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夕顔の森少年院  作者: ガルーシャ
2/3

第二話 「思春期同盟」

第一話を読んでいない方はそちらからお読みください。

ーーー時は2×××年


とある山の頂上に建つ「夕顔の森少年院」。


小学四年生から中学三年生までの少年少女が


収容されるその施設では「懲罰」と呼ばれる、


いわゆるお尻叩きが行われている。


小学四年生のユウマは一年間をここで過ごすこと

を命じられ、収容されている。


そして、現在に至る…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



午前11時。


少年院生活といっても、授業のようなものがある。


今、算数の授業の真っ最中である。


授業中ももちろん油断はできない。


基本的な「300ポイント」の懲罰の他にも


もちろん課外的な懲罰だってある。


他学年の教室から泣き叫ぶ声がたまに聞こえてくる。


もちろんこの教室も例外ではない。


ただ、厄介なのは、先生のさじ加減次第で、


課外的な懲罰の有無や、強弱や数が変わることだ。


今、算数の授業をしている先生はというと……


……大ハズレである。


おそらく20歳位の4年生クラス担任のこの先生は、


些細なことでも懲罰を執行する。


その懲罰は全ての授業が終わった後に精算されるため


待ち時間が発生することもある。


優しい表情で油断させてくる強敵である。


「じゃあこの問題を…マナさん!お願いします。」


指名されて答えられなかった位で懲罰にはならないが、


話を聞いていたなら確実に解ける問題の場合は別だ。


授業中ボーッとしていようものなら…


「え!えっと……わ、分かりません…。」


「話聞いてましたか?マナさん。」


と、まぁこうなって、


「聞いてました……!」


「いいえ!授業を聞いていれば分かるはずです!

分からないなら、放課後残りなさい!」


こうなるわけである。


「はい…。」


小さく返事をしたマナはうつむいて泣きそうになっている。


優等生のマナが課外懲罰など珍しいなと思った。







午後3時。全授業終了後。


ここから午後4時半までは自由時間である。


「なぁ、ユウマ!」


そう廊下で声をかけてきたのは同級生で友達の

ソウタだった。


「朝のこと覚えてる?」


「朝のこと?」


「ほら!マナがさぁ…!」


そういえば!という顔を作った。


興味が無かったかのように。


あくまで今思い出したかのように。


「わざとらしいなぁユウマは。」


バレていた。黙るほかなかった。


「それでさ!今からこっそり見に行かね?」


ソウタのその言葉を理解するのに

時間はかからなかった。


「懲罰をってこと?」


「そうそう!あんなカワイイ子の懲罰なんて

見るしかないでしょ!」


「ダメに決まってんじゃん!思春期か!」


見たいか見たくないかと聞かれたら確かに迷うが、


そういうことではない。


「見つかったら俺ら2人ともどうなるか

わかんないよ!?」


「大丈夫だって!ドアの隙間なんて先生もマナも

気にしてないって!」


「で…でもさ…?」


「見つかったら、お前だけ逃げろ!」


「…え?」


ソウタはドラマみたいなセリフを吐いた。


「責任は俺が取るから!こんなチャンス次に

いつ来るか分かんないよ!?」


「………分かった!やろう!

そして俺は責任を取らない!」


「よし!その意気だ!俺たちは思春期同盟だ!」


思春期同盟か。


うまく言いくるめられた。僕の意思じゃない。


そういうことにしておこう。


心を落ち着かせ、数メートル先の教室のドアの隙間を

目指す。






ベチィィーン!


お尻を叩く音が聞こえてくる。


こんな音もこの院では聞き慣れている。


ベチィィーン!


ドアの隙間は目の前。ソウタが先陣を切った。


「あれは……金物差しだ!」


「シーーーーー!!!声が大きいよ!」


「ごめん…!でも見てよ!」


先生の右手に握られていたのは長く分厚い金物差し。


金属独特の打音が響いている。


マナのお尻は時すでに遅しといった状態だった。


ベチィィーン!


「ごめんなさい…先生…!」


必死に許しを乞い続けるマナを尻目に僕たちは


黙って傍観している。


先生も四つん這いのマナを押さえるのと、叩くことに


必死で僕たちに気づく様子はない。


いつの間にか僕たちの間に会話は無くなった。


ベチィィーン!


