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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
22/26

最後に挿絵あります。ちょっとショッキングかもしれないです。

私は一人、泣きながら書斎を荒らしていた。どんな本や文献を漁っても欲しい記述は一つも無い。一つだけ記述のあった古い本には「無上の解術師三人がかりにもその呪ひを解けざりき」

と記されていた。


「雪姉…」


泣き明かした筈なのに、ポロポロと涙が溢れ出す。

私は昔、雪姉のことが大嫌いだった。雪姉の性格は真面目で、所謂クラス委員長に抜擢されるようなタイプだ。努力を怠ることもなく、毎日欠かさず修行していたのを覚えている。でも、当時の雪姉は養成学校のクラスで一番出来の悪い生徒だった。

勉学、武術、魂術、これらのどれも雪姉は苦手で、成績はいつもクラス最下位。そのせいで、よくクラスの男子達からいじめられていた。それに、魂術や武術の授業では男子の的にされていて、その授業がある日は身体中痣だらけで泣きながら帰ってくることもよくあった。普通の学校だったら、先生が注意するなりしてやめさせるだろう。だが、養成学校の先生は雪姉をいじめる男子達に注意しないどころか、先生自身もできの悪い雪姉を目の敵にする節があった。それは妹である私も一緒だった。当時の私は雪姉と同じ目で見られないように、必死に努力して成績上位をキープしていた。だから、成績のよかった私にとって、唯一の汚点だった雪姉を私も嫌っていた。家でも、雪姉に冷たく接して、雪姉を無視しし続けた。学校では雪姉のいじめに加担すらしなかったものの、無関心を貫いていた。だから、雪姉が魂術の的にされ泣かされているのを見ても、靴や下着を盗まれたと聞いても、心配すらしなかった。なぜなら、いじめられるのは弱い雪姉が悪いのだと本気で思っていたから。とにかく、プライドの高かった私は「立花雪音」という愚姉の妹として見られることが、許せなかった。それは、私と雪姉を平等に扱う母に怒りを覚えるほどに。今思えばこんなくだらないプライドに拘っていたこと自体が過ちだったと思う。


雪姉へのいじめは年をまたぐごとにエスカレートしていった。学校中に周知されていた雪姉は下級生からも馬鹿にされるようになり、いつしか学校中の笑い者となっていた。しかし、雪姉が3年生、私が2年生の時、ひょんなことから雪姉へのいじめが無くなった。それは雪姉をいじめていた主犯3人が妹である私に目をつけてしまったからだ。その日も授業が終わり、いつものように家に帰ろうとしていた時、主犯の1人が私に声をかけたのだ。内容は決闘をしようというものだった。彼らの企みを推測するに、妹である私を雪姉の目の前で、痛めつけて楽しむというバカげたものだったのだろう。私自身は、このような決闘に全く興味がなかった。だが、彼の一言が私の琴線に触れたのだ。


「もし、この決闘を受けないなら、お前もあのカスと同じ弱虫だったって事だな(笑」


私は、決闘に受けてたってやった。決闘の場所にはすでに噂を聞きつけた生徒が多くいた。雪姉もその場所にいて、私の事を心配そうに見守っていた。決闘と言っても私の独壇場で馬鹿3人を力で徹底的に捩じ伏せてやった。元々、そこまで成績の良くない生徒であったから、力の差は圧倒的だった。


「鈴夏、待って!」


馬鹿三人を片付けて、踵を返そうとした。が、雪姉の声に足を止める。そして、私は初めて面と向かって雪姉を拒絶してしまったのだ。


「気安く私の名前を呼ばないで! あんたのことを姉だと思った事なんて一度もないから!」


「すずか?」


「学校でも、家でも、あなたの醜態を晒さないで! 私に恥をかかさないで!」


そう言って、私は雪姉を突き放し、今度こそ踵を返した。後ろで啜り泣く雪姉を無視して。


この日から、雪姉は変わってしまった。家でも学校でも常に他人の顔色を伺い、何かに怯えるように生活するようになった。

極力人を避けるようになり、何かあるとすぐに「ごめんなさい」と言ってヘコヘコする。妹である私に対しては、それ以上にひどかった。今まで一緒に食べていた夕食も雪姉は自室で1人で食べるようになり、家でも学校でも雪姉をほとんど見かけなくなってしまった。

しかし、変わったのは雪姉だけではなかった。雪姉をいじめていた3人は学校での立場を無くしたのか、登校しなくなっていた。そのおかげで、雪姉に直接危害を加える人はいなくなった。逆に、雪姉と関わろうとする人もいなかった。さらに、唯一、雪姉の味方だった母親も任務が忙しくなったせいで、夜遅くに帰るようになっていた。だから、あの頃の雪姉は本当に孤独な存在だったと思う。それでも、毎日休まずに学校に通い続けていた。


