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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
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陽影宗次郎(そうじろう)は焦っていた。息子の翔太が出会ってしまったからだ…忍びと。

だから、翔太がくノ一の嬢ちゃんを助けたことは偶然じゃ無い。運命が引き寄せた結果であり必然のことだ。

生まれた時から、俺のたちの子供は「運命の子」だと周りから言われてはいた。だから、子供達にその運命を背負わせない為、妻と共に人混みに紛れて一般家庭を築こうと試みた。

結果はもちろん不可能だった。俺も妻も常に家を開けてしまう様な状況になってしまった。親として不甲斐ない事この上無い。

出来ることなら、子供には世間一般の「家族」の様な生活を送らせてあげたかった。だが、俺自身もそれは不可能だということは十分に理解はしていた。

だから、せめて子供たちの運命だけは何としても変えてあげなければならない。それが俺達にできる最初で最後のことだから。


ここ最近、翔太に運命という名の魔の手が着実に近づいていっている。

いつか来ると分かっていたから、驚く様な事は無かった。しかし、焦りが胸中を渦巻く。

先日の公園の事件だってそうだ。このままでは、いつ翔太の力が発現してしまうか分からない。

それに、翔太の能力が発現してしまったが最後、運命が避けられなくなってしまう…必ず。

だから、なんとしてもそれだけは避けなければならない。絶対に。


「着きましたよ。ここが私の住む屋敷です」


くノ一の嬢ちゃんの声で思考の海から呼び覚まされる。促された方向に顔を向けると、そこには立派な和風の屋敷が悠然(ゆうぜん)と鎮座していた。まさに時代劇に出てきそうな屋敷だ。


その屋敷の荘厳な門をくぐった時、


「雪姉ぇっ!」


そんな声と共に一人の少女が門から現れて、くノ一の嬢ちゃんに抱きついた。

なるほど、感動の再会と言うわけか。


「私、信じてたから。雪姉が戻ってくるって」


涙ぐんだ声でくノ一の嬢ちゃんに胸の内を吐露(とろ)していく。この様子だとかなり心配してたのだろう。


「こらこら、鈴夏(すずか)。急に抱きつかないの」


くノ一の嬢ちゃんは妹を諭しながらも、顔はどこか嬉しそうだった。


「でも…」


少女は何か言いかけたが、漸く俺の存在に気づいのか、ハッとして佇まいを直す。


「姉上、この方は」


一瞬で(かしこ)まった話し方に変わった。

今更、取り繕っても遅んだけどな…


「私を助けて頂いた方よ」


くノ一の嬢ちゃんがそう説明するや否や、鈴夏と呼ばれた少女は俺の眼前に来て深く頭を下げた。


「姉上の事深く御礼申し上げます」

「気にするな、助けたのは俺じゃなくて息子だ」

「それでも、多少なりとも貴方の力があったはずですから」


こんな風に誰かにお礼を言われる事に悪い気はしない。だが、畏まった様な雰囲気は好きじゃない。

だけど、翔太のやったことは、少なくとも彼女らにとっては無駄では無かったと思うと少し胸が暖かくなる。


「さっ、鈴夏は部屋に戻ってなさい。私はこの方を屋敷に案内しないといけないから。話はまた後でね」

「分かりました」


鈴夏と呼ばれた少女は足早に屋敷の中へと戻っていった。


「では、行きましょうか」


くノ一の嬢ちゃんに案内され屋敷の門の中へと入っていく。広大な庭は椿などの植木で彩られていた。屋敷の内部もかなり広く、所々に意匠を凝らしてある。

屋敷に感心しながら、迷路のような廊下を進んでいく。くノ一の嬢ちゃんは屋敷の中を迷わず案内してくれた後、ある部屋の前で立ち止まった。


「こちらの部屋でお待ち下さい。私は母を呼んで参りますので」


客間らしき部屋に案内されくノ一の嬢ちゃんは何処かに行ってしまった。

案内された部屋の座布団に座る。

客間の中は銀閣寺の書院造の様な内装で、派手さこそないものの品のある部屋だ。

開け放たれた障子の先にある見事な庭園を眺めながらくノ一の嬢ちゃんを待つ。待っている間に翔太から電話が掛かってきたりしたが。


「お待たせ致しました」


感覚的に五分くらいしてから部屋の中に入ってきたのは女性。濃紺の下地で所々に白で模様が描かれている着物を着ていた。見た目はくノ一の嬢ちゃんをそのまま大人にした感じだ。違うところといえば雰囲気だ。くノ一の嬢ちゃんから感じた柔和な雰囲気は一切感じられず、仮面の様に表情の無い顔と相まって、まさに冷徹と言う言葉がピタリと当て嵌まる。


