初戦闘ー1
僕の居た所から1番近い人目掛けて突進する。そしていざ接触しようかというタイミングで急ブレーキを掛けてボクシングの構えをして左でジャブを首筋に見舞う。
ジャブは見事当たり、1番近くに居た人は早々に寝てその場に倒れた。
ただ、襲ってる人達の仲間が僕に気付いたのも同時だった。
「おい!急に出てきたガキがワブの奴を殺りやがったぞ!」
別に殺してはいないんだけど。
ただその声と共に、護衛の人の1番近くに居た人を除いてその他の人達全員が僕の方を向いた。
基本地球での格闘技は1対1から多対1を想定した技術だ。勿論軍式だったり戦争の有った頃なんかの作戦の中には数的に1対多のような構図になる術も有っただろうけど、それでもやっぱり白兵戦では1対1の物が基本だ。
所謂『喧嘩慣れ』という格闘技とは呼べないものも有るけど、アレはアウトロー向けの『競技』と呼べないものだ。
僕が修めたのは『競技』と呼ばれる物が基本だ。だから1対多なんて経験したことなんて無い。そういう荒事とは無縁の人生を送って来たからね。
……ただこの状況を思うなら、不良な人達と1度か2度ほどは殴り合いをしてみても良かったかな?
そんな事を考え震える体を誤魔化しボクシングの構えをとる。
「おいガキ。テメー、自分が何やったかわかってんだろうなァ?」
襲ってる人達の中で1番大きな剣を持ったスキンヘッドで左目が動物の爪みたいなので引っ掻かれて見えなくなったであろう男が残った右目で僕を睨んで来る。
完全に見た目がイメージの中のヤの付く人達のボスだ。
「……そういう貴方達だって、自分達が何をしているのかわかってるの?」
僕がそう言うと途端に襲ってる人達が笑いだした。
「おいおい、声が震えてんぜガキィ?」
ニヤァと獰猛という言葉を連想させるネットリと体に絡まって来るような気持ち悪い視線をコチラに向けて来るボスさん(仮称)。
……挑発かな?まぁ実際、恐くて奮えてるのを必死に抑えてるのは事実なんだけどね。
「そんな声を震わせてるようなガキに、仲間を1人やられるような貴方達こそ笑い者になるんじゃないの?」
恐怖を誤魔化す為に、挑発を挑発で返す。
すると再び笑いが起きた。流石に言葉にされなくてもわかる。完全に馬鹿にされてる。
「不意討ちで1人殺れたからって良い気になんなよなァ?
いや、もしかしたら殺ってねぇのか?テメーの腰に差してる物を使わずに殴りに来たって事は、さてはおめぇ、俺達を傷付けずに倒そうって腹積もりか?
だったらこりゃァ傑作だ!そんな勇気と蛮勇を履き違えたクソガキ君には、現実の厳しさを教えてやんねぇとなァ?」
ボスさん(仮称)がそう言って仲間の男1人に向けて顎をクイッと動かすと、指名されたお仲間さんはニヤニヤしながら剣を僕に向けた。
「さァてガキ。死ぬ覚悟は決まったかな?ン?」
「……貴方こそ僕に不様に倒される覚悟は出来てる?」
「言うネェ…?じゃあ、アバヨ」
男はそう言い終えると斬り掛かって来た。
うん。普通に恐い。
でもここで目を閉じたらそれこそ死んでしまう。
僕は目を瞑りたい気持ちをグッと堪えて男が斬る為のモーションに入るのを待つ。
マウンテンフォレスト君が言ってた。『戦いの中で人ってのは攻撃する時とトドメを射す時が1番油断してる。だからホープ。もしそんな状況になったら、攻撃される瞬間を待て。そして相手が攻撃モーションに入ったタイミングで』
「今!」
僕は相手が攻撃のモーションに入ったと同時に相手の懐へと踏み込んだ。
元々フェンシングなり居合なりで武器を使った対人試合は慣れてる。これもそうだと思えば、恐怖もいくらかマシになった。
剣を振り上げ、今正に僕を斬ろうとしてる男の懐に入り込んで、彼の顎に向けて右左とフックを入れる。
フックは見事男の顎を側面から叩き、強制睡眠の条件である『左手袋の外側の指部分が素肌に触れる』を満たし、ついでに脳震盪が起きるように脳も揺らすことで意識を刈り取る。
本当は格闘技を試合以外で他人に使っちゃ駄目なんだけどね!今は誰かを守るためと自分の身を守るために必要だったということで、気にしないでおこう!
斬り掛かって来た人をたった2回殴っただけで気絶させたからだろうか、今のやり取りを見ていた他の襲ってる人達が一斉にニヤニヤ顔を止めて僕を睨んで、各々の武器を構え始めた。
「ただのビビりかと思えば、腕事態は相当なものらしいな。
おいお前等。もう2人ほどを獲物に人数割いて、残ったメンツでこのガキ殺るぞ」
その言葉と共に襲ってる人達はボスさん(仮称)の命令に従って各々分かれた。
………やっちゃった?すんなり過ぎた?
完全に襲ってる人達の中から嘲笑や僕を馬鹿にするような雰囲気は完全に無くなり、それこそ全力で僕を殺そうとして来ているのだと嫌でもわからされてしまった。
………ホント、やっちゃった?
僕が内心、本気で第2の人生が終わりそうだと泣きそうになっていると、急に大きな声が聞こえた。
「君!私達の事は良いから、この事を早く街の衛兵に伝えて来てくれ!そうすることがこの場での最善だ!」
声の主を探すために視線を動かすと、護衛の人達に守られていた僕等より身形の良い人がコッチに手を振りながら叫んでいる様子が見えた。
こんな時でも他人の事を気遣える素晴らしい人なんだな……。
今自分が置かれている状況を忘れてそんなことを思ってしまう。
そうすると、どうだろう?何故かそう思うと、内側から元気が漲ってきた。勇気が湧いてきたとでも言うのかな?とにかく『何が何でもあの人達を助ける』という気になってきて仕方がない。
気付けば震えは止まっていた。