何もあそこまでと思った。


「なぁ、ユウマ。やっぱりそろそろ戻らないか?

バレたらきっと俺らもああなるぜ?」


「もう行くの?まだ大丈夫だって!」


いつの間にか立場が逆転していた。


「え…?じゃ、じゃあ俺は戻るからな!

絶対見つかるなよ…!」


「あぁ…!分かった!」


一人になった。


ベチィィーン!


変わらず懲罰は続く。そして、ある恐ろしいことに

気がついた…。


ソウタがさっき言ったこと…!あれは……!


ドラマの死亡フラグだ!


やばい、戻ろう。


そう思った時にはもう遅かった。


ドアが開いた。地獄のドアが開いた。


「そこで何してるの!!!」


言い訳なんてできない。


かといって正直に言えるはずもない。


何もできず固まっていると、


「ユウマ君も来なさい!!!」


案の定下された死刑宣告。


もっと早く死亡フラグに気付いていれば……


死なないと分かっていても恐怖は収まるところを

知らない。


「マナさんの横に並んで四つん這いになりなさい!」


マナはなんとも言えない表情をしている。


そして裸のお尻が横に二つ並んだ。


ベチィィーン!


嫌というほど聞いた音が自分のお尻からより鮮明に

響いた。


今までに金物差しの懲罰を受けたことはなかった。


未経験の痛みがお尻全体を駆け巡る。


ベチィィーン!


今の先生はマナに興味ナシだ。


今の標的は僕だけだ。


ベチィィーン!


三発目にして涙で目が覆われた。


桁違いだ。


ベチィィーン!


「なんであそこから覗いてたの?ユウマ君。」


ベチィィーン!


もう聞かれないと思っていた。


ベチィィーン!


「答えられないの?自分のことですよ!」


ベチィィーン!


「分かるはずなんですけどね!分からないなら

お仕置きですよ!」


ベチィィーン!


分かってるさ。もちろん。でも、答えられない。


ベチィィーン!


マナの懲罰が見たかったなんて言えない。


ベチィィーン!


というか、先生だって薄々気付いていると思う。


きっと意地悪なだけだ。


ベチィィーン!


今は耐える以外にこの場を乗り切る方法は無い。


ベチィィーン!


「あぁ!!!」


急に金物差しの標的がマナに移った。


油断していたからかマナが声を喘がせた。


ベチィィーン!


と、思ったらまた僕の方に戻ってきた。


標的が2人になった。


ベチィィーン!


変わらず先生は僕らのお尻を叩き続ける。


ベチィィーン!


なんでこんなことに…


ベチィィーン!


何が思春期同盟だ…!


ベチィィーン!


なんで…なんで…!


ベチィィーン!


自分が悪いのはよく分かっている。


ベチィィーン!


あそこで僕もやめればよかった話だ。


ソウタのせいじゃない。


ベチィィーン!


だから、僕がお尻を叩かれている今の状況は納得できる。


ベチィィーン!


マナにそこまでする必要があるのかと思った。


ベチィィーン!


もしかしたら僕らが現れなければ今頃マナは


腫れたお尻をさすって部屋に戻っていたかもしれない。


ベチィィーン!


そう思うと、罪悪感が沸々とこみ上げてくる。


ベチィィーン!


いわば無慈悲な連帯責任。


ベチィィーン!


僕らが先生の怒りを買ってしまったせいで…


ベチィィーン!


マナとたまに目が合い気まずくなる。


ベチィィーン!


きっとマナはそんなこと思ってないだろうけど。


ベチィィーン!


「痛いです…先生…」


「手をどかしなさい!」


痛みに耐えかねたマナが手でお尻を覆ってしまった。


「先生…許して…」


あぁやめとけばいいのに…!素直にどければ…!


「素直に懲罰が受けれないようなので罰を追加です。」


マナの表情にさらに絶望感が溢れてくる。


「鞭打ち10回追加します。立ちなさい。」


「先生…それだけは…!!」


「12回に増やします。」


この4年生クラスの担任の懲罰中の妨害行為は、


自殺行為に値すると言ってもいい。


泣きじゃくるマナを見ていると、とてもいたたまれない


気持ちになる。


これも僕らのせいだったらどうしよう。


そう思うと、勝手に口が開いていた。


「先生…!僕も一緒に受けます…!


