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僕のくノ一戦姫  作者: ぽっくん
孤独のくノ一
15/26

衝突

更新が遅れてしまってすみません。それではどうぞ。

「なっなんで…」


周囲を見渡した僕の口から小さく声が漏れた。平穏な河原の風景から一変、僕の目に映っている光景は暗黒--絶望だった。目の前の黒い(もや)は時間と共に次第に濃くなっていく。僕の背中には嫌な汗が流れ、胸が騒ついた。


「私達はこの場所まで誘導されていたんです」

「そんな…僕達は逃げてたんじゃ…」


衝撃の事実に唖然(あぜん)とするしかなかった。


「違うんです。私達はずっと物の怪の包囲網の中を移動していたんです」

「物の怪の包囲網?…」


雪音さんの言葉に嫌な疑問が僕の脳裏を(くすぶ)った。


「僕たちを追いかけてる物の怪は一体じゃないんですか?」

「元々は一体でした。でも、今私達を取り囲んでいるのは一体じゃないんです。物の怪の本体から分裂した従属獸というものなんです。私のわかる範囲では少なくとも五十体はいます」

「ごっ五十体!?」


更なる事実に空いた口が塞がらない。


「…いつから…包囲されてたんですか…?」

「恐らく、初めに出会った時からでしょう。あの時の従属獸が私たちの存在に気づいて、他の従属獣に居場所を教えたんだと思います」


本当に唖然とする事しか出来なかった。

一体だと思っていた物の怪が実は五十体で、ずっと僕たちを包囲していたなんて…

初めから逃げられるわけないじゃん…


頭が絶望に(さいな)まれている最中にも刻々と靄が黒さを増して行く。その距離は僕たちを中心に半径約二十メートル程。靄の中からは多数の視線ないし気配をひしひしと感じた。


こんな状況でも雪音さんは落ち着いていた。ただ、その瞳はとても鋭く、周囲を取り巻く靄を仇敵(きゅうてき)を見るように睨め付けていた。


「大丈夫です。私がなんとかしますから」


刀の柄に手を掛け、徐に鞘から抜き、白刃の切先を前方に向けた。

雪音さんはここで物の怪と戦うつもりなんだ。状況的には僕たちが圧倒的に不利。それに、雪音さんには「僕」というハンデを負っている。


「翔太くん、もしもの時はこれを使って下さい」

「はっはい」


前を向いたままの雪音さんからくないを一本手渡された。おもちゃのくないじゃない。金属でできた本物のくないだ。


「雪音さん…大丈夫ですよね?…」


雪音さんを信じていないわけじゃない。ただ、雪音さんがあまりにも決意に満ちた表情をするから不安になったのだ。


「大丈夫です。私に任せてください」


そう言って雪音さんは腰のポシェットから一枚の護符を取り出した。


「…き氷……壁……て……絶せよ」


雪音さんがボソッと何かを詠唱する。それと同時に護符の模様が淡青色に光った。直後、僕の周囲に護符を中心として厚い氷の壁が四方に現れた。頑丈な氷の(ろう)。雪音さんが護符術で僕の周りに氷の結界を張ってくれたのだと理解した。


「翔太くんは私が必ず家に送り届けますから」


そう言い残して、雪音さんは結界から少し離れたところに移動する。そして、大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

すると、雪音さんの周囲に白い冷気が点々と出現して、拳程の大きさの氷塊(ひょうかい)を十個程度形成した。

それと並行して、靄にも変化が起き始める。


鈍く光る赤い点が二つ。


それは、二つから四つ、六つと立て続けに現れ始め、終いには靄全体を乱雑に埋め尽くした。

見渡す限りの赤い点…その数は百を優に超えていた。改めて自らの立場を認識する瞬間だった。

雪音さんも周囲を見渡してより一層警戒を強めた。


静寂。水の流れる音だけがこの場の空気を振動させている。


お互いに動きを見せず、膠着(こうちゃく)した状態のまま時が過ぎていった。靄の向こうに見える高木もぴたりと止まって動かない。張り詰めた空気だけがこの場を支配していた。氷の壁越しでも伝わる緊迫感に僕も手に汗を握る。


突如として激しく(なび)く雪音さんのポニーテール。遅れて奥の木々たちも騒ついた。


"何か来る"


直感が頭の中で(ささや)いた瞬間、氷塊を展開した雪音さんの前に何かがゆっくりと姿を現した。



狼。



一匹の狼が姿を現したのだ。その体躯(たいく)は大きかった。そして、真っ黒だった。黒に黒を上塗りしたように黒かった。更に、体全体からはうっすらと黒い瘴気(しょうき)を出ていた。見るからにこの世の生物じゃ無い。

そいつは赤黒い瞳を炯々(けいけい)とさせてこちらをじっと見つめる……いや、僕しか見ていない。

その眼力に気圧されて思わず尻餅をついた。


そんな狼の殺気に加えて、こちらに向けられていない殺気がもう一つ。

雪音さんだ。

氷の壁越しで背中しか見えないけど、(まと)っている雰囲気が明らかに攻撃性を含むものに変化した。

数時間前の柔和(にゅうわ)な雰囲気は見る影もなく、含まれているのは殺意、憤りをごちゃ混ぜにしたものだった。


雪音さんの殺気を前に狼は怯むことはなく、寧ろ負けじと唸り声を上げて威嚇(いかく)を始める。()き出しの牙の隙間からは(よだれ)を垂らし、付け入る隙を虎視眈々と(うかが)っていた。

