのに!?」

「そ、そんなっ!?」

 二人は愕然として叫んだ。そんな二人を見て、玉座に座った国王と傍に立つ宰相は呆れた。

「自白したな」「しましたな」

 自白した事に気付いていない二名は愕然としたまま固まっている。

 執務中に急遽呼び出しを喰らった国王は、非常に不機嫌だった。話してみると、割と愉快な人なんだけどね。

「はぁ~、これ余が裁定を下さねばならんのか? 司祭長でもよくないか?」

「陛下、駄目ですぞ。偽物とは言え、神杖を破壊したのですから」

「宰相の仰る通りです。犯人の片方は、三男とは言え公爵家の人間なのですからな」

「……申し訳ございません、陛下」

 既にやる気が無くてダレる国王。窘める宰相と司祭長。責任を感じる公爵。

 だが、状況が理解出来ていない人間がいた。自分の元両親――ヴァンダム子爵夫妻だ。状況が理解出来ずとも不穏な空気は感じ取れたらしい。不機嫌な王を見てからの発言は愚かしいの一言に尽きるが。

「さ、宰相閣下。娘が神杖を破壊など、行うはずが有りません!」

「そうですわ! 家を出たそこの女が、罪を擦り付けたに違いありません!」

 自分を含めた五人で、子爵夫妻に呆れの視線を送る。夫妻はそろって顔を青くするが、視線の送り主に自分がいる事に気付いて、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

「親に向かって何て態度を取るのよ! 妹に罪を擦り付けて恥ずかしいと思わないの、この愚図!」

「そうだぞ! 魔法がちょっと使えるぐらいで、醜女(しこめ)が調子に乗るな!」

 何言ってんの。状況を理解出来ていない暴言に、額に手を当ててため息を吐いていると、ダレていた王もさすがに怒鳴る。

「黙らぬか! 愚図はむしろ、貴様らであろう!」

 小さく悲鳴を上げて、子爵夫妻は震え上がった。さすがは王様。態度の切り替えが早い。

 頭が痛いと言わんばかりの顔をして、王はこめかみをさすった。早々に終わらせるぞと、宰相に説明を命じる。

「宰相。そこの猿でも分かるように状況の説明をせよ」

「承りました。では、順を追って説明致します」

 子爵夫妻が猿扱いされているが、誰も気にしない。

 命を受けた宰相の説明は簡潔で解り易かった。

 床に転がる二人が、自分が一般公開されている神杖を破壊したと、神殿に通報。

 司祭の一人が伝令兵を使って宰相に報告。

 ところがどっこい。自分は宰相と公爵と一緒にいた。貸し出し時にもいた為、そのまま証人になる。

 第一発見者の名前と自分の推測を聞き、各所に連絡と捕縛の命令を出し、今に至る。

 司祭長から追加で、監視カメラのように映像を記録する魔法具による『破壊の瞬間映像』が広間で公開された。音声付きな為、バカ二人の会話もばっちり聞こえる。



「これを壊して、お姉様に濡れ衣着せれば婚約破棄できるよ」

「うん、これで君と婚約できるね」

「よし、やろうか」

「「せーの」」

 ガッシャン!

「職員の方! 大変、大変よ! 神杖が破壊されたわ!」

 


 そこで映像は途切れた。

「以上が、神殿からの報告になります」

 司祭長の冷めた視線が、子爵夫妻に突き刺さる。

 更に『破壊された一般公開用の偽物』が物的証拠として提出される。柄が真ん中から折れ、先端にも皹が入っている。

 自分が未だに持っている本物と比べると、所々微妙に違う。最大の違いは、先端の鉱石が、偽物だと色のない透明なガラスになっている。

「神殿で一般公開されている神杖は偽物である。有名ではないが、広く知られている話で、平民が知らぬなら分かるが、貴族の子女が知らぬとはどうなっているのだ?」

 王の言葉に、床に転がるバカ二人は恥ずかしそうに俯く。暴言を吐いた子爵夫妻も羞恥で顔を真っ赤にしている。

 貴族なら知っていて当然と、王がはっきりと言ったのだ。つまり、知らないと恥ずかしい常識である。

「公爵。お主の三男が庶子である事は知っている。だがな、引き取ってから十年以上もたっているだろう。十年以上も公爵家にいたというのに、どういう教育を施したのだ?」

「え……」

 元妹が、自分の元婚約者が庶子だと知って小さく声を上げ、一緒に転がっているバカを見た。

「申し訳ございません。長男次男と同じ教育を施そうとしたのですが、妻と先代に『不要』と止められてしまい、最低限しか施していないのです。レオンティエン嬢と婚約させる為に『必要』になると無理を言って押し通し、三年ほど前から教育を始めていた所になります」

