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バイバイつまんない世界


  つまんない。

 この世界はなんてつまんないんだろう。


 こんな事を思うようになったのって、いつからだっけ?



 初めて言葉を喋った時?   違う。


 初めて歩いた時?   違う。


 初めて友達が出来た時?   違う。


 初めて文字を読み書き出来た時?   違う。


 初めてテストで100点を取った時?   違う。


 初めて部活をした時?   違う。


 初めて習い事の大会で優勝した時?   違う。


 初めて性的に男や女を意識した時?   違う。




     初めてこの世で産声を上げた時?











         たぶんそう。






 うん、たぶんそう。僕は生れた時からこの世界に飽きていた。


 生まれた時からこの世界は僕にとってはつまらない物だった。

 生まれた時の事はわかんないとか言うけど、僕には事実としてそう感じ続けて現在()を生きてる。


 生まれた環境や時代が関係していると言われれば、まぁ、納得する部分は有るけど、やっぱり関係無かったと思う。


 僕はこの世に生を受けたその時から、この世界に飽きていた。



 たぶん、勉強やスポーツなんかが所謂『少しの努力』で実を結んだ事も、大いに関係していると思う。

 漫画やアニメなんかでは、バトル漫画だと最強のキャラなのに、恋愛系の作品のキャラにしてみたらただの人って物が有るらしい。

 そうすれば、いくらつまらない、飽きている世界でも、新しい着色やジャンルの違いから、その最強のキャラは簡単に負けたりするらしい。


 でも、ソレも僕から言わせたらご都合主義ってヤツで、果てしなくつまらない。


 現実でそんなことが起こる訳がない。いや、起こったとしても、ソレは双方の感情や考え方次第で簡単に覆す事が出来る。

 僕は恋愛という物を美しく感じたり、尊い物だと感じたりするし感じることが出来る。そんな映画やドラマを見て胸や目頭を熱くすることだって有る。

 でも、自分となると、何処までも冷めてしまって、なんだったら気持ち悪くなるとさえ言える。

 僕も恋に恋したりだとか、誰かを強く想うだとかしたら変わってたのかしれない。

 でも、そんなことは無かった。



 だからやっぱりこう思う。



 つまんない。

 この世界はなんてつまんないんだろう?


 例えばさ、人が死んだりだとか、極端な話、あり得ない経験をしたとするよね?ソレが現実か非現実かはともかく、死にそうな体験から魔法を使ったなんて夢物語が本当になったって経験をしたとするよね?

 でも結局はさ、全部が全部、非日常は慣れたら日常になって、現在(日常)をつまんないと思ってる人にとっては最終的にはつまんなくなるんだよ。

 僕の考えの押し付けじゃないよ。世界の真理はこうだと偉そうに何でも知ってるかのように説きたい訳でもないよ。

 ただ僕はそういう考え方をしているって一人言を呟いてるだけだよ。

 こうでもしないと、生きてる事すらも作業に思えて、全部がつまんなくなりそうだから。



「ホープおはよう!今日も元気そうだな!」


「うん、おはよう。酒井君、髪切った?」




「ホープ君おはよう!今日は眠そうだね?大丈夫?」


「おはよう鍬田さん。うん、ちょっと夜更ししちゃってね」




「おう、ホープじゃねぇか。借りてた金返すぜ」


「おはよう円君。貸してたのって、確か500円だっけ?じゃあ利子込みで700円ね」




 もう10年以上続けているつまらない登校。

 勿論小学校から中学校へ。中学校から高等学校へ上がるに辺り、通う学校が違うし公立ばかりだったから住所も違う。でも、『学校に通う』事については10年以上変わらない通学路。ソレを通って学校に通うのは、10年以上経っても変化の無い物だ。そりゃもちろん、最初の1週間は慣れない物珍しさからそこそこ新鮮ではあった。だけどそれも10日も過ぎれば日常になって、やっぱりつまらない物になる。


 僕はそんな通学路を通って学校に登校する。


 それで学校内で僕を見た僕を知ってる人達はみんな挨拶をしてくれる。

 僕も勿論、そんな彼等に挨拶を返す。たまに冗談を混ぜたりしながらね。


 こういった何気ない事を尊いと思う。

 世界にはこの、僕の当たり前が夢幻(ゆめまぼろし)のような人も居る訳で、ソレを想うと僕は幸せで、とても重要で大切なやり取りだと実感する。


 でもね、それはそれ。やっぱり思うんだ。


 つまらないって。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



 放課後になる。

 僕はいつも通りの変わらない通学路を通って下校する。


 コレも10年以上経っても変わらない。


 教室を出るとき、みんなから「また明日」の言葉を聞いて、ソレに返事をして、下駄箱で靴を履き替え、歩いて帰る。


 なんの代わり映えの無い、つまらない日常。


 僕の家は、文武共に厳しい。

 生まれて立てるようになってからすぐに父親には空手や柔道なんかの有名な物からマイナーな物まで、様々な武術の稽古をさせられた。

 生まれて言葉が話せるようになってからすぐに母親には国語や英語なんかの有名な物からマイナーな物まで、様々な国の言葉などの学術を教え込まれた。

 此処で何か1つでも、出来なかったり伸びなかったりすれば、まだマシだったように思う。

 だけど僕は、全部出来てしまった。


 いや、語弊が有るかな?


 体の成長に合わせて、次々に出来る事を増やして、出来るのだと証明してしまった。だから今更、学校の勉強なんてつまらない。

 だからやっぱりこう思う。

 つまらないって。



 家に帰ったらその日の内に着ていた物を手で洗い、翌日のお弁当の準備をして、お母さんの作ってくれる温かい夕飯を食べて、お風呂に入って、勉強して、今までに習った武術の型をおさらいしてから寝る。

 別にネグレクトじゃない。両親との関係が悪い訳でもない。ただ両親の教育方針で、朝食と昼食は自分で用意して、一人立ちした時の為に備えるという目的が有る。その為に洗濯は自分で洗濯だ。ソレに土日は家事をお母さんがしてくれる。

 お父さんは頑張って働いて、僕やお母さんの為に一所懸命にお金を稼いでくれてる。

 僕は確かに、この両親から愛されていて、大切にされてると思う。

 昔からお父さんお母さんに言われた習い事以外でも、僕が興味を持ったら何でも用意してくれたし、応えてくