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『カラス』


 走る。走る。走る。

 目の前を走る大きな剣を背負ったスキンヘッドはコチラをたまに振り返って僕が着いて来ているかを確認しながら、スピードは一定に保って僕の先を走り続ける。


 今走っているのは地球で言うオフロードだ。整備された道ではなく、自然剥き出しの人の手が一切附いていない獣道が有るかすら怪しい道だ。

 いくら僕がスポーツをお父さんに仕込まれていて、その技術の維持と体力向上の為に日夜走っていた日常を経験してたとはいえ、それは全て整備のされた道での話。その上つい先程まで本物の人を殺せる剣での斬った張ったの大立ち回りをして神経を磨り減らし、昨晩からは地球のような整った環境ではなく完全な土の上での就寝と疲れる要素がてんこ盛りの状況が続いていた。


 だから自然、僕の走るスピードがドンドン落ちていったのは自明の理だった。


 「なんだ、体力無ぇな。ホントさっきまでの威勢はどうした?」


 スピードを落として僕の少し前まで戻って来たボスさん(仮称)がこんな森の中で、進行方向に背を向けバックで走りながら僕に声を掛けて来た。

 そんな体勢なのだから木にぶつかってもおかしくないのだが、ボスさん(仮称)はぶつからず、しっかりと避けている。


 「これまで、此処とは、比べ物に、ならないほど、裕福な、所で、育った、からね。そこでは、これでも、体力は、物凄く、有る方、だったんだよ?」


 息も絶え絶えに、なんとかそう返す。


 「へぇー。()()でか」


 「悪、かった、な!」


 ソレの部分を強調しながら言われて、少しムッとした僕は、今出来る最大の苛立ちを籠めて返事した。

 そんな僕の様子を愉快そうに笑いながら、ボスさん(仮称)は続きを話し始めた。


 「もうすぐ着くから根性出せ。


 後でテメーや他の奴等の顔合わせはしっかりやってやるが、取り敢えず俺と俺達の事を軽く説明してやる。


 俺の名前はローランだ」


 ボスさん(仮称)ことローランさんはその自己紹介を皮切りに、色々と説明してくれた。


 まず彼等は、分類としては『盗賊』に入るらしい。

 道を行く荷馬車を襲い、貴族の家に忍び込み、王家の墓を荒らし、自分達の欲しいものを盗むことで手に入れる。その時に必要であれば、命さえ奪う。そこに義賊のような信念は無く、ただ自分達の欲求の赴くまま欲しいものを手に入れる。そうして隣の国を散々荒らし回って今僕達が居る国に巣を変えた盗賊。それがローランさん達盗賊団『カラス』の世間一般の認識らしい。


 『カラス』の情報はモナ・リザさんから貰った知識の中にもその存在は確認出来てた。

 モナ・リザさんから貰った知識の中には『人数不明』『ボスの名前不明』『設立時不明』『犯行現場には必ず(この世界の文字で)カラスという名前が記された何かを残す』『カラスの団員は捕まえても捕まえても減らない』『今代1の大盗賊団』。そういう世間一般に知られる情報だけだった。

 『カラス』が今現在何処で活動しているとか、ボスの名前が誰かとか、具体的にどんな事をしてきたのかとか、そういった情報は無かった。


 ローランさんから聞かされたのは、その『カラス』の実態とも言うべきもの。その大まかな情報だった。


 ・『カラス』は今から50年前に在った様々な解体された裏組織の生き残り達が結成した盗賊団。

 ・『カラス』結成当初は裏で暗躍してお金を稼ぎ、自分達の所属していた組織を潰した奴等へ復讐するのが目的だった。

 ・『カラス』のリーダーは必ず仕事の時は『カラス』を名乗る。現在の『カラス』はローランさん。

 ・『カラス』の犯行は大半が『カラス』に罪を被せたいか『カラス』の模倣犯による犯行で、実際の『カラス』のメンバーはトーマンさん達を襲っていたメンバーに加え、現在アジトにしている場所の見張りの為に置いてきた3人を含めた計15人構成。

 ・『カラス』は元々別の国で活動していたけど、当時のリーダーだった人物がローランさん達を逃がすために1人囮になることでこの国に逃げて来た。

 ・『カラス』に罪を被せたい、『カラス』の模倣犯、これ等は前リーダーまでのリーダー達が道を通る馬車を襲う以外の犯行前に予告状を送って周囲を混乱させ、混乱に乗じて逃げていたという昔の犯行が原因で『カラス』の存在が世間に知れ渡ったため。