 公爵は頭を下げて、懺悔にも似た悔恨を口にする。王は先代と聞いた瞬間、色々と察して納得し、深く同情した。

「ああ……。あの先代が出しゃばっては、教育なんぞ難しいだろう」

「むしろ、婿入りなのに、よく押し通せましたな」

「あの灰燼(かいじん)炎魔王(えんまおう)相手に、よく頑張りましたな」

「それでも、結果がこれでは。何と不憫な」

 宰相、司祭長と共に、公爵に同情する。司祭長に至っては目元にハンカチを当てている。

 先代セードルフ公爵は魔王と呼ばれる程に苛烈な性格をしており、三十年前の隣国の戦争で他の追随を許さぬ功績を打ち立てた人物だ。炎の魔法を最も得意とし、敵兵を焼き尽くしていた事から『灰燼の炎魔王』の異名が付いた。

 爵位を娘婿に譲った後は、国境騎士団に移動し、隣国に睨みを利かせている。

 自分の教育の裏事情を知ったバカは、後悔の表情を浮かべる事もなく、固まっていた。

 自分も先代公爵に何度か会った事はある――と言うよりも、家と縁を切った後に後見を名乗り出てくれたのだ。数多の人間に恐れられる老兵だが、意味もなく暴力を振るうような性格もしていないので、元両親に比べれば付き合いやすかった。

 無能であっても(捨て駒か使い潰す事前提で)使い所はある。そう言って、身分で差別せず、無能な人間を嫌わない人物であった。性格は苛烈だが、それなりに慕われている。

 その先代に教育不要と言われていた事実は重い。使い処が一切存在しないと言われているようなものだ。現状を見るに妥当としか感想が浮かばない。

 公爵家の意外な教育事情を聴き終え、次に子爵に水を向ける。

「あー、ヴァンダム子爵。貴様は娘にどのような教育を――いや、聞いても無駄か。レオンティエン。子爵令嬢がどう勉強していたか知っているか?」

 国王は子爵に問いかけたが、何かを思い出し、自分に問うて来た。先の発言から『教育した』以外に何も言わないと察したのだろう。彼らが先に口を開くよりも先に、回答する。

「はい。家庭教師がつけられ、貴族令嬢としての教育は受けたと思います。が」

 そこで、一度止める。妹がどんだけ馬鹿かを思い出すと頭が痛い。

「勉強よりも遊びたい、お茶がしたいと授業を放り出し、授業内容が分からずついていけないと『上手く教えられない家庭教師が悪い』と子爵夫妻に泣きついて家庭教師を変えてもらう事、実に六回。ダンスやマナーといった淑女教育授業も上手くできずに叱られると、号泣し始める。自分と比べられてさらに号泣し、挙句の果てには『姉が悪い』と喚きだす始末でした」

 子爵家にいた頃を思い出すと、マジで頭が痛いな。自分が宮廷魔導士になったのも、早く家から出たかった結果だし。

「想像以上に酷いのう」

「家庭教師をそこまで変えるとは、醜聞並みの問題ではないか」

「そもそも、姉が悪いと言うより、親が悪いの間違いでしょうに」

「そのような教育環境では、知らぬのも無理有りませんな」

 妹を侮辱するなと、子爵は喚きたそうな顔をしているが宰相に睨まれて黙る。喚いたとしても、常識知らずで教養がない事が発覚している時点で、述べた事は事実であり、侮辱の言葉ではないと捉えられるだろう。

 王はかったるいと言わんばかりの態度を取り、まとめに入った。

「此度の一件だが、レオンティエンは朝からずっと王都の結界点検の業務に入っていた。本物の神杖の貸し出し手続きには、余と宰相と司祭長に公爵の四名ほか、神殿職員が立ち会っている。司祭長に通報が入った前後数時間の間にレオンティエンが神殿にいたか確認を取ったが、職員は誰一人として見ていない。代わりに、宰相と公爵が朝から共にいたと証言している。それに引き換え、通報前後の時間に神殿の一般公開部屋にいたのは、そこの二人だけだ。状況を考えても、そこの二人が実行したとしか思えぬ。ま、始まる前に『壊したのに』と子爵令嬢が自白しておる上に、証拠映像も有るから、検証する必要もないがな」

