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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
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聖なる夜に1

じんわりと暖かい何かが僕の体の前面に広がっていた…安心感のある暖かさだ。

手を動かすと柔らかい何かが手の中に溢れる。マシュマロのように弾力があって気持ちいい。


「起きられたのですか?」


二つの柔らかい物を堪能(たんのう)していると聞き覚えのある声が聞こえ、徐々に意識がハッキリとしていく。雨の雑音で聞き取りづらいけど、この声は…立花さんだ。

朧げに目を開けると開ける前と同じ光景が広がっていた。要するに真っ暗だ……いや違う。暗闇がものすごい速さで目まぐるしく動いていた。

それに加えて酷く雨が降っている。

そして、僕はずぶ濡れではおんぶされていた…

あれ? 鞄が無い。


「飛びますよ!」

「えっ?」


唐突に立花さんのハリのある声が聞こえたと思ったら、急な浮遊感が僕を襲った。股がフワッととなる。先程までの思考は何処(どこ)かにぶっ飛んで、立花さんにより強くしがみついた。

浮遊感を感じる間は時が止まったように感じられたが、それも一瞬で、浮遊感は(またた)く間に無くなった。無事に着地したのだろう。

それと同時に僕は立花さんの背中から降ろされる。

今まで立花さんの体温で暖かかった体の前面が冬の寒冷な空気に当てられて一気に冷えた。


「走れますか?」


緊迫した立花さんの声。表情は暗くてよく見えないが声音からして険しそうだ。


「走れますが…/」

「いいですか? 決してこの手を離してはなりませんよ!」


今の状況について聞こうと思ったのだが、立花さんの切迫詰まった声に遮られ、手を握られる。



"ドォォォォォン"



刹那(せつな)、地響きが起きるほどの物凄い音が間近で鳴った。振り向くが、辺りが真っ暗で何も分からない。

それでも、背中を氷柱で撫でられたような悪寒が走った。帰宅中に感じたものとは桁違いだ。


"やばいやばい"


今まで感じたことのない様な殺気に警鐘(けいしょう)が頭の中でガンガンと響く。


「走って!」


立花さんの声が僕の脳に届く。そんな事は分かってる。でも、足がすくんで上手く動かない。師匠の時は動いたのに! なんで!? 動いてよ!


「走って! 早く!」


叫ぶ立花さんに無理矢理手を引かれ震える足が(ようや)く機能を(まっと)うする…まるで僕の足が自分のものじゃ無いように。

後方に感じる殺気も凄みを増して、見えないナニカが迫って来るのが分かる。

あまりの恐怖に、顔には涙と雨の混じりあったモノが頬を止め処なく伝った。


"走らないと死ぬ"


頭は同じ思考を輪廻(りんね)する。

不意に立花さんが強く手を引っ張られ、前のめりになりバランスを崩しそうになった。

その瞬間、嫌な風が後方を通り過ぎた。

今度は何!?


"メキメキ"


数瞬遅れて嫌な音が鼓膜を振動させる。怖くて、訳が分からなくて、声さえ出せない。

それでも止まらずに走った。雨の冷たさも感じないくらいに必死に走った。立花さんの手の温もりを頼りに走った。


☆☆


気がつくと僕は(うずくま)っていた。


"嫌だ、嫌だ、嫌だ"


迫り来る「ナニカ」の事を考えては怯える。震えが止まらない。


「…くん、陽影くん?」


立花さんの声に顔をあげる。心配そうな顔で僕を見つめる立花さんがいた。


「このタオルを使って下さい。そのままでは風邪を引いてしまいますよ」

「あっ、ありがとうございます」


お礼を言ってタオルを受け取る。同時に今の状況が視界に入った。

いつの間にか洞窟に居るようだった。焚き火の火も付いている。立花さんがどうやって火をつけたのかさえ覚えていない。ずっと目は開けていた筈なのに。


"くしょん"


急に寒くなってくしゃみが出た。未だにびしょ濡れだった。着ていたコートの中までぐちょぐちょ。

取り敢えず貰ったタオルを使って頭を拭く。タオルからの柔軟剤のいい香りが鼻腔(びくう)(くすぐ)った。少し落ち着く。でも、ふとした瞬間にあの恐怖が頭の中で顔を覗かせる。それを振り払うようにガシガシと頭を拭いた。


濡れたコート、ベスト、カッターシャツ、ズボンは絞って立花さんが貸してくれたワイヤーを使って焚き火の上で干すことにした。つまり僕は下着姿。ちょっと恥ずかしい。

干し作業を終えた僕は下着姿で焚き火に当たる。灯りがあるだけでこんなにも安心した事は今までに無いと思う。灯りって精神面に置いて重要だ。


一方で、立花さんの方はポニーテールに纏めた髪の手入れをしただけだった。後は籠手(こて)なんかの装備も外していた。

因みに、立花さんは体のラインが浮き彫りになっているぴっちりした服を全身に纏っているので、少し目のやり場に困る。

そして、いかがわしい考えが………

気を逸らすようにたき火を見つめた。


「少し落ち着いたみたいですね。良かったです。


立花さんはいつの間にか僕の向かいにいつの間にか腰を下ろしていた。そして、ニッコリと微笑む立花さん。一週間ぶりに見る立花さんの微笑み。懐かしさえ感じた。。今もあの恐怖が頭から離れないけど、立花さんが居なかったらこんなにも落ち着いていられ無かったと思う……そういえば、アレから逃げ切る事ができたのかな? 


「立花さん、さっきの物の怪からは逃げ切れたんですか?」

「はい。陽影くんのお陰で結界を張りながら逃げる余裕出来たので。暫くの間ははこの場所も安全だと思います」

「…良かったぁ」


本当の意味の安心に、安堵(あんど)の息を漏らす。


「今日はこの洞窟で一晩過ごして、明日の朝に出発しましょう」


立花さんの言葉にコクりと頷く。


"ぐぅぅぅうう"


その時、僕の腹の虫が鳴った。それも結構な大きさで…

顔が熱くなる。


「ふふっ。あの時とは逆ですね」


そう言って立花さんは笑った。

一言…



エタりたい……www



ここまで読んでくださった方々に失礼ですね。すみません。

こんなタイトルの無い物語をここまで読んでくださりありがとうございます。


誤字脱字、表現の誤り、作品の矛盾点があれば報告よろしくお願いします。


それではまた次の話でお会いしましょう。


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