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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
21/26

真実

更新が不定期ですみません。

目が覚めると知らない天井だった。でも、病院のよくある石膏(せっこう)でできた天井じゃなくて木目調の天井だった。首を捻ると障子があり、隙間から日光が漏れているのが目に入った。


「そっか…」


自分が助かったのだと理解した。


「お目覚めですか」


暗い思考に入る直前に近くから声がかけられる。声の方にに目をやると無地の着物を着た女性が正座をしてこちらを見つめていた。取り敢えず、だるい上半身を起こし周りを見渡す。だだっ広い和室の真ん中に僕とその女性がポツンといた。


「ここは立花家の屋敷でございます」


あたりを見回していたからか、女性の方が説明してくれた。


「朝食の支度ができておりますので、ご案内いたします。」


布団から起き上がり、言われるがまま着物の女性について行く。


「どうぞ、お入り下さい」


部屋の前まで案内されると、着物の女性は失礼しますと言って、どこかへ行ってしまった。(ふすま)に手をかけて開けると、部屋の真ん中にお(ぜん)があり、上には食事がのっていた。用意されていた食事を口に含む。しかし、全く味がしない。それどころか、食事の最中にあの凄惨な光景がフラッシュバックして吐き気を(もよお)した。思い出さないようにするが、無意識に脳裏を過ぎる。


「雪音さん…」


脳裏を過ぎる度に持ってる箸で自分の首を刺して、逃げたくなる。もう、この気持ちをどう処理すればいいのか自分でもわからなかった。


「いけません、鈴夏様! 今は安静にと…」


進まない食事をしばらく続けていると襖の外から大きな声が聞こえてきて、足音がどんどん近づいてくる。


「どいて!凛さん」

「鈴夏様!」


"バシッ//"


突然、襖が乱暴に開けられ、その先には少女が立っており、僕を見るなり目の色を変えた。怨嗟(えんさ)のこもった瞳で僕を(にら)み、一歩また一歩と近づいてくる。僕は彼女から目を離すことができず、蛇に(にら)まれた(かえる)のように体が硬直して動かことができなかった。少女が目の前に来たかと思うと、勢いよく右手を振りあげ…



パシッッ!



頭の中に白い閃光が走った。


気づいた時には自分の体が横にのけぞっており、目線の数センチ先に床である(たたみ)があった。一瞬、なにが起きたのか理解できなかった。直後、自分の左頬に激痛が走る。平手打ちを喰らったのだと分かった時、僕は少女に馬乗りにされており身動きすら取れない状況になっていた。


「おまえのせいだ! おまえのせいだ!……」


部屋中には怒り狂う少女の怒声が共鳴する。それに合わせ、顔に激痛が走る。口の中は切れ、ドロっとしたものが口の中に流れた。痛い。痛いからこそ、ほんとは抵抗するべきなのだ。だが、今の僕にはそれが許される行為では無いように思えた。


「おまえのせいで雪姉が!」

「おやめください、鈴夏様!」


部屋まで案内してくれた着物の女性が慌てて止めようとするが、それを振りほどき、拳を振り上げた。


「お前さえいなければ! 雪姉があんな事にならずに済んだのに!」


勢い良く振り下ろされた拳は顔の直前で止まった。


「くっ…」


刹那、雫が頬に落ちた。目の前にある拳は強く握りしめられている。


「鈴夏様…」


しばらくそのままの体制だった少女はゆっくりと立ち上がり、部屋から出ていった。最後に見た彼女の表情は必死に何かに耐えているような、そんな表情だった。その表情を見た瞬間、罪悪感のような、それとは違うやるせない気持ちで胸が張り裂けそうだった。


☆☆


あの後、僕は凛さんと呼ばれていた着物の女性に土下座で頼み込んで、雪音さんのもとまで案内してもらった。案内してもらう前に、凛さんから「本当にお会いになられますか」と釘を刺すように確認された。僕はそれに強く頷いた。逃げたらダメだという気がしたからだ。


部屋の中に入ると、布団の上に雪音さんが横たわっていた。その姿は全身を包帯で覆われ、ところどころに赤黒い血が(にじ)んでいた。枕元には医療用の機械が置いてあり、そこから伸びたチューブが酸素マスクと繋がっていた。その機械の隣には心電図モニターがあり「ピッ、ピッ」と一定のリズムを刻んでいる。誰がみてもひどい状態だった。それでも、側から見ると今は安静に眠っているように見えた。


「雪音さん…」


そっと彼女の手を自らの手で優しく包み込む。そこには(かす)かな温もりが感じられた。


「良かった」


心が吐露(とろ)した言葉が()れた。昨夜の雪音さんの状態から、もうダメだと思っていた。だからこそ、今、雪音さんが生きているという奇跡を目の当たりにし、目頭が熱なる。


「雪音さん、早く元気になって下さいね…」


そっと呟いた。

雪音さんには感謝してもしきれない。雪音さんは命懸けで守ってくれし、僕の不安も受け止めてくれた。そのおかげで僕は今生きている。この恩は今世ではもう返すことができない。だから、僕は今後の人生をこの人の幸せのために生きようと心に誓いを立てた。


「翔太様…雪音様はもうお目覚めになることはございません」

「えっ?」


凛さんの突然の言葉は晴天の霹靂(へきれき)だった。だって、目の前の雪音さんは安静な状態だからだ。声の主の方に目をやると正座した凛さんが僕の瞳をまっすぐ射止めていた。


「雪音様は翔太様に助けられた時点で、解くことのできない強力呪いにかかっておりました。雪音様も自らの呪いが解くことができないことに気づいておられたのでしょう、雪音様はそのことを隠されたまま、新たな任務に就かれました。おそらく、私たちに迷惑をかけないために。雪音様はそういうお方ですから。本来であれば、立てなくなるほどの呪いの作用があったはずです」

「そんな…」


雪音さんは呪いにかかった素振りなんて一度も………

いや、あった。一度だけ、急にお腹を抑え始めた時が。じゃあ、雪音さんは本当に呪いに…


「じゃあ、雪音さんはもう…」

「はい…もう数日の猶予(ゆうよ)もございません。それを、雪音様自身も分かっておられたのか、自室の机の中に、遺書まで残されておられました。」


凛さんは口元を押さえ、涙ながらに言葉を紡ぐ。


「……」


凛さんの言葉に絶句(ぜっく)するしかなかった。雪音さんはどんな思いで戦っていたのだのだろうか。それを想像するだけで息苦しさを覚えるほど胸が苦しくなった。


「なんで…」


最後に口から絞り出た言葉はカラカラに乾いていた。

今回の話、自分自身で書いてて泣きそうになりました。


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誤字、脱字、表現の誤りがあれば報告よろしくお願いします。


では、また次のお話でお会いしましょう。

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