「娘がご迷惑ををお掛けしたみたいで」


女性は俺の対面に座りお辞儀をする。やはりくノ一の嬢ちゃんの母親か。


「いやいや、別に気にしてない」

「ご厚意感謝いたします。それで、本日はどういったご用件でこちらに? あなたほどの人が娘の付き添いだけで態々(わざわざ)ここまでくる事はないでしょう? 戦況返しの治癒術師さん」


流石はくノ一母。俺の事を知っていたか。


「用件というよりは忠告に近いな」

「忠告ですか…」


ここまで眉一つ動かさなかったくノ一母の目が初めて怪訝の色を(うかが)わせる。


「あぁ。単刀直入に言う。俺の息子に近づかないでくれ。この意味分かるよな?」

「息子さんに近づくな…ですか」

「あぁ」


凄みを聞かせて言いたい事を言い放つ。仮に俺がこの場に来なかったとしてもくノ一母は俺の存在にいずれ気付く。

普通に考えて、任務から二日も遅れて帰って来た娘になんらかの助力があった事ぐらいは猿でも予想がつく。そして、そこから俺の存在、更には息子の存在へと繋がって行く。

だから、俺の勝手知らぬところで動かれないように先手を打つ。

別に、くノ一の嬢ちゃんを助けた事に後悔はしていない。


俺の忠告を聞いた後、くノ一母は少しの間思考を巡らせてくちを開いた。


「仮に私達か関わらなかったとして、あなた方お二人でお子さんを守りきれるのですか。それに貴方のお子さんは、存在が知られれば忍びからも狙われる羽目になるのですよ。更に、貴方のお子さんの力は昨今の増えつつある物の怪と私たち忍びとの戦いに於いて大きな戦力と…」


「俺の子供は()()なんかじゃない」


くノ一母の淡々と続く言葉を遮り、睥睨(へいげい)しながら激情に任せて声を荒げてしまう。そんな俺に向けられるのは先程から変わらぬ冷えた目。


「失礼いたしました。ですが本当に運命を変えられるとお思いなのですか。そうだとしたら、お門違(かどちが)いも甚だしい」

「黙れ」


運命運命って五月蝿(うるさ)いんだよ!

どいつもこいつも俺の子供をモノ扱いしやがって。


「今後一切息子に関わらないでくれ。まだ能力は発現していないんだ。何がキッカケで発現するかわからない。忠告はしたからな」


その言葉を最後に、一睨みしてから俺は席を立ち踵を返す。これ以上ここに居ても無駄だ。


「それは無理でしょう」


背中にそんな言葉が返されるが気にしない。牽制(けんせい)は出来た筈だ。あちら側もこれで無理に翔太の力を引き出すような真似はできないだろう。

そもそも、立花家自体は味方に近い存在だから、そんな事をしないと思うが。それに、娘を助けた貸しもあるから尚更。あの母親の態度だけは気に食わんが。

まぁ翔太に近づかない事に越した事は無い。

後は翔太に能力発現のキッカケさえ無ければ大丈夫。俺はそのキッカケを潰して行くだけ。

万が一の時に翔太自身が身を守るべく、知り合いの武士の末裔に弟子にしてもらうよう頼んでおいた。


子供の運命をは必ず変える。


歩きながら色んな思考が巡る。怒りが頭を染めながらも意外に冷静だった。


眼光を強く光らせながら屋敷を後にする。


☆☆


「雪音」

「はい、母上」

「陽影の少年を見張りなさい」

「………ですが」

「これは命令よ」

「……承知しました」


静かな声が部屋にこだまする。

誤字脱字、表現の誤り等があればどんどん報告お願いします。


ではまた、次の話でお会いしましょう。

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