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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
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聖なる夜に2

「何ですかそれ?」

「味噌玉という物です。これで即席お味噌汁を作ります」


立花さんが茶色いボールのような物を荷物の中から二つ取り出して見せてくれた。


「これ手作りなんですか?」

「はい。味噌から手作りです」

「味噌から手作りって凄いですね」

「いえいえ、そんな事はありません」


謙遜(けんそん)してるけど、普通は味噌を手作りしないと思うけどな…僕も作ったことないし。


「それに、味噌玉は出汁と味噌を合わせて煮詰めた物を乾燥させるだけですから」

「へぇ、そうなんですね」


簡単そうだし、今度作ってみようかな。流石に味噌からは作らないけど。


それから、立花さんは荷物からお椀…では無く、キャンプで使う取っ手を折り畳むことができるシェラカップを取り出した。


「キャンプ道具なんですね」

「はい。任務の際に重宝しています。かさばりませんから」


忍者も時代と共にモダン化しているみたいだ。


☆☆


雨水を入れた二つのシェラカップを焚き火にかざす。沸騰するまでもう少し時間がかかりそうだ。


「一つ良いですか?」


焚き火の調整をしていた立花さんに声をかける。火を映していた立花さんの瞳がこちらに向く。


「なんですか?」

「さっき僕を追っていたのはこの前立花さんが話してくれた『物の怪』ですよね」

「…はい」

「なんで僕が襲われているんですか?」


洞窟に来てからずっと気になっていた事を聞く。立花さんは少し困ったような顔をしていた。それから少し逡巡(しゅんじゅん)した後、口を開く。


「普通、物の怪が特定の人を狙う場合はその人が他者から余程の恨みを買っている場合が多いです」


それだと、僕は誰かから恨みを買っているってこと?…他人から恨みを買うような事に心当たりが無い…いや、ある。今日師匠にガツンと言ってしまった。もしかしてそれ?…


「しかし、おかしいのです」

「何がですか?」

「あの物の怪からは陽影くんへの殺気は感じられても、恨み辛みといった類の念を感じられないのです」


そうなんだ…僕には思い出すだけでも寒気のするあの感覚が怨嗟(えんさ)なのか殺気なのか全く分からなかったけど。


「そうだとすると、何がおかしいんですか?」

「陽影くんが物の怪に狙われる理由が分からないのです。物の怪は果たすべき目的があって初めて存在するものですから」

「だとすると、やっぱり果たすべき目的が僕にあって狙われてるんですよね…」

「それは…現時点では言い兼ねます。申し訳ありません」


奥歯に物が挟まった様に答える立花さん。やっぱり師匠のことなのかな?…でも師匠は他人を恨むような人じゃないと思うから違う気がする。


「お湯が沸いたみたいですね」


立花さんに促されてシェラカップの方を見ると丁度沸騰していた。


「このお湯にこの味噌玉を入れて溶かせば完成です」


立花さんが味噌玉をシェラカップに入れて、木の枝で作った箸擬(はしもど)きでかき混ぜる。たちまち食欲のそそるいい香りが洞窟内に広がった。


「どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」

「ありがとうございます」


立花さんからシェラカップと箸擬きを受け取る。味噌汁の中には色とりどりの野菜が浮かんでいた。


「こんなに野菜が入ってたんですね」

「野菜が苦手でしたか?」


顔色を伺うような目で見つめられる。


「いえ、そんな事ありません」

「栄養を考えると、どうしても野菜が多めになっているんです。本当に苦手だったら言って下さいね」


立花さん手作り味噌玉は凄い。栄養バランスまでしっかりと考えてあるのか。


「流石ですね、立花さん」

「いえいえ、体調管理を考えた結果ですから」


至極当然と答える立花さん。ここまで健康に気を使っているのは本当に流石としか言いようがない。体調管理は忍者にとって当たり前なのかもしれないけど。


「いただきます」


挨拶をして、味噌汁を息で冷ましてからシェラカップに口をつける。


美味し!


幸せに包まれるような優しい味が口腔を撫でる。インスタント味噌汁のように濃すぎず、かといって薄すぎない絶妙な塩梅(あんばい)。野菜のシャキシャキ感が更に美味しさを倍増させる。それになんと言っても、味噌汁の暖かさが体の芯に染み渡る。


「美味しいです!」

「陽陰くんの口に合って良かったです」


こんなに美味しい味噌汁を飲んだのは久しぶりかもしれない。お腹が空いてたっていうのもあるかもしれないけど。それでも、僕はこの日飲んだ味噌汁を一生忘れないだろう。


☆☆


「立花さん、もう一つ質問いいですか?」


立花さんお手製の即席味噌汁に舌鼓を打つ中、もう一つ気になっていたことについて触れる。


「はい、何でしょう?」

「どうして僕が物の怪に襲われているところを助けることができたんですか?」


再び難しい顔をする立花さん。


「偶然陽影くんが襲われているところに出くわした…と言っても納得して下さいませんよね。実は今の私の任務が陽影くんの監視なのです」

「えっ! そうなんですか」

「はい」


意外な返答に驚嘆する。そうなると、師匠と僕の諸々のやり取りが立花さんには筒抜けって事か…超恥ずかしい…って今はそんな事じゃない。


「やっぱり、僕が物の怪に狙われるような不味い事をしたんですか? 」

「いえ、そういうわけではありません。詳しくは話す事が出来ませんが、今回の任務の意向の一つはおそらく、私が陽影くんの恩に報いる機会を与えてくださったのだと思います。それで名目上『監視』という任務になっているのだと考えています」


そうだったのか…


「あんまり任務のことについて他者に話すことはご法度なんですけどね…」

「ごめんなさい。いろいろ聞いてしまって」

「いえ、問題ありません。今は急事ですから」


あっ、そういえばまだ助けてもらったお礼を立花さんに言ってなかった。


「立花さん。今更ですが、助けてくれてありがとうございます」


誠心誠意お礼を言った。


「そんな、気にしないでください。当然の事をしただけですから。それに私も陽影くんに命を救われたのですから」

「いえ、あの夜僕は立花さんに何もする事が出来ませんでしたから」

「それでも…」


この後、お互いに(へりくだ)り合う謎の空間が生まれるのだった。

誤字脱字、表現の誤り、矛盾等の報告もよろしくお願いします。


次回は少しムフフな感じになるかも?www


あまりならないかもしれませんが…


それではまた次の話でお会いしましょう

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