 王はそこで一度切り、床に転がる二人を眺めた。娘が自白済みと知った子爵夫妻は床にへたり込んだ。

「さて、やらかしの動機を聞くとしようか」

 減刑はないがな、そう小さく呟いて、王は退屈そうに欠伸をした。



 そして、冒頭に戻る。経緯を思い出すと、頭が痛い。

 偽物の神杖破壊の動機は、予想通り『自分との婚約を白紙にする』だった。

 セードルフ公爵は息子を何度か叱り飛ばし、元妹は馬鹿な事に自分に助けを求めて来る。減刑はなしと既に決まっているので意味はない。ヴァンダム子爵夫妻もそれが分かっていないのか、助けないのか、家族だろうと、自分を非難する。

 だが、逆に王に自分が家と縁を切るまでのやらかしについて追及され、隠れてやっていた後ろ暗い事まで指摘される始末。加えて、縁は既に切れていると断言され、後ろ暗い事の調査と言う名目で拘束され、衛兵に連行された。

 何となく国王の顔を見ると、非常にいい笑顔で頷かれた。

 これは、他の家にも何かしらの処分が下るな。そんな予感がする笑顔だった。

 ヴァンダム子爵夫妻が退場した後、セードルフ公爵親子が言葉を交わす。父は痛恨の極みと言わんばかりの顔をしているが、息子はこれから下されるであろう処罰におびえていた。

「ヘリット。レオンティエンが王に願い出て、生家と縁を切っている事は教えたぞ。その証拠に何年も家に帰っておらず、魔法師団の寮で一人暮らしている。お前も何度か寮に出向いただろう」

「はい。確かに、彼女の寮部屋に足を踏み入れた事があります」

「家族とは何年も会っていない。今後も会うつもりも予定もない。その発言も忘れたのか」

「忘れていません。でも、カトリーンが泣いて虐められたと何度も訴えて来るので、事実だと思いました」

「泣いていたから事実だと思った? レオンティエンに確認をしたのか?」

「しておりません」

「していないのに、何故事実と思い込んだ? この三年間、お前はいったいどこを見ていたのだ。泣けば何でもかんでも事実になる訳ないだろう!」

「ひぃ。そそれは、その、も、申し訳ございません父上」

「今更、父に謝罪してどうする。謝罪をするのなら、レオンティエンだろう」

 国王、宰相、司祭長と一緒に公爵を憐れんでいたら、何故か自分に矛先がやって来た。浮気男はしどろもどろになりながら、謝罪の言葉を口にする。

「レオン、ティエン。その……ごめんなさい」

「その『ごめんなさい』は何についてなの?」

「え?」

 ピシリ、と浮気男の動きが固まった。

 どうやら、ごめんなさい、とでも言えば口にしていない全てを許してもらえると思ったのだろう。許す気はないが。

 一呼吸を置いてから追及を始める。

「元妹と足繫く密会していた事? 自虐と嘘を信じた事? 冤罪をかけようとした事? 浮気をしていた事? 私の家族とはもう会わないって言う発言を忘れた事? それとも、二年前から仕事が休みの日に誘っても、嘘をついて断って元妹と密会していた事? 違うなら、パーティで一度もエスコートしてくれなかった事? もしくは、王都の酒場『月光便り』で私との婚約は嫌だと愚痴っていた事? それでもないなら、誕生日のプレゼント、元妹の方を高額商品にしていた事? これも違うなら――」

