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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
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妹3

雪姉に負けてからの私は落ちぶれた。凛さんにめった打ちにされた後、私が直接雪姉に謝ることもなく、時間は過ぎていった。今まで散々馬鹿にしてきた雪姉に敗北し、挙げ句の果てに、立会人の凛さんに刃向かいボロ負け。もう惨め以外のなにものでもなかった。今回の騒動で、私と雪姉の立場が逆転し、私が雪姉から逃げるようになった。養成学校では私の本来の力を出せなくなり、成績は下がる一方。みんなから見限られないように必死に取り繕ったが、3ヶ月もすれば私は落ちこぼれの扱いだった。さらに、ショックだったことは今まで友達だと思っていたクラスメイトが自然と私から離れ、影で後ろ指を刺すようになっていたことだ。


わたしに生きる価値はあるの?


わたしは生きてていいの?


わたしってなに?



鬱に陥った私はもう参っていた。周りの人間は誰1人として助けてくれない。友達だと思っていた人も私を裏切った。家族は自ら関係を断ち切った。



ああ……私って…ひとりだ。



何度も家出することを考えた。1人だけで生きていけることができればどんなに楽だろうと思った。自殺して解放されたいとも思った。でも、8歳の私にそれを実行する勇気さえ無かった。


「鈴夏、大丈夫? 元気無さそうだけど…」


自宅で、雪姉と鉢合わせすると、雪姉は優しい言葉をかけてくれた。だが、これまで酷いことをしてきた私が、いまさら雪姉に何か言えるはずもなく、唇を噛み締めて黙って立ち去ることしかできなかった。そして、自室で1人啜り泣き、心の中で雪姉に、許しを乞うのだった。


☆☆


忍養成学校初等部の2年生には一大イベントとして物の怪封印実習が始まる。その内容は簡単である。まず、先生が物の怪が封印された巻物の封印を解く。封印を解かれた物の怪は学校の敷地内の森に放たれ、私たちが再び封印すると言うものだ。そして、私たちは物の怪が放たれてから、封印し直し、元の位置に戻るまでのタイムを競い合うのだ。放たれる物の怪も初等部の生徒が太刀打ちできる弱いもので、小さな猪だったり、人間サイズの飛蝗だったりする。


 正直、私は全く自信がなかった。前までの私なら、張り切って上位を目指していただろう。しかし、今の私には失敗する未来しか頭の中になかった。ちなみに、昨年の最下位は雪姉だったそうだ。


物の怪封印実習は順当に進んでいき、順々に名前が呼ばれていく。クラスのみんなは難なく封印して戻ってくる。今のところ、平均タイムは15分程だった。早い人で10分もかから帰ってくる人もいた。放たれる物の怪は完全にランダムで、気性が荒い物の怪や素早い物の怪が現れると、時間かかる傾向があった。


「次、立花鈴夏! 」

「はい」


ついに私の番が来た。心臓の鼓動が周囲にも聞こえてるのではないかと言うほど脈打っている。


目の前で先生が巻物を広げる。そして、手を当てると巻物に書かれている漢字が列を成して空へ上がった。

そして、


「キュー」


甲高い声と共に現れたのは体長が1m弱の鹿だった。しかし、異様に尖った歪な角を持っていた。封印が解かれた鹿は森の方へ颯爽と駆け抜けていく。そして、その姿はすぐさま消えていった。


「始めっ!」


1分間待った後、実習がついに始まった。


私は鹿の消えた方向へすぐさま駆け出す。初めは足跡を追っていく。しかし、途中から足跡が消えた。上手く巻かれてしまったみたいだ。

すぐさまに木の枝に飛び移り、木々の枝を移動しながら俯瞰する。拙いながらも『震感』を展開して、周囲に知覚を散りばめた。敷地内にある森とはいえ、かなり広い。加えて、木々が生い茂っているため森の中は太陽の光が遮られている。そのため、薄暗く視界は良いとは言えない。


少しの間、震感を展開しながら探したが、全く手がかりを掴めなかった。初手の時点でもう手詰まりになってしまった。嫌な汗が体を流れる。


「すぅーー…………はぁああ」


大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせる。


この実習で求められる能力は二つ。いかに早く、物の怪を見つけられるか。いかに早く物の怪を封印できるかである。


今ならまだ、そんなに遠くには行っていないはず…………


それなら!


