第三話 「カースト上位の6年生」
第二話以前の話をまだ読んでいないという方はそちらを先にお読みください。
ーーー時は2×××年
とある山の頂上に建つ「夕顔の森少年院」。
小学四年生から中学三年生までの少年少女が
収容されるその施設では「懲罰」と呼ばれる、
いわゆるお尻叩きが行われている。
小学四年生のユウマは一年間をここで過ごすこと
を命じられ、収容されている。
そして、現在に至る…。
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「ごめん!」
院内の学校の授業が終わり、放課後の自由時間、
ソウタがいきなり手を合わせ謝ってきた。
「いいよ。俺が見るのをやめなかったのがいけない
わけだし。」
ソウタは先日の思春期同盟の事件のことを謝っていた。
「でも、ユウマいい物見れたんだろ?幸せ者だな
ぁ〜。」
「そうだけどさ〜?懲罰の方が思い出的には勝ってるん
だよね。」
「そうだよな…。タイミングよく戻れて
俺は運が良かったと考えるべきか…。」
あとから考えれば補正がかかっていい思い出に
なっているような気もする。
だが、椅子に座るたび治りかけのミミズ腫れを
気にしてしまうため思い出す。複雑である。
「なぁ、外で何人か誘って鬼ごっこでもしない?」
ソウタがそう提案してきた。
僕は快く承諾し、人を集めて建物の外にある
広めのグラウンドに出た。
小さなマンション程の網が周りに張り巡らされ、
脱走を阻んでいる。
どの学年も、今は自由時間。
外に出る者、中で過ごす者、様々である。
「じゃんけんポ〜ン!」
ソウタが鬼になった。
僕を含めた数人の男子はグラウンドに散らばった。
必死で走った。前髪が風で持っていかれるが、
そんなことにも気づかず走った。
そして人があまり来ない、奥の広場にいることにした。
少し暗くて、遊びにくいため、いつも人がいない。
僕は大きな木の裏で隠れていることにした。
あれから少し時間がたった。そろそろ出て行こうか、
と、思ったその時、広場の入り口から人が3人の女子が
入ってくることに気づいた。
あの女子たちは…6年生だ。
しかもただの6年生じゃない。
小学生内のスクールカーストトップの存在の3人。
彼女たちは小学生の間では絶対的な存在。
太刀打ちできるのなんて一部の6年生男子しかいない。
気まずくなりそうなので広場を出ようとした。
が、彼女たち3人がしている会話を聞き、
木陰から出るのをためらった。
彼女たちがしていた話は、
いじめの話だった。
風呂の時間に誰それの服を盗んだだの、
自分たちのしたことを人になすりつけて、
懲罰にまで発展させただの、
そういうことだった。
今出たら、確実に会話を聞かれたと思うだろう。
口封じのために何をされるか分からない。
隠れていよう、、、そう思った。
が、その思いも虚しく、
「ねぇ、あそこに誰かいるよ?」
三人のうちの一人がこちらに気づいた。
近づいてくる足音、迫る影、そして…
「ほら!」
バレた。仲間にも僕の存在を伝えているようだ。
「君、何年生?」
「え、えっと…4年生です…!」
「あのさ…さっきの話、聞いてたよね?」
「え、いや、何も聞いてないですよ!?」
「ふふっ バレバレだよ。顔に書いてあるよ。」
この瞬間ほど自分の演技力の無さを恨んだことはない。
「名前はなんていうの?」
「えっと…ユウマです…。」
「ふ〜ん…。」
それから3人でヒソヒソ会話を始めた。
そしてこちらを再度見てこう言った。
「ユウマ君?悪いけどさぁ?お尻出してくれる?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
だが、彼女が言ったのは紛れもなく聞き慣れた言葉。
「あのね?内緒にしてくれるとは思うんだ?
だけどね?私たちがさっき言ったことは絶対
知られたくないの。」
「だからね、ユウマ君に、
絶対に黙っていてもらえるようにお尻ペンペン
することにしたの。この院っぽくていいでしょ?」
「…い…嫌だ!」
隙をついて木陰から飛び出して、入口へと走った。
「あ、待て!」
3人が追いかけてくる。案の定、歳の差には勝てず、
捕まった。
2人に両腕を掴まれ拘束された。
「逃げるなんて悪い子ねぇ。
アリサ?ユイ?そのまま押さえといてよ?」
今僕の右腕を掴んでいるのがアリサで、
左腕を掴んでいるのがユイだというのは分かった。
「でもユウナ、どうするつもり?」
リーダー格のコイツがユウナっていうのか…。
「とりあえず、ユイはそこのでっかい木の前で、
両足を押さえて、逃げられないようにしてくれる?」
「オッケー。」
「アリサはズボンとパンツ先に下ろしといて。
私はいい感じの鞭になりそうな木の枝探してくる。
抵抗するようなら、もう叩いといていいよ。」
「は〜い。 じゃあユウマ君ごめんね。
ズボンとパンツ下ろすね。」
「ちょ、やめて下さい!」
バチーン!
「あぁっ!」
いきなりお尻を叩かれた。
だが、アリサは何も言わなかった。
ユイと目を合わせてニヤけている。
「じゃあそうしたら、そのさ、前にある木に
手をついてくれる?」
抵抗はしてはいけないと思った。
逆撫でしたらどうなるか分からない。
「腰は60度くらい曲げてくれるといいかな。
その方が叩きやすいだろうし。」
まさか、慣れているのか?
ユウナの指示も初めてにしては的確だった気がする。
しばらくしてユウナが戻ってきた。
「お待たせ。なかなかいいのが無くてさ。
あれ?ユウマ君最近鞭打ち喰らった?
うっすら跡が残ってるよ?」
「本当だ、痛そう〜!」
「ポイント溜め込んだの?」
そうじゃない。これは男としての勲章のようなもの。
マナのために負ったものだ。
だか、説明することでもない。
「はい…。」
「バカねぇ。こんなにされちゃって。」
「まあ、今から私が新しい跡作っちゃうから、
関係ないんだけどね。」
3人は笑っている。何が面白いんだ。
「よし。始めます。」
ピシーッ!
この間のことをまた思い出してしまう。
この鋭くお尻に当たる鞭の感触。そして痛み。
ユイが脚を押さえているせいで、
ジタバタ動かして痛みを逃すことはままならない。
ピシーッ!
でも、この間の鞭打ちに比べたら、少し痛みは小さい。
子供と大人の差だろう。
ピシーッ!
が、激しい苦痛を伴う点で相違はない。
ピシーッ!
ただ、たった2歳差の女子たちからお尻を叩かれる
羞恥心はとても大きい。
僕は何も悪いことなんてしてないのに。
ピシーッ!
屋外なので音は響かない。
ここで起きていることに誰も気づかないのだ。
ピシーッ!
ユウナは完治していないミミズ腫れの部分を
集中的に狙ってきている気がする。
古傷を抉るように。
ピシーッ!
それがさらに痛みを増大させる。
ピシーッ!
「ちょっと…ユウナ…やりすぎじゃない?」
「大丈夫よ。アリサは心配しすぎ。
むしろこれぐらいじゃ全然足りないよ。
こんな鞭打ちくらいお尻は平気。
しかも男の子だもん。」
ピシーッ!
「そうか。分かった。じゃあ私は入り口で
人が来ないか見張ってるね?」
「うん。お願い。」
ピシーッ!
アリサの言葉に若干期待したのだが、
虚しく終わった。
ピシーッ!
「そうだ、ユウナ、お尻と太ももの付け根の部分を
狙うといいらしいよ。」
「へぇ〜。いいこと聞いた。ありがと。ユイ。」
ピシーッ!
「あぁ!」
余計な事を。
そこはこの前マナが最後の鞭打ちを受けたところだ。
あの鞭であそこを打たれたマナと比べれば、
僕はまだいい方かもしれない。
ピシーッ!