「待て。待ちなさい」

 推測を片っ端から上げて行ったら、司祭長から待ったがかかった。

「レオンティエン。君はヴァンダム子爵令嬢が、いつからセードルフ公爵令息と会っていたか知っていたのか?」

「ええ」

「何故、対策を取らなかったのだ?」

「二人が出会った時点で問題が発生していそうでしたので」

「何が問題なのだ?」

 男性四人が首を傾げている。

 女の自分が言うのは問題ありそうだが、少し(ぼか)しててでも言ってしまった方がいいだろう。

「二年半前に王都西の四番住宅街の貸屋敷で行われた、ガリットソン伯爵主催の『仮面舞踏会』でこの二人は知り合いました」

 合っているでしょう、と転がっている二人に視線を向けると、寝取り女が、待って、と声を上げた。しかし、王の疑問でかき消される。

「仮面舞踏会と言うと、ダンス練習のあれか?」

「陛下。恐らくですが、この会話の流れだと、まったく違う別ものでしょう」

 宰相の言葉を肯定してから続ける。バカ二人が、待って、止めて、と騒ぐが無視する。

「全く持ってそうです。ダンスそっちのけでいい事をする、そっちです」

「「「なっ!?」」」

 王と司祭長が驚く。公爵は頭を抱えた。宰相はやっぱりかと納得していた。転がっている二人は酷く狼狽している。

 元妹は泣いて金切り声を上げる。

「酷い、何で言うのよ! 何で虐めるのよ! 酷いよぉっ!」

 ビタンビタンと暴れるバカを無視して、宰相に尋ねる。

「これ、虐めに入りますか?」

「虐めと言うか、自業自得にしかみえん」

 宰相の即答に、バカは更に大声で泣き始めた。

「それ以前に、そこの娘はまだ十六歳だろう? 二年半前って事はまだ十四歳、いや、下手をすると十三歳だぞ。そんな子供が一体どうやって、潜り込んだのだ?」

「うっ」

 王のよく通る声は大声と言う訳ではないが、泣き声よりもはっきりと良く聞こえた。現に元妹も不味いと気づいて、声を詰まらせる。都合の悪い疑問を泣いて誤魔化す事しか考えていないのか、目に涙を溜め始めたが、宰相の無慈悲な回答で止まった。

「大方、親に付いて行ったのか、連れていかれたのでしょう。運が良ければ高位貴族と関係を持てますからな」

「宰相よ。為政者として困る回答を口にするな」

 王は苦虫を噛み潰したかのような顔をするが、宰相は手を緩めない。

「ですが、他にも実例があります。去年、十六と言う年齢で式を上げた伯爵令息の一件をお忘れですかな?」

「……あれか。異様に若くして式を上げるから何故かと思ったが、そんな裏事情があったのか」

「彼は若いから注目を浴びましたが、ここ十数年、同じ裏事情での婚約の破棄や解消、再婚約と挙式の数が右肩上がりです」

「そろそろ、歯止めをかける必要性も出てきましょうな」

 司祭長の飛び入り参加による新情報で、王は天井を仰いで仕事が増えたと嘆息する。

 王様、お疲れ様です。

 心の中で合掌した。

 


 その後、バカ二人に処分が下された。

 揃って身分剥奪の上で投獄一年だが、元妹のカトリーンは修道院行き、ヘリットは国外追放となった。

 元妹が行く修道院は厳しい事で有名で、火山の中腹に建てられている。この修道院でやらかすと山頂の火口から捨てられて死ぬ。そんな噂が立つほどだ。豪雪地帯でもあり、冬に脱走を図ると凍死する。

 ヴァンダムの空っぽ娘と蔑称されていた元妹の事だから、何かやらかしそうである。

 ヘリットとの婚約は、処分でお分かりだろうが、婚約解消、実家勘当である。投獄以降会う事はなかったので、縋り付かれる事もなかった。

 ただ、誰が送ったのか、先代セードルフ公爵の元にヘリットのやらかしについて書かれた手紙が送られてしまった為、魔王が王都に降臨した。

 投獄されたヘリットは、庶子とは言え魔王の孫にあたる。祖父として叱らねばと、怒り狂った状態で地下牢に向かった。

 この時誰もが、王城が破壊されるのではないかと、戦々恐々としていたのだが、地下牢から怒声も響かず、何故かすっきりとした魔王の顔を見て、憂いを無くす為に罪人を殺したのではないかと噂が立った。

 しかし、罪人は無事だったので、噂はすぐに消えてしまった。

 バカ二人で忘れていたが、ヴァンダム子爵夫妻にも処分が下った。

 内容は領地没収、爵位剥奪、三十年の強制労働と、バカ二人よりも重かった。ヴァンダム子爵家が潰れてなくなり、何故か芋づる式に複数の家から不正が見つかり、処罰が下った。

 宰相曰く、言いがかりをつけて強制捜査し、処罰したらしい。

 首を突っ込むと何が起きるか分からないので、これ以上は聞かなかった。



 騒動の舞台である神殿は、破壊されたのは偽物であり、実行者はバカ二人と情報が既に行き届いていた為、何事も無かったかのように通常業務に戻っている。

 一般公開用の偽物は、バカ断罪の後に自分が直した。

 巻き込まれたのだからタダでやりますと言ったら司祭長に感謝された。



 いつもの日常に戻ったが、変わった事もある。

 縁を切ったとは言え、生家はなくなり、婚約者もいなくなった。

 完全なフリーとなったら、釣書が山のように届いて困惑した。同僚四人に相談したら笑われた。後見の魔王様にも相談したら、珍しく相好を崩し、頭を撫でられた。

 今年で十八歳になったんだけど、いつになったら子供扱いを止めてくれるのだろうか。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

書いていたらさっくりと終わりました。

後半は後日談的なお話しになります。

初めての予約投稿なので、一時間おきの連投になります。

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[一言] >閑暇休題 「閑話休題」ですね
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