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夢路

作者: 桜桃露雨


 今日も、仕事を始めるか…23時45分の最終列車が終着駅に到着する。俺の仕事は終列車を始発駅に回送する運転手だ。

 よその会社は知らないが、弊社では甲種免許取得後一定期間の旅客取扱業務は禁止されている。

 社内用語で「補勤」と言われる主に車庫で車両の位置を変える業務を一定期間こなし、終着駅から始発駅に最終列車を回送する業務に就く。

 次に来るのが、増・解運転と呼んでいる業務だ。地方都市から山間部に続く地方ローカル鉄道だからJRとの乗り換え駅と主張するターミナル駅からそこそこ乗客のある中間駅までと、中間駅から終着駅間までの乗客数は倍違うから、中間駅で車両を増結・解除する。

 そこで旅客の乗っていない増結用車両の移動を行う業務に就ける。俺は一応そこまで許可されているが夜勤になる回送業務の人手が足りず、下っ端だから駆り出されるわけだ。


 もともとは、国鉄駅と連結していたんだが町から市になった時に市街地適正化条例とやらで今のターミナル駅からJRの駅までの1㎞の路線が廃止された。

 JRは高架化することが決まっていたが弊社はその予算がなくJRに乗り入れできなくなるから路線維持をするメリットが低いと判断されたらしい。

 弊社の主な収入は「小口貨物の代行輸送業務」貨物列車を走らせる余裕はないし、走らせる必要があるほど荷物がない。

 ターミナル駅から中間駅までは客車2両+貨物車1両+客車2両で走り。中間駅で後部の客車を切り離す。

 終着駅から中間駅までは逆に貨物車を先頭に客車2両を引っ張って走り。中間駅で先頭の客車2両を増結する。


 元々は、終着駅からさきに事業免許で認められた路線が続くはずが、着工予算が足りず放置され続け結局事業免許の返納になった部分は営業路線の3倍に及ぶ。

 全線が開通していれば、地方都市間を結ぶ中規模私鉄になっていたはずだが…

 

 とりあえず当時温泉のあった今の終着駅まで開通させ運賃収入と沿線自治体、国鉄からの補助金で路線延長する予定だったらしい。

 ところが開通後に戦争があり、終戦後の混乱期に温泉も枯れ。難工事が予想された終着駅からさきのトンネル工事をする暇もなく着工の無期限凍結が決まったわけだ。


 転轍機(てんてつき)は始発ターミナル、始発ターミナルから次の駅までの間にある車庫という名の留置線、中間駅、終着駅のすぐ手前にある車庫、終着駅の5か所しかない。

 さてと、中間駅から3駅先の最終列車の終点から終着駅まで一人っきりの勤務が始まる時間になった。

 俺はしばらく走った後に違和感を感じた、まるで転轍機で走行する線路が切り換えられたような衝撃をブレーキレバーに感じた。ここに転轍機なんてない…気のせいか?

 さてと…終着駅はもうすぐ…ホームに留置を確認後、宿直室で仮眠を取り適当な列車に自宅最寄り駅まで便乗させてもらえば勤務終了。

 おかしい?もう何㎞走ったんだろうか?終着駅にとっくに到着しているはずだが。

 計器盤に置いた、駅掌時計(えきしょうどけい)で時間を確認しよう…23時46分…途中駅の青葉谷・山厨(さんず)早井(さい)芽井戸(めいど)の通過は確認したので確実に24時を過ぎているはずだ。電池が切れているのか?秒針が動いているが15秒を過ぎた瞬間、0秒になる。

 見たことがない駅が近づいてきた…信号は赤、ホームにまるで某宇宙鉄道の車掌のような人影が見える高く立てられた外套の襟、深くかぶった帽子で目しか見えない。

 ホームの停車位置に停車させると、手信号でドアを開けろと言ってきた…開けてはいけない!開けないといけない!…心が乱れ矛盾する思考に戸惑う。

 ぞろぞろと乗り込む客?暗闇に駅だけ浮かぶ、周囲は全く見えない線路すら…数メートル先で闇に消えている。

 冥土・賽の河原・三途の川…次々と駅が現れ流れ去っていく…彼岸駅でまた赤信号が灯った。

 車掌が最後に降り、俺に頷いた…気が付いたのは目的地である終着駅のホームの留置位置に泊まり留置処理を終えた運転席だった。

 顔なじみの当直がおい何時まで掛かっているんだと言ってきた声で目が覚めた気がする…

 そういえば、今日は8月13日…まさか…迎え火ならぬ迎え列車だったのか?


 その日の記憶はそこで途切れた、次に気が付いたのは20日…丸々1週間意識不明だったらしい。

 給料に送迎手当てがついていた意味は今でも分からない。

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