そんな状況が少し続いた後、立花家に凛さんが女中としてやってきた。元々、女中はいたが、辞めてしまったのと、母が長期任務でしばらく家を空けることになったため、住み込みで働くという条件で凛さんが雇われたのだ。凛さんは当時17歳で、階級は下忍だった。下忍は八段階ある忍びの階級の下から二番目である。凛さんと同年代の人の多くは一つ上の階級である「凡忍」になっているから、凛さんはいわゆる落ちこぼれの忍者だとおもっていた。だから、当時の私は凛さんを舐めていなかったと言えば嘘になる。しかし、一応、年上で階級も上のため、内心ではバカにしつつも、常に社交辞令で対応していた。


凛さんが立花家に来てから、私の生活は変わらなかった。生活の一部に赤の他人が増えただけのことだっだ。凛さんは炊事、洗濯、掃除のどれも完璧だったため、私が凛さんの女中としての仕事に文句を言って軋轢を生むこともなかった。だから、私は凛さんとほとんど関わることなく生活していたし、凛さん自身もそんな私に対して無理に関わろうとしなかった。

私とは対称的に、雪姉の生活は大きく変化したみたいだった。雪姉の変化に気づいたのは凛さんが来て約1ヶ月が経った頃だった。学校から帰宅して、小腹を満たすために台所に向かったとき、台所から凛さんと雪姉の声が廊下に響いていた。


「あっ、ちょ、雪音様! なんでじゃがいもを洗剤で洗ってるんですか!」

「えっ? 違うんですか」



「雪音様! 包丁は刀ではありませんから! そんな大振りでキャベツを切ったら危ないですよ!」



「雪音様! 油に水を入れたら…」

「えっ?」

「あっ、ダメ!」

「うわっ!」



「やっとできましたね。雪音様」

「はい」

「焦げましたね」

「はい…」


雪姉と凛さんが仲睦まじく、二人で料理をしていた。コロッケを作っているみたいだった。その様子を私は裏でバレないようにこっそり眺めていた。雪姉は不器用すぎて、見ていてハラハラするような調理をしていたが、口元は緩んでいて楽しそうだった。その様子に私は無性に腹が立った。人並みですらない雪姉が楽しそうにしていることが私にとってどうにも気に入らなかった。


「鈴夏様も隠れてないで味見してみませんか?」


突然声をかけられたことに心臓が跳ねた。恐る恐る2人の前に出る。雪姉は凛さんに隠れるように私の様子を見ていた。私は、焦げたコロッケを一瞥した。


「そんなゴミを私が食べる訳ないでしょ。それに、雪姉の作ったものなんて食べたら、私が穢れてしまうでしょ。私を落ちこぼれの暇つぶしに巻き込まないで」


そう言い放って、台所から出て行こうとした。


「誰が落ちこぼれですか?」


今まで触れたことのない殺気を感じ、即座に身構える。殺気の主は静かに佇んでいるものの、蛇のように鋭くした目つきで私を睨んでいた。急変した凛さんを目の当たりにして、冷や汗が止まらなかったが、私も負けじと言い返した。


「あなたたち2人に決まってるでしょ」

「雪音様が落ちこぼれ? 冗談はよしてくださいよ鈴夏様」

「はっ!? 碌な才能もなく、成績最下位の雪姉のどこが落ちこぼれじゃないと?」

「雪音様はもうすでに、鈴夏様より強いですよ?」

「冗談も過ぎてしまうと滑稽ですよ! 雪姉のことを買い被りすぎじゃないですか?」

「そういう鈴夏様もご自身の力を過信しすぎではありませんか?」

「口が過ぎるんじゃないですか? 女中の分際で」

「事実を伝えたまでだったのですが、鈴夏様の気に触れてしまったのでしたら申し訳ありません」

「………いいわ。そこまでいうなら決闘よ。謝るなら今のうちですよ?」


まさに、売り言葉に買い言葉だった。もう止まらなかった。


「雪音様、引き受けてくれますか?」

「でも私…」


2人の口喧嘩にオロオロしていた雪姉が急に矛先を向けられビクッと反応した。不安げな顔で凛さんを見つめ、決闘に難色を示す。


「引き受けないなら、凛さんを解雇させるわ!」

「そんなっ!」

「嫌なら引き受けて!」

「大丈夫です。雪音様なら勝ってくれるって信じてます」


雪姉は目を瞑り胸に手を当てて、逡巡した。そして、私を見つめた。


「分かりました。私、受けます!」


私と雪姉の初めての姉妹喧嘩が始まるのだった。


AI作:雪音さん

挿絵(By みてみん)


どうも、変態型理論破綻作家兼、落ちこぼれ理系大学生のぽっくんです。

毎度不定期更新でホントすみません。お詫びにAIで雪音さん描いてもらっておきました。

AIに小説ぶっ込んで描いてもらったんですけど、意外にクオリティー高いやつ描いてくれて驚いてます。

ホントは雪音さんの大事なところも見えていたんですが、さすがにR-18で引っかかると思ったので隠しときました(笑


小説の誤字脱字があれば報告よろしくお願いします。

あと1〜2話ほど回想が続くかもしれないです。


では、また次のお話でお会いしましょう

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