 ・『カラス』は基本、仲間を助けない。助けに向かうことで組織が壊滅しては元も子も無いから。

 ・結成当初の『カラス』は違ったが、現在の『カラス』は復讐や報復といった活動をしない。ヘマをしたらその人の完全な自己責任。

 ・食事は基本奪った物から行う。奪えなければ最悪、奪った金品を売るなり奪ったお金を使って街で買い物をする。

 ・ヤりたくなったら娼館へ行くか捕まえた女で済ませる。


 大雑把に『カラス』についてはこんなことを説明された。

 個人的に最後のは特に聞きたくなかった。


 『カラス』の名前を聞いた時に改めて思ったけど、『カラス』はなんというか、その名に恥じない性質を持ってるみたいだ。

 狡猾で、頭が良くて、雑食で、時には非情。


 そんな組織に僕は入れられた訳だ。

 トーマンさん達を救うためとはいえ、どうしてこうなっちゃったんだろう……。




 ローランさんから気の滅入る話を聞かされている内に、どうやら目的地に着いたらしい。

 場所はどうやら僕がこの世界に着いた時に居た彼処のちょうど反対辺りらしい。此処からでも街の壁みたいなのが見える。ただ最初に見た街の壁とは見えてる角度が左右逆だ。

 そんな場所にある洞穴みたいな場所がどうやらアジトらしい。

 入口の前には長身で首にマフラーみたいなのを巻いた腰に2本の剣を差した男と、背中に弓を背負った僕と同じぐらいの身長のソフトモヒカンの男が居た。


 「お疲れカラス。ソイツは?」


 「今回の獲物を助けるために飛び出して来た甘ちゃんなクソガキだ。ただその戦闘技術は非常に高かったからスカウトした。

 一撃か二撃で仕事に行った奴等の内4人をあっという間に無力化しやがったんだ。スカウトしねぇ訳がねぇだろ?」


 「その話が本当なら確かに俺達の新しい戦力になるな。

 見た感じ()()は殊更やったことありませんって顔をしてるが、殺しをやれば他の仕事なんて簡単なもんだろうな。


 よう新人。俺はアクセロ。得物は見てわかる通り弓だ。これから大変だろうが、仲良くやっていこうや」


 「……柚木です」


 「……カラス、本当に納得して連れて来たのか?なんだかツレないぞ?」


 「コイツは自分の身柄と獲物の命を天秤に掛けた。それだけだ」


 「あぁ、なるほど……。


 改めてユズキ。今後はよろしく」


 「…………」


 洞穴前に居た弓を背負った男はアクセロというらしい。

 ………まぁ、このローラン含め進んで関わりたいと思える相手じゃないみたいだけど。


 「…………」


 「お、悪い悪い。

 ユズキ。隣のデカブツはルキアス。剣の腕は相当なモンだが、俺達の仲間になる前に首をやられてて声が出せねぇ。だから最初はコイツが何考えてるかわかんねぇかもしんねぇがその内わかるだろうから気長に付き合っていけ」


 「………」


 アクセロにそう紹介されたもう1人の男ルキアスはアクセロの紹介が終わると共にマフラーをズラしてその下の傷を見せて来た。

 傷は塞がっているが、あまり見ていたいと思えるようなものではなかった。

 僕が見たのを確認した彼は、静かに頭を下げてきた。


 「柚木です」


 名前だけ名乗り、僕も頭を下げた。


 「顔見せは終わったな。

 ユズキ。基本的にこの2人は此処で見張りをしてる。だからお前と一緒に仕事をすることは無いだろうが、交代の時は有るからその時に交流を深めとけ。


 腕は2人とも俺とそんな変わらん。ルキアスにいたっては俺より強い。もしルキアスが喋れたらルキアスが『カラス』になってた。変な気は起こすなよ」


 ローランが2人の捕捉をしてくる。

 ………捕捉というより、明確に『コイツ等はお前じゃ敵わない相手だから死にたくなければ逃げるなよ』って忠告かな。


 ホント、これからの事を思うと嫌になる。


 「………わかってるよ」


 僕はなんとかそれだけを返した。




 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




 「よぉしテメー等!今回はなかなかの収穫だった!それに加えて強力な仲間も手に入った!


 ユズキだ!コイツは今回の獲物を助けるために飛び出して来たクソガキだ!その上俺達を傷付けずに無力化しようとした甘ちゃんだ!

 だがその戦闘技術は相当なモンだ!実際、俺が途中で相手しなきゃ、今回の仕事は失敗に終わってた可能性が非常に高い!腕は恐らく上から数えて4番目ぐらいだ!コイツの強さはワブとウィルマとサッカスとダーダに聞け!コイツ等、ユズキに一撃か二撃ほどで無力化されやがった!


 さて、前口上はこれぐらいで良いな?

