妹2
雪姉と私の決闘は家から少し離れた平地で行われることになった。
今回の決闘の決め事は以下の4つ。
一つ、勝敗は先に攻撃を与えた者を勝ちとする。攻撃には寸止めも含める。ただし、致死的攻撃は禁止とし、その判断は立会人に委ねる。
一つ、どんな武器、道具も使用を認める。ただし、例外として過度に周囲に影響を与える武器および、自身の魂力や体力を増強する道具は禁止とする。
一つ、立会人を凛さんとする。立会人は過度な攻撃と判断した場合の干渉を許可する。
一つ、決闘を行う者は規定違反を犯した場合、反則負けとする。
この決め事に沿って行われることになった。また、私が決闘に勝利した場合は凛さんの解雇、雪姉が決闘に勝利した場合は雪姉の言う事を一つ私が聞くというものに収まった。
「雪姉、私、手加減しないから」
「…」
10メートル離れた位置でお互いに向かい会って立つ。向かい合った雪姉は刀を背負っていた。張り詰めた空気の中、お互いに凛さんの開始の合図を待つ。乾いた風が頬を撫でていた。
「初めっ!」
「熱射!」
「氷礫!」
私は凛さんの開始の合図とともに自身の周囲に熱放射を展開した。対して、雪姉は多数の氷の礫を作り出し、私に目掛けて飛ばす。しかし、その氷の礫は私にたどり着くことなく溶けて蒸発した。そもそも、私に直接当たる軌道の氷は数発中2発のみだった。初手は私の方が一枚上手に終わった。しかし、すかさず私は攻撃を畳み掛ける。
「炎弾!」
拳程度の数発の火弾を私の周囲に作り出し、雪姉目掛けて飛ばす。しかし、撃った炎弾はただの火弾じゃない。着弾と同時に、炸裂するのだ。
雪姉は数発の炎弾を交わした。だが、地面に着弾した炎弾が爆発し、衝撃波によって雪姉が体勢を前に崩した。
「炎弾!」
今度は、速度を上げた高速の炎弾を雪姉に放つ。あの体制からでは火弾は躱せないはず。と、思っていたが、あまりにも雪姉を舐めすぎていたみたいだ。雪姉は間一髪のところで踏ん張り、高速の炎弾を紙一重で躱した。
「氷壁」
直後に自身の目の前に氷の壁を作り出した。
だが、私のやることは変わらない。雪姉の氷壁もろとも、炎で覆い尽くせば良いだけ。
これが私の考えた対雪姉対策。火属性の私は周囲に熱を放射することで雪姉の氷による攻撃ほとんど無効化する。接近戦を持ちかけられても、熱放射で私に近づけない。後は防戦を強いられる雪姉を追い込んでいくだけ。
「炎槍」
炎でできた細長い槍を4本作りだし、左右、上、正面に同時に撃ち込む。私の出せる攻撃力が最も高い術。もう既に私は勝ちを確信していた。雪姉だからと、舐め腐っていた。その油断のせいで、私は雪姉に勝機を与えてしまったのだ。
炎槍を放った直後雪姉は氷の壁を正面から突き破り、刀を抜いて、ものすごい勢いで肉薄してきた。正面の炎槍をすんでのところで回避し、私と雪姉を隔てるものが無くなった。雪姉の予期せぬ動きに呆気に取られた私は対応に遅れてしまった。雪姉がくないを投げる動きを見て、やっと我に帰った私はくないを半身で躱す。
「高熱射!」
捨て身の勢いで間合いを詰める雪姉をこれ以上近づけさせないために、さらに高温の熱を周囲に放つ。私を中心に半径5メートルは熱くて近づけないはず…
「駆け巡る怒涛の疾風となりて、彼方に吹き抜けよ!」
雪姉が横にずれた。その瞬間、背後に護符が見えた。
「なっ!」
まさか、私に見えないように……
気づいた瞬間、物凄い風が私に目掛けて吹き荒れた。
思いもよらぬ風に体制を崩してしまう。
まずい! 猛風のせいで、熱射が!