と、思ったが、僕の場合は一発では終わらない。
ピシーッ!
お尻と太ももの付け根を正確に狙って打ってくる。
ピシーッ!
思わず手に力が入る。
ピシーッ!
脚を掴んで押さえているユイは暇そうにしている。
ピシーッ!
それを見てか、
「ユイもお尻叩く?」
と、気を遣ったようなことを言った。
「うん!やらせて!」
「じゃあ私は脚を押さえとくね。」
ユウナは鞭打ちをユイにバトンタッチした。
ピシーッ!
こちらも同じ場所を手加減なしといった表情で
狙ってくる。
ピシーッ!
腫れて熱を帯びているのを感じる。
ピシーッ!
「ちょっとユイ、そこは私もたくさん打ったから、
ちゃんとお尻の部分も打とうよ。」
「はーい。」
ピシーッ!
一番痛い場所からズラしてくれるのはありがたいが、
ミミズ腫れの残っている今のお尻にとっては
結局痛みが増すだけなので、
どちらも同じようなものである。
ピシーッ!
振り出しに戻ったような感じがした。
ピシーッ!
「あ!」
驚いたような声がしたので、振り向くと、
鞭が折れていた。所詮は拾ってきたもの。
加工も何もされていない。
「ちょっと強く叩きすぎたかな。」
「しょうがない、手でお尻ペンペンすればいいよ。
二人でやろう。」
「うん。」
バチーン!
バチーン!
二人が片方づつのお尻を同時進行で叩き始めた。
バチーン!
バチーン!
リズムのない不規則な打音が少し気持ち悪くも思えた。
バチーン!
バチーン!
二人の手の感触が直に伝わってくる。
バチーン!
バチーン!
ユウナもユイもどちらも何人かのお尻をこうして
叩いてきたに違いない。
バチーン!
バチーン!
ある種のいじめといったところか。
バチーン!
バチーン!
長い時間をこの院で過ごしてきてなお、
お尻叩きの痛みには全く慣れない。
バチーン!
バチーン!
「ねぇ、ユウナ、そろそろいいんじゃない?
もう、お尻パンパンに腫れちゃってるし、
さすがにこれ以上叩くと懲罰のときに先生たちが、
変に思うんじゃない?」
「うーん…そうね。そろそろ終わろうか。
やっぱちょっと待って、最後にあそこにある、
棒みたいなやつで叩かせて。とってくる。」
さっきから僕も気づいてはいた。
ユウナが向かった先にある、太めの木の棒。
鞭というには太すぎる気もする、命名しがたい棒。
あれから繰り出される痛みを想像しただけで、
吐きそうになる。
「ユウナは厳しいねぇ。」
「これぐらいやらなきゃ口封じにはならないよ。
さぁ、ユウマ君、覚悟はいい?
最後にこれで思いっきり叩いてあげる。
いい、いくよ?」
「い、嫌だ!」
「ユイ!脚しっかり押さえてよ!」
「うん!」
「いくよ!」
バチィィーーン!!!
「痛あああぁ!!」
「バカ!大きい声出すな!」
失神しそうなほどの痛みに、思わず泣き崩れた。
そして大声で気持ちを表に出す。
「痛いようーーー!!!!!」
「マズい、人が来る、おーい!アリサ!逃げるぞ!」
3人は足早に去っていった。
誰か来た。先生だ。初めて見る人だけど。
「どうしたの!?こんなところで!?」
ここで言ったらまた同じ目に遭うかもしれない。
そう思うと口が開かない。
だが、ズボンとパンツを履いていなかったので、
何か異常事態であることは先生も分かっているはずだ。
職員による懲罰ならば屋外で行うはずはない。
ましてやこんなところで。
「あの3人は………!」
先生が何かに気づいたようだった。
3人と言ってユウナたちが逃げた方向を見ていたので、
逃げる3人を不審に思ったに違いない。
「ユウマ君、もしかしてあの3人にお尻叩かれた?」
僕の口は開かない。
先生はその方向へ走っていった。
僕もなんとなく、ズボンとパンツを履いて
後を追うことにした。
先生やユウナたちを探して校舎内を歩き回っていると、
一つの懲罰室から複数の大きな悲鳴が聞こえた。
いた。先生も、アリサも、ユイも、ユウナも。
3人は台に体を紐で拘束され、
鞭で撃たれている最中だった。
先生がこちらに気づいた。
「あ、ユウマ君!ごめんね、さっきは
見つけてあげられなくて。今きっちり懲罰してる
最中だから。この3人前を捕まえて、話をしたら
すぐ犯人だって白状したわ。」
ピシーーーーッ!
「ああああ!!!」
ピシーーーーッ!
「痛あーーっ!」
ピシーーーーッ!
「ごめんなさいーーーっ!!」
「ほら3人とも!ユウマ君に謝りなさい!」
ピシーーーーッ!
「ああぁー!ごめんなさいーーっ!」
ピシーーーーッ!
「ごめんなさいーっ!許してーーっ!」
ピシーーーーッ!
「痛ああぁ!!!ごめんなさいーーーっ!」
「ユウマ君どう?許す?」
思い出す。この3人から受けた仕打ちを。
そんな簡単に許せるはずがない。
「嫌です!許したくありません!」
キッパリと言ってやった。
「そう。分かったわ。じゃあ、私が責任を持って、
この子たちを鞭打ちしておくわ。
3人とも、今から数を数えなさい!
私が数えるのはここまでです!
ユウマ君は保健室で、お尻冷やしてらっしゃい。」
「はい。」
果たしてどれぐらい叩いてくれるのだろうか。
僕も一度味わったあの鞭で。
しばらくしてまた懲罰室に向かった。
まだ悲鳴は止んでいない。
ドアのガラスから中の様子を伺った。
3人のお尻は赤や、紫のミミズ腫れだらけで、
所々皮膚は破れ、血がにじみかけている部分もあった。
僕の一件の他にも、いじめの話とかをしていたから、
そういうところでも、追及されたんだと思う。
すると、アリサが解放された。
あまり僕の鞭打ち自体に関わらなかったからだろう。
お尻を出したまま、壁際に立たされている。
あとの二人は依然として台に縛られたままだ。
ピシーーーーッ!
「81!!!」
81!?81回ってことか。
既にユイは81回鞭打ちを受けているのか!?
いつもなら申し訳なくなるところだが、
今日ばかりはざまぁみろだ。
ピシーーーーッ!
「81!!!」
ユウナも81回。つまりアリサは80回で解放か…。
多いのか?少ないのか?
数がここまで違うと辛さも想像がつかなくなってくる。
一応、保健室で氷水はもらったと報告を先生に
しておこう。
ガチャッ
「先生…、保健室に行ってきました…。」
「場所は分かったのね。よかった。」
「先生、あと何回打つんですか?」
思わず聞いてしまった。
「ユイちゃんは120回で、ユウナちゃんは160回かな。
厳しいけれど、こうでもしないと、あなたや、
他の被害者の子たちも報われないでしょう?」
「はあ…そうですか…。」
ピシーーーーッ!
「82!!!」
ピシーーーーッ!
「ああああ!!」
「ユウナさん!数を数えなさいと言ったでしょう!
もう一度82からよ!」
ピシーーーーッ!
「82!!!」
一度は許せないと豪語したものの、
やはり複雑な気持ちになった。
鞭で160回も叩かれたら今月中には完治しないだろう。
椅子に座ることも、初めのうちは傷口に水が染みて、
入浴もとても大変になるだろう。
たとえお尻がミミズ腫れだらけでボコボコになろうが、
赤色や紫色になろうが、先生が鞭を止めることはない。
あくまで課外的な懲罰であるため、
基本の300ポイントルールは、付き纏うこととなる。
先生が二人に鞭を振る音が、
時計の秒針の音を追い抜いていった。