 じゃあ、飲むぞ!!」


 「「「おぉぉおおおおおおお!!!!」」」


 恐らく夕飯刻。トーマンさん達から奪った物の整理が終わり、彼等が食堂として使っているであろう広い部屋に案内された僕は、ローランの号令とともに他の『カラス』のメンバーに揉みくちゃにされた。

 特にローランが言っていたワブ、ウィルマ、サッカス、ダーダという人達からは『テメーよくもやってくれやがったなクソッタレ!』と罵られながら、酒を注がされたり背中をバンバン叩かれながら相手をさせられた。



 改めて『カラス』のメンバーを見てみる。



 スキンヘッドで左目が潰れた大きな剣使いの現『カラス』のリーダーであるローラン。


 此処には居ないけど、長身で咽が潰れて声を出せないけどその剣の腕はローランより上らしい群青色の髪をした双剣使いのルキアス。


 一見チャラいけど少し話しただけで面倒見が良さそうという印象を受けた薄ピンク色の髪をした弓使いのアクセロ。


 僕に最初に寝かされてずっと背中をバンバン叩いて来る世紀末を連想させるような格好のくすんだ玉虫色みたいな髪色のワブ。


 2番目に僕に寝かされたセミロングぐらいまで伸びたロールの掛かった髪でくすんだ金髪のサッカス。


 3番目に僕に寝かされた茶髪で目の鋭い茶髪の剣使いウィルマ。


 最後に僕に寝かされた短髪ウルフヘアの黒髪斧使いのダーダ。


 アクセロ達と此処に残っていた『カラス』の頭脳を自称している金髪でナイフ使いのドルドルンデ。


 ………何故か僕を見て股間を膨らませてる、身の危険を覚える黒人のようなスキンヘッドボビー。


 そんなボビーを羽交い締めにして僕の方に彼が来れないようにしてくれているイタリア人を連想させる薄い金髪の剣使いマルクス。


 マルクスと一緒にボビーを抑えてくれている剣を腰に差した、確かタルワールという剣使いのマルクスと似た顔のマルコス。


 ボビー、マルクス、マルコスのやり取りを肴に遠くから見てるボサボサ頭の青髪ユーバッハ。


 ユーバッハと一緒に飲んでる何故か腕だけ真っ黒な赤髪のトーン。


 ユーバッハとトーンの酒を注いではボビー、マルクス、マルコスのやり取りをゲラゲラ笑いながら見てる茶髪で日焼け痕の凄いナーバナス。


 僕がこの食堂に来てからずっと、ジッと僕のことを見続けて来る全身を覆うほど大きなマントを羽織っている黒髪長髪のザザーザ。



 此処まで見た目と行動だけでとてもユニークな人達は地球の人達と比べたら居ないだろう。


 ……彼等が盗賊じゃなくて、普通に冒険者だったら、素直に仲良く出来たんだけどな…。


 「おう、飲んでるか?」


 「………お酒は故郷の慣わしで20歳にならないと飲んじゃ駄目だからね。僕も20歳になるまで飲む気は無いよ」


 『カラス』のメンバーを観察しているとローランがやってきた。

 彼がやって来ると、先程までずっと僕の背中をバンバン叩いていたワブや僕を見て股間を膨らませていたボビー達は、急に何事も無かったかのように僕から意識を外して他の仲間達と飲み始めた。

 あれだけしつこかった筈なのに。


 「何かした?」


 「『カラス』では新人が入る度にリーダーは新人とサシで飲む慣わしなんだよ」


 そう言って僕の向かい側に座った。


 「どうだ、美味いか?」


 「……そもそも食べてないし飲んでないからわかんないよ。

 仮に食べてたとしても、本当に美味しいと思って食べられないだろうし」


 「悪事を働いて手に入れた物は穢らわしい……とか、そういうなんの役にも立たねぇ道徳観ってヤツか?

 そんな考え糞喰らえだな。飲み込んで腹に入れば、それがどんな手段で手に入れた物だろうが関係無ぇな」


 「………へぇ、『カラス』って、ウンコ食べても『腹に入れば同じ』って考えなんだ。より一層此処で物は食べられそうにないよ」


 「言うねぇ。確かに今の俺の言葉をそのまま受け取るならそういう解釈も出来るだろうな」


 そこでローランは1度区切ると、手に持つ酒の入ったコップを煽った。


 「だが食べねぇと死ぬぞ?その辺考えてんのか?」


 「………どうにかするよ」


 「どうにか、ね……。ま、これからよろしく」


 ローランはそう言うと立ち上がって他の仲間達の所へと歩いて行く。


 ローランが立ち去った後、誰か来るかとも思ったけど、誰も近寄って来なかった。


 クソッ!

 ……絶対逃げてやる。


 僕はヒッソリと『カラス』から逃げるという誓いを立て、ローランに寝る場所を聞いて、早々に床に着いた。



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