咄嗟にくないを取り出し、雪姉との接近戦に備えようとする。しかし、くないを持つ手が何かに縛られた。横目で右手を確認する。
「なっ、鎖! まさか!」
視線で鎖をたどると、地面に刺さったくないに護符が着いており、そこから鎖が伸びていた。
目前に迫っていた雪姉が私の首元目掛けて、刀を突き立てようとしてくる。
嫌だ! 負けたくない! 負ける訳には行かない。一瞬という短い時間の間に思考がフル回転し、時間が引き延ばされる。
「金剛!」
刹那の判断で、左手に金剛を集中させて、首元を雪姉の突きから守る。
しかし、それすらも雪姉に読まれていた。なぜなら、雪姉は私の左手に刀を突き刺すことなく、そのまま手放したからだ。
「嘘でしょ!」
雪姉はそのまま、私のガラ空きのお腹に目掛けて、渾身の拳を繰り出した。
ダメだ、躱わせない。嫌だ! 負けたくない。 雪姉なんかに負ける訳には! 嫌だ! 嫌だ!
頭の中は負の感情でぐちゃぐちゃだった。私はなす術なく雪姉の動きを見ることしかできなかった。ちらっと見えた雪姉の顔は、これまで見たことないほどに真剣な目付きをしていた。
「そこまで!」
雪姉が私のお腹に寸止めで拳を繰り出した時点で、凛さんの声が響いた。
「勝者! 立花雪音!」
目の前で、凛さんと雪姉が喜んでいるのを遠いところから眺めていた。
えっ…嘘っ……私が負けた?…雪姉に?…
「嘘だ…うそだ………私が…わたしが雪姉に負けるなんて…」
私が雪姉に負けるなんて考えてもみなかった。成績も最下位で、魂術も碌に出来ない雪姉に成績上位の私が負ける要因なんて一つもなかった。それなのに…
「現実を受け入れてください鈴夏様」
「うるさい! 私が雪姉なんかに負けるはずかないんだ!」
「現になす術なく、負けたではありませんか? 今更何を?」
「不正よ。雪姉が護符術なんて使えるわけないじゃない! 裏であんたが、護符を操ってたんでしょ!」
「はぁ、これだからプライドだけ高い人は」
「なんですって! 今の発言を撤回しなさい! 女中の分際で許しませんよ!」
「事実ですから、撤回致しません。」
「このっ!」
「それより鈴夏様、約束どおり、雪音様のお願いを聞いてもらいます」
「誰がそんな約束!」
プライドが邪魔して、私は素直に負けを認めることができなかった。それ以前に、雪姉に負けたという屈辱をどうしても受け入れることが出来なかった。
「厳正な決闘で決まったことを反故することは忍びとして私が許しません」
「あんたが許さなくても、関係なっ//」
"パシンッ"
「いい加減に目を覚ましなさい!!」
凛さんに打たれて尻餅をついてしまう。あまりの平手打ちに口が切れて鉄の味が広がった。
「黙れ!!」
我を忘れるほどの怒りが私を支配した。
「絶対に、許さない!!」
気づいた時には体が勝手に凛さんを殺しにかかっていた。それは、考えられる最低最悪の悪手。この後、言わずもがな、凛さんに徹底的に打ちのめされた。
私が負けを認めて謝るまでの4時間もの間、体をボロボロにされつづけた。絶叫を挙げるほどの攻撃を何度も喰らい、着ていた忍びスーツは跡形もなくなっていた。
「…ごめんなさい…ゆるして…ください………」
凛さんに負け続けた私の心はズタボロだった。4時間のうち最後の1時間は戦意喪失していた。しかし、気絶と覚醒を繰り返され、泣いて謝るまで意識を飛ばすことを許されなかった。そしてついに負けを認め、意識を彼方に飛ばしたのだった。
誤字脱字、表現の誤りがあれば報告よろしくお願いします。
ではまた次のお話でお会いしましょう。




