『最強の能力』をもった一般人
やあこんにちは。私は『 』だ。日本生まれで、中堅冒険者としてのんびりとした毎日を過ごしている。まあ私の事なんか覚える価値がないに決まっているだろうけど一応言っておくよ。
え、早く話せだって?嫌だなあ。余裕は持っておくべきだよ。まあわかった、どうしてこの世界にいるのか話そうか。
まず、私はクラスメイトと共に授業を受けていた。
そこまではなんの変哲もない日常だ。これだけだと全く面白みもない話で終わってしまう。つまり、ここからが問題なのさ。
チャイムが鳴り響くと共に、床が光り始めた。
今だからわかるけどあの魔法作った人は頭おかしいよね。何故光らせる必要があったのだろうか。床一面なんてどれだけ魔力を消費すると思ってるのさ。行動阻害するなら障壁でも張れってんだ。
話を戻そうか。それで、私はもちろん逃げだそうとしたさ。しかしながら、そんな時間もなく光が教室を埋め尽くしてしまったんだ。
目がとても痛くなったね。当然目を開けられる状態ではなく、目を閉じてしまった。
まあ、あとは大体分かるよね。とある文学作品のように言うと目を開けたらそこは教会だった、ということ。
女神像が飾ってあって、ゆったりとした服を着ている人達がいて、謎の光が満ちている。ステンドグラスがあったらほとんどの人が想像する典型的な教会そのものだったよ。
女神像だからキリスト教では無さそうなのに十字架がシンボルなのはいまだに疑問だよね。
で、そこに現れる40人の学生服の人達。雰囲気ぶち壊しだね。いやまあ、私たちのことなんだけどさ。
というか、何故か教師はいなかったんだよね。まあ、扱いづらいと思われたに違いないさ。実際、あの場にいたら話が面倒になってきていただろうからね。
まあ、みんな優秀ではあるんだけど、流石にこの事態には慌てちゃってね。まあざわざわしてたわけだよ。
そしたらとても偉そうな人がよくとおる声でみんなを黙らせたあとに色々説明してくれたんだ。
神より遣わされし者どもだとか邪悪なるものを討伐する勇者達とかとてつもなく面倒で演技くさい言い回しで説明してくるから、ほとんど聞いていなかったけれど。
え?私も面倒な言い回しをしているだろうって?ははは、私のは情報を深く伝えるために必要なんだよ。決して回りくどい言い方ではない。いいね?
よしよし、わかってくれたならいいよ。この話し方が気にくわないとか言ったなら、なんやかんやすることもやぶさかではないからね。
それで、話を聞かなかったのは言い回しはもちろんあるけれどそれだけじゃないんだ。
つまるところ、こんなの怪しいに決まっているだろうという訳さ。
いやだって、誘拐もどきされてきた直後にいきなり助けてくださいと言われても困るし、何より子どもに頼ろうと言うその姿勢がそもそもまずいことだし。
浮き足だったままの人達に洗脳もどき仕掛けているようにしか見えなかったしね。
その話が終わったら、一斉に自分達の前にプレートが出てきたんだ。ステータスプレートってやつさ。
どうにも異世界からやって来た人には神から固有スキルが与えられるらしく、その確認のためらしかった。
みんな興奮していたけど、反対に私の心は落ち込んだね。何事にもイレギュラーは存在しうるものなんだってその身をもって学べたよ。
だって私は固有スキルが無かったんだから。
流石にこれは泣きたくなったね。もしここが小説の世界だとしたら命の危機に解放されるとかあったんだろうけど、私が特別なんてあり得ないからそんなことも起きないし。
実際問題何度か命の危機にあっても何もなかったから本当に固有スキルが無いことが分かっちゃったし。そこまで自分がダメダメだとは思ってなかったよ。本当に。
このせいで神様なんて信じなくなったね。いや、実際に存在していないわけではないから信じないというよりは信用しないと言ったほうがいいのかな。
あれ?なんでそんなに驚いた顔をしているのかな?君ならちゃんとわかってる気がしたのだけれど。
スキルの名称とか鑑定魔法で表示されている情報とかは一体誰がつけているのかとか疑問に思ったことは無いの?
少なくともそれを行っている何者かがいるはずじゃないか。そんなことができる存在は神と定義されていると思っているのだが。納得できた?
まあ、そのあとはなんやかんやあってこんな風になったのさ。
え?そのなんやかんやの部分が聞きたいの?