なのでマナの鞭打ちの回数を減らしてください!」


言ってしまった。


でもきっと言わなきゃ後悔したはずだ。


「………分かりました。ユウマ君がそういうなら


1人6回の計12回にしましょう。」


マナは泣きながらも困ったような顔をしている。


「そのかわり、2人がちゃんと鞭打ちを受けられなかっ


たりしたら、最初からやり直しですからね。」


僕もマナも黙ったまま台に手をつき腰を曲げ、


鞭打ちを受ける姿勢をとった。


受けたことはない。ただ、懲罰の作法は全員


覚えさせられるため、姿勢を取るまでは早い。


先生が鞭を手に取った。よくしなる長い鞭。


来る…!!!僕の方が先か…!


ピシーーーーッ!


「ああぁ!!」


思わず体をよじらずにはいられない。


お尻の皮膚がボロボロになっている子をたまに


見かけるが、たった今、納得がいった。


あと5発もある。考えたくなかった。


先生がマナの方へ少し移動した。


ピシーーーーッ!


マナは意外にも声はあげなかった。


足をバタバタさせて赤いお尻を揺らしている。


ピシーーーーッ!


反射的に歯を食いしばっていた。


きっと慣れることなんてない。


6発分引き受けてよかったと思う。


こんなのを12発、ましてや小4に耐えれるはずもない。


最初からになるのがオチだ。


ピシーーーーッ!


2人の姿が鏡に反射している。


2人のお尻にそれぞれ2本の真っ赤な線が刻まれている。


ピシーーーーッ!


教室の空気がより冷たく感じられる。


鞭が風を切る音とともに電流のような痛みが走る。


ピシーーーーッ!


涙が台にポタポタ落ちている。


マナはひたすら黙って耐えている。


ピシーーーーッ!


やめておけばよかったと、思いが揺らぎそうになる。


ピシーーーーッ!


2人の痛々しいミミズ腫れが鏡に映っている。


ピシーーーーッ!


これで…あと1回…!


マナの様子がおかしい。黙って耐える決意が信念が


揺らいでいる…?


表情からなんとなく感じとった。


このままじゃまずい。


さすったり、姿勢を崩したら問答無用でやり直しだ。


ピシーーーーッ!


「耐えろ!!!」


思わず声に出していた。


正気を取り戻したように、こちらを見て


涙をこぼしている。


次が僕のラストだ。


終わる…!


ピシーーーーッ!


激痛。それ以上でも以下でもない。


でも、耐え切った。鞭打ち6回を耐え切った!


あとはマナだけだが…。


先生はお尻と太ももの付け根に鞭を当てている。


筋肉や皮膚が薄い部分。


幾多のお尻を叩いてきた先生はきっとそういうことも


熟知している。


張り上げられた。そして…


ピシーーーーッ!


「痛あぁ!!!」


最後に何かが爆発したように声を上げて、


その場で崩れた。


マナのお尻に6本、赤いミミズ腫れが残っている。


「終わりです。パンツを履いて部屋に戻りなさい。


今日の自由時間の間、部屋で反省してもらいます。


ズボンは今日の反省が終わるまで没収です。」


そういうと、足早に先生はその場を去った。


お尻を触ってみると、デコボコしているのが分かる。


鏡で確認してみる。


肌の色が分からないほど赤く染まった金物差しの跡。


そこに浮き上がる6本の赤い線。


今週の300ポイントは既に消費し終えている。


せめてもの救いだった。


パンツを履いてマナと一緒に部屋に向かった。


誰にも会わないことを祈りながら。


「ユウマ、、、さっきはありがとう。」


「え?あぁ…うん。いいよ、全然。」


罪悪感を消し去る程の優越感。満足感。


ソウタの死亡フラグがなければこの幸せは得られなかったかもしれない。


思春期同盟も悪くなかったなと思った。


そしてもう二度と作らないと誓った。




































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