私はある策を実行した。それは、鹿の習性を利用した体力勝負の賭けな作戦。


いま、私がいる位置を中心に、半径500メートルの円周上を全速力で駆け巡る。その際、自分のくないや護符などの手荷物を一定間隔で、木に刺したり、落としたりした。鹿の性格は臆病。だから、私の匂いを感じ取ったら方向を変える。そして、森の開けた場所に誘導できれば!


これなら行ける!


円周上を走り終え、誘導先となる、森の開けた場所を目指す道中で木を何本か薙ぎ倒し、大きな音が鳴るようにしむけた。


森の出口に向け、一気に駆け抜ける。出口に差し掛かった時、私の震感が動く何かを捉えた。


よし!


「キュー…キュ」


"グシャ"


森を抜けると同時に鹿の鳴き声と何かが潰れるような音が私の耳に響いた。


外の眩しさから一転、私の目の前に現れたのは歪な角を持った子鹿ではなく、体長5メートルはある巨大な蜘蛛だった。グシャグシャと音を立てながら、子鹿を捕食していく。そして、ものの1分もしないうちに、大蜘蛛は子鹿を平らげた。あまりの光景に、私は体が硬直したまま動かなかった。違う、動かせなかったのだ。私の身体の硬直が解けたのは大蜘蛛の8個の赤黒い眼が私を捉えていることに気づいた時だった。経験したこともない悪寒が、全身を駆け巡る。刹那、私は森の中へ駆け出す。


あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばいあれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい、あれはやばい。


捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ、捕まったら死ぬ。


私の本能が全力で警鐘を鳴らす。なりふり構わず、全力で走る。大蜘蛛の目に映る私は、敵ではなく、ただの餌だった。


ふと、後ろを見た時、私の真後ろに大蜘蛛がいた。


「へっ//」


驚く間も無く私は体当たりされ、飛ばされた。


「かはっ//」


防御する間もなく木に打ち付けられ、尋常じゃない痛みが全身を襲う。ぼやけた視界に見えるのは、高速でこちらに向かってくる大蜘蛛。


逃げなきゃ、逃げなきゃ!

死にたくない、死にたくない!


痛む体に無理やり言うことをきかせ、起き上がる。


「炎弾!」


大量の炎の球を作り出し、大蜘蛛の顔に向けて射出する。そして、方向もわからぬまま走り出そうとしたその時だった。


私の右手に何かが絡みついた。

その瞬間、右手が大きく引っ張られ、私の体が宙に浮いた。


「えっ?」


目前に木があった。


「がはっ!」


「ぐはっ!」


「がはっ!」


「ごはっ!」


訳もわからぬまま、何度も木に打ち付けられ、私は地面に転がっていた。


「くっ……ゲホッ」


咳き込み、吐血する。


朦朧とする意識の中、見えたのはゆっくりとこちらに向かってくる大蜘蛛。そんな状況であるにも関わらず、私の頭にはこれまでの雪姉とのやりとりの情景が流れていた。


何度もいじめられても毎日学校に行く雪姉。何度失敗しても料理をする雪姉。毎日、不得意な魂術の修行をする雪姉。


そうだ…雪姉はどんな時でも、絶対諦めないんだ。こんな状況でも雪姉なら絶対諦めないはず。


だったら、私も…


肋骨と右腕が折れて、ボロボロになった体を奮い立たせ無理やり立つ。左手に最後のくないを持ち炎を纏わせる。目前には牙を剥いた巨大な大蜘蛛。


「雪姉…もし来世でも会えたら、今度はいっぱいお話ししようね」

毎度不定期更新すぎて本当に申し訳ないです。

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誤字脱字、表現の誤りがあれば報告よろしくお願いします。

ではまた次のお話でお会いしましょう。

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