付与系創造使用
助ける。そう決断したけど、手段はどうしようかな。
魔術は確かに練習したけど、いきなり人に向かって使うのは危ないように思う。野球選手でもない一般人が、狙った所目掛けてボールを投げられないのと同じように、たぶん失敗すると思う。
失敗したら、最悪襲われてる人達に当たるかもしれないからそれだけは絶対に避けないといけない。
剣も…、たぶんあの護衛の人達の方が僕より剣の扱いは上手いと思う。そんな人達が苦戦してるんだから、あの人達より剣の扱いが下手な僕が行っても足手まといになる可能性が高いように思う。
となると、僕に残された手段はお父さんに仕込まれた格闘技な訳だけど……、
「流石に刃物を持った人を相手にするのはな…」
現代日本ではほぼあり得ない話だけど、もし僕が日本に居た頃にマウンテンフォレスト君が話してくれた『もしも授業中に刃物を持ったテロリストが襲ってきたらどう対処するか』とか『もしも刃物を持った人が人質の首に刃を当ててる危ない状況で自分に人質を助けるだけの力が有った場合どう対処するか』とか、そんな話のような状況を本当に経験していたらまた違ったんだろうけど、本気でコチラを傷付けるつもりで刃物を奮う相手に対して身を守る以外の行動をする勇気は現時点では無い。
というか、ここで僕と同じ条件で考え無しに飛び出せる人は、たぶんアドレナリンが過剰分泌されて変に舞い上がってる人ぐらいだと思う。
さて、ここまでを踏まえた上で僕に残された手段は……、モナ・リザさんから貰ったのであろう『付与系創造』の力、かな?
一応知識としては力の使い方はわかってる。それに、マウンテンフォレスト君の言葉を借りるなら『想像を創造する』というのがこの付与系創造の創造の部分なんだろう。
ただ…、マウンテンフォレスト君は一杯『例えば』の話をしてくれて案も一杯出してくれてたけど、僕自身はそこがよくわからなかったんだよね。
それに加えて付与でしょ?もう訳がわかんないよ。
でも、やり方を模索している内に護衛をしている人達の体にドンドン傷が増えていって、何人かが僕から見ても満身創痍だとわかるほど傷だらけになってるのがわかる。
残された猶予は少ない。
なら、一か八かに賭けて何かしら試してみるしかない。
そうと決まれば、何処に何を付与するかを考える。
まず、絶対に襲われてる人達が危なくなるような付与は絶対にしちゃいけない。次に、これは出来ればだけど、襲ってる人達が死ぬような付与もしないようにしたい。人殺しなんてしたくないし、この情景を見た感じ、人を傷付けなければならなくなる事は今後来るかもしれないけど、まだその決心がつかないからやりたくない。
そうなると、必然的に出来る事も減ってくる。
そして1番効率的なのは、恐らく襲ってる人達を強制的に眠らせること。
マウンテンフォレスト君が言ってた。『人は寝てる時と、トイレしてる時と、えええエッチをしてる時が1番無防備!だから、死にたくなければ今言った事をするときは絶対に周りに信頼出来る奴が居るときだけにするんだぞ!!』って言ってたっけ。
死ぬ前に久し振りに会った時にこの事を言ったら泣きそうな表情をしたあと、耳まで真っ赤にしながら顔を手で隠して『忘れてください。お願いします。若気のいたりなんです。あとマウンテンフォレストって呼ぶのも止めてください。普通に山森って呼んでください』なんて何故か敬語で言ってたけど。
マウンテンフォレスト君との思い出はさておき、この状況でトイレとかエッチとか、そんな状況になる訳がない。じゃあ残った寝てる時というのをやるのが1番出来る可能性が高い。日本とか現代基準で考えるなら、即効性の高い強烈な睡眠ガスを顔に噴射するとか、手術するときの麻酔みたいなものだと思えばイメージしやすい。
睡眠系にするとして、じゃあ何処に付与してどのタイミングで効果が発揮されるかも考えよう。
このまま、例えば剣に付与したとして、『剣に触れたものを強制的に眠らせる』とかいう効果にしたとして、剣に触れたもの=僕まで寝ちゃうとかだと本末転倒だからね。
で、何処に付与してどのタイミングで効果が発揮されるかだけど……、………。恐いけど、『左の手袋の外側の指の部分が素肌に触れた時』にしようかな。
こうすれば、お父さんから仕込まれた格闘技の延長で避けたり流したりすることに意識を向ければ良いから、剣とかで怪我しちゃうとか考えなくて済む。
それに、もし今後、手袋したまま誰かに触れる事が有ったとしても、素肌に触れなければ良い訳だから、左にしとけば握手とかでの事故の予防もしやすい。
そうと決まれば早速創造して付与しよう。
モナ・リザさんが言ってた事をよく思い出して意識する。
モナ・リザさんは『能力を想像して、その想像を現実の付与したい物に重ねる』って言っていた。
今の場合、能力は『付与したものに直接触れたものを強制的に眠らせる』。付与したいものは『左の手袋の外側の指部分』。
目を瞑り手を組んで、強く、強く強くイメージして、それが現実だと思い込む。
そしてそれを現実の付与したい物に重ねる。
すると、元々の僕の想像力なのか、はたまたモナ・リザさんのの言っていたこの世界に適応した体故か、それとも純粋に付与系創造の力の恩恵か、魔術使った時とはまた違った、体から何かが抜けて行く感覚が僕の中で起こる。
目を開けてみれば、左手の手袋の指部分の上に『強制睡眠』という文字が浮かんでいるのが見える。
これは…成功したって事かな?
だけど、成功したかどうか、確認してから実行したいけど、どうやらそんな時間は最早残されていないらしい。
最初見た護衛の人はもう1人しか居なく、他の人達は地面に倒れてた。残った1人も、出来るだけ襲ってる人達を近付けないようにするためか無闇矢鱈に剣を振り回してるだけだけど、その剣速だってもう目で追えるレベルだった。
襲った人達は、僕の居る場所から見える限りだと、護衛の人のそんな反応を楽しんでいるのかニヤニヤしていて、正直見ていて気持ちの良いものではない。
一刻の猶予も無い。
僕が出来る準備はしっかりやった。あとは立ち向かうだけ。
ハッキリ言って物凄く恐い。恐いけど、此処で逃げたらこの世界では一生逃げ続ける事になりそうなのは、直感的にわかった。だから立ち向かうしかない。
僕は勇気を振り絞って、襲ってる人達に向かって駆け出した。
【捕捉】
付与系創造で創造された能力は本来元からこの世界に存在する能力です。本来元から世界に存在している能力を主人公がその都度自分に都合の良いように改造したものが基本的に主人公の使う付与系創造です。
ですので能力の名前的に主人公が想像したものとは少し違った能力であったり求めた能力より強かったり弱かったりする能力が出来上がるかもしれません。今回の『強制睡眠』が良い例ですね。
主人公の行っている事を敢えて食事に例えるならバイキングです。『求めるある程度完成されたものを皿に取ってそのまま食べたり、好きにドレッシングやマヨネーズやケチャップやソースを掛けて自分好みのものにして食べる』。主人公がやっていることは正にこれです。
今後はこの後書きにて新しい能力が出る度に、主人公が都合の良いように造り換えた能力ではなく、本来この世界に存在する方の能力とその説明を捕捉していこうと思います。
『強制睡眠』
この能力が付与された対象または付与された対象内に入ったものを強制的に眠らせる能力。この『強制睡眠』に抗いたいのならば『強制睡眠防止』能力が付与された対象または付与された対象内にあらかじめ所持しているか入っているかしなければならない。