僕はくないを握りしめて祈るように見つめる。


ピリピリする程の殺気のぶつかり合いの中、先に動き出したのは狼だった。一直線に雪音さんに向かっていく。靄の中からも数体の狼が出現し、同じ様に駆けていった。

遅れて、雪音さんが刀を振るう動作をする。一コマの後に氷の(つぶて)がものすごいスピードで四散(しさん)していった。それらは先陣を切った大半の狼の顔面に直撃して、戦闘不能へと至らせた。


" グルルルルル  "


氷に当たらなかった一体の狼が雪音さんの間近に迫り、爪を立てて飛びかかる。


「ハァッ!」


威勢のいい声と共に振るわれた刀は狼の爪が雪音さんの体に触れることを許さず、代わりに狼自身の首を跳ね飛ばした。別々になった狼の首と胴体は慣性に従って地面へと転がる。やがて灰塵(かいじん)と化して霧散していった。

その間にも二匹目が雪音さんに肉薄して、正面から飛び込こむ。

それを雪音さんは体って捻り巧みに躱した。

直後、隙をつくように三匹目の狼が雪音さんの背後から襲いかかる。


「ハァッ」


だが、雪音さんは華麗な動きで振り返り、両手で握った刀でもって襲いくる狼の胸部に一気に突き立てた。突き刺した瞬間、狼の四肢がピンと伸び、すぐ後に力が抜けてダランとなった。

そこへ、攻撃体制を整えた二匹目が雪音さんに噛みつこうと踏み込む。

それに対して、雪音さんは左手を後ろに回すだけだった。背後を振り向く事なく。

狼の鼻先に雪音さんの掌が触れた。


" シュッッ "


霜が一瞬にして狼の体全体に広がった。

灰色になってカチコチになった狼はその姿形を一ミリも変えることなく、石ころの様に地面へと転がった。

すかさず別々の方向から二匹の狼が同時に雪音さんへと向かっていく。

雪音さんは刀に突き刺さったままの狼を振り投げ、片方の狼の動きを制し、(おど)り掛かかったもう片方の狼の真下に素早く入り込んだ。そして、いつの間にか手にしていた護符を狼の腹部に向けた。

雪音さんの手元が淡く光る。

その瞬間、百キロ以上ありそうな狼が真上に跳ね飛んだ。

飛ばされた狼は何が起きたのか理解していないようで、ジタバタと空を切って暴れていた。

ここで、先程、(しかばね)によって体制を崩された狼が再び雪音さんに突進していく。

それを雪音さんはバックステップで少し後ろに下がり、左手に氷柱(つらら)のように長く、先端の鋭い氷を生み出した。

飛びかかった狼が勢いをそのまま雪音さんに突っ込む。


「ハァッ!」


雪音さんも躊躇(ちゅうちょ)無く渾身(こんしん)の力で氷柱を狼に向けて押し出した。


" ズシャ "


不快な音と共に二体の狼が串刺しになる。一体は雪音さんに向かって突進した狼。二体目は真上から降ってきた狼。


「すっ…凄い…」


雪音さんの立ち振る舞いに驚嘆(きょうたん)の声が無意識に漏れた。今の一連の流れを三十秒にも満たない時間でやってのけたのだ。本当に凄すぎる。

これは僕の中に大きな希望が見えたでも瞬間だった。さっきから僕の中では「行ける!」という高揚(こうよう)感が渦巻いている。

雪音さんの強さは僕にそう思わせる程のものだったのだ。


狼たちは次々に(ほおむ)られていく。ある狼はくないで脳天を突かれ、また、ある狼は地面から出現した氷の柱に胴体を貫かれていた。

だが、圧倒的な数の暴力を、前に雪音さん自身も無傷という訳にはいかなかった。狼の連携攻撃を上手く()なすことが出来ず、爪で数カ所を引っ()かれていた。その度に見ていることしかできない自分を歯痒(はがゆ)く感じた。



" ドンッ " 



「うわっ!」


背後からの大きな音に心臓が飛び出そうになる。

振り向くと氷の壁に張り付いた狼。

悪意に満ちた赤い瞳が僕を捉えていた。その迫力は凄まじく、蛇に睨まれた蛙のように僕は動かことが出来なかった。


"ヴァオ ヴァオヴァオ ヴァオ"


急に吠えたかと思うと、ガギガギと氷を引っ掻いたり、牙を突き立てたりして氷を壊そうと躍起になり始める。

氷の結界のお陰で安全だと理解していても、獣の恐ろしさを感じずにはいられなかった。くないを握りしめる力が自然と強くなる。


" グサッ "


次の瞬間、生々しい音と共に目の前の狼の頭はくないで貫かれた。

反射的に後ろを振り返る。


「雪音さん!」


僕の瞳には左腕を狼に噛まれた雪音さんの姿が飛び込んだ。完全に牙が食い込んでいる。

雪音さんは苦痛に顔を歪めながらも、噛み付いた狼を振り払った。

僕のせいだ。僕が雪音さんの注意を逸らしてしまったから。


雪音さんが腕を噛まれてからというもの、明らかに動きが鈍くなった。左腕を庇うようにして戦っている。

相当痛いんだ…

その証拠に、指先からはぽたぽたと血が垂れ、地面に赤い染みを作っていった。


☆☆


「ハァッ!」


" ザシュ "


遂に最後の狼を雪音さんが倒した。倒れた狼は塵となって風と共に散っていく。僕らを囲んでいた黒い靄もいつの間にか無くなっていた。


「ハァハァ」


雪音さんは肩で息をしていた。無理もない。五十体以上の狼を一人で相手にしたのだから。

少し息を整えた後、刀を鞘に戻す。その後、噛まれたところを白い布で器用に結びながら結界の方に歩いてきた。そして、結界を解いてくれる。


「ごめんなさい。僕のせいで…」


氷の結界が消えた瞬間に謝った。


「翔太くんのせいなんかじゃないです。配慮できなかった私のせいです。それに、あれは元々躱せない攻撃でしたから」

「でも…」

「気にしないでください。少し噛まれただけですから。これくらい何ともありません」


雪音さんは飄々(ひょうひょう)と言うけれど、白い布には既に血が滲んでいた。きっと痛いのを我慢してるに違いない。でも僕は雪音さんになにもしてあげることができない。

僕のせいで傷を負わせてしまったのに…

本当に情け無い。


「さっ、早く逃げますよ。幸いまだ本体が来てません。今のうちに」

「…はい」


その場から離れようとした時、雪音さんが突然前のめりになって崩れ落ちた。


「アッ……ンッ……くっ……ンンンン……」


(うめ)き声をあげて苦しみ出す。


「雪音さん! どうしたんですか? 雪音さん!」


目立った外傷は左腕以外にない。引っ掻かれた跡も雪音さんの服に少し傷がついている程度で致命傷というわけじゃ無い…ならどうして?


「ハァハァハァ…ンンッ…」

「雪音さんしっかり!」


背中をさすってあげる。雪音さんはお腹を押さえて必死に耐えているようだった。雪音さんが苦しむ原因が分からない。お腹には傷一つなかった(はず)なのに。

それから暫くの間、雪音さんは苦悶の声を上げ続けた。僕はずっと背中さすることしか出来なかった。。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ」


少しだけお腹を押さえる力が緩んだ。少しずつ落ち着いたみたいだ。


「大丈夫ですか?」

「ハァ…ハァ…はい。もう大丈夫です。こんな時にすみまっ……翔太くん危ない!」

「えっ!?」


叫び声と共に雪音さんに飛びつかれ、抱きしめられる。咄嗟(とっさ)の出来事に頭の理解が追いつかず、混乱するばかりだった。


" ドン "


軽い衝撃が僕を襲う。



「アァァァァァア!」



直後、雪音さんの声が僕の耳をつんざいた。

後書き劇場


エタリン:雪音の姐さん…俺は止められなかった…すまない…すまない。


ぽっくん:どうしたんだ急に?


エタリン:お前のせいだろ!


ぽっくん:失敬な。俺は何もしてない。ていうか、お前のせいで更新遅れちゃったじゃん。どうしてくれるの?


エタリン:黙れ、この変態が!


ぽっくん:変な言いがかりはやめてくれよ。


エタリン:そんなに女の子を虐めたいのか? なぁ? なぁ?


ぽっくん:当たり前じゃ無いか(笑) 


ぽっくん:何を今更急に。


エタリン:このクソ野郎が! 俺が絶対に雪音の姐さんを救って見せる!


エタリン:お前なんかに雪音の姐さんを好き勝手させない。絶対に!


ぽっくん:おっおう…頑張れよ…(お前は本編にすら出ないけどな)


____


しょうもない茶番でした。毎回茶番だけだとアレなのでちょっと作品の話を。


いや〜 作品のタイトルばかり考えて、気づいたら一ヶ月くらい経ってましたわ。知り合いの大宮先生にも相談したんですが、結局ゴミのようなタイトルしか思いつかないわけで(笑)


タイトル例


「エ○チなくノ一雪音さん」

「The beast of eraser 〜monoの怪〜」

「夜伽相手は雪音さん」

「月夜に媾う」


極め付けは


「真冬の夜の淫夢」



と、まぁこのようなクソみたいなタイトルしか思いつかないのですよ…

なので誰かタイトル案ください(笑)


先に言っときます。


卑猥なのは禁止(俺が言うな!)


_____


誤字脱字、表現の誤り、矛盾点等がありましたら報告よろしくお願いします。


後、今回のように一ヶ月くらい更新が止まるかもしれません。楽しみにしてくださっている方々にはご迷惑をお掛けします。


それではまた次のお話でお会いしましょう。


_____

謝礼


ブックマーク十件になりました。ありがとうございます。励みになります。これからも創作活動を頑張っていく所存です。

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