しょうがないなあ。手短に終わらせてもいい?話し疲れちゃった。
それはお前が原因だろうって?まあそうだね。しかし私はこのスタンスを貫き通すつもりでいるからね。嫌なら次から私に話を聞かなければいいじゃないか。私が私に決めつけているものなのだからどうしようとも私の勝手なのだからね。
ちなみに鬱陶しいからって逃げないでね。君が私に話を聴きに来た時点でこうなることは決まっていたのさ。
ここから重要になってくることは、私の存在が神を否定しうるものだってこと。神の遣いに危害を加えたら大変なことになること。それぐらいしかないよ。
固有スキルが無いことで神が完璧ではないとわかってしまったからね。神が絶対の存在として信仰している人からすれば凄まじいことだよね。
そうなった人はどうするのかな。まあ、普通は認めないよね。ましてそこは宗教国家なのだからさ。とはいっても、大体の行動が私がそうなるだろうと思った通りだったからなんとかなったね。狂信者は恐ろしいけど分かりやすいものだよ。
臭い物には蓋をする。ああこれはたとえ話であって実際に私がそうってわけじゃないからね。あいつらにとっては変わりないのだろうけど。
とにかく、あいつらは私という存在を隠蔽しようとしたんだ。勇者は39人だったってね。聞いたことあるでしょ?じゃないと君は私にたどり着けやしないだろうからね。
しかし、そう公表したってのに40人目が教会に入り込んでいるって状況はかなり不味い。裸に剥かれて普通の服に着替えさせられたらすぐに国外追放さ。何とかポケットの中身だけは確保したんだけど、いきなり脱がされるのはたまったものじゃないよ。
ああそうそう。制服っていうのはさ、ポケットの中に修繕用のものが入っているんだよ。あて布だったり、ボタンだったりね。
追放された後、近くの森の中で数日過ごしたよ。どれくらいかというと、勇者の噂が広がるくらいまでね。地味にこの時が一番きつかったんじゃないかな。全身ボロボロになっていたからね。
で、森の中を歩き通して何とかたどり着いた村に保護してもらって─────というわけではないんだよね。
実は私、その国に入国して環境を整えてから大手を振って国を出ていきました。
え?追放されたんじゃなかったのかだって?言ったでしょ、隠蔽したって。
正門ならまだしもほかの所じゃ存在すら知られているわけないじゃん。
それにただ歩いたところでどうしようもないし。
まあ、入国時や住む場所を探すときにごたごたはあったんだけど、全て何とかなっちゃった。
勇者ってすごいよね。名前だけは一人前だよ。ほんと。
あれ、いまいちピンと来ないかな。ほら、運よく持っていたんだよ。
制服用の紋章付きのボタンがさ。
この人はすごい人なんだぞ、って周りに伝えたいときにはどうするか知ってるかな。
そう、周りとは違う服を着せればいいんだよ。特別だって思わせるためにね。
やっぱりというべきか、勇者のお披露目会の際に全員制服を着ていたんだよね。
分かりやすく特別感を出すためにさ。
だから、ボタンの事も大体の人は知っているわけ。
そんな特別なボタンを持って、勇者様にあなた達のことをたよりにしなさいと言われましたなんて言ったらどうなると思う?
みんなよくしてくれたよ。笑っちゃうくらいに。
で、学んで働いて金を稼いでって感じに過ごして、後はばれないうちにさようなら。
流石にいつまでもばれないなんて思いあがれるわけじゃないからね。悪いとは一応思ってはいたけど仕方のないことだったのさ。
後はもう、ここまで流れ着いて適当に頑張って。
何度も当たり前のように死にかけたりはしたけど、とりあえず中堅程度まで行けましたとさ。
まあ上級とかの人外魔境にはどうあがいてもいけないからここで頭打ちなんだけどね。
流石に元が貧弱の一般市民がそこまで行けるわけがないんだよ。中堅っていうのも戦い以外で貢献してきたからであって、戦いどおしでやってたら死んでるね。うん、間違いない。
これで私の話はおしまい。
君にとってほとんど意味のない情報だったからなんやかんやで済ましたのに、君がどうしてもって言うからここまで話してやったんだぜ。だからここは君だけで払ってもらおうか。私からはびた一文出さないからな。ちゃんと君だけではらうんだぞ。
まあここまで飲み食いして君に全て押し付けるのもなんだし、君が一番望んでいるであろうことを言ってあげるよ。
あいつらは何も変わってなんかいないからな。
結局はこれが聞きたかったんでしょ?ということで私はもう帰らせてもらうよ。これ以上はしらないからね。のぼせあがったバカどもの思考なんて考えようとも思わない。
ひとつ確実に言えることとすれば、
君がいる限り、あいつらは確実に終わりを迎える
じゃあね、〇〇。全てが終わったらまた会おう。というか会いに行くから。
私にしゃべらせたくなければ君が話すといい。話のタネが39個分あれば満足するから。足りなければ質問攻めにしちゃうぞ。
頑張って集めてくるといい。
41人目─────いや、40人目さん
え?これのどこが主人公最強だ、だって?
当たり前の事聞くんじゃないよ。
だって
思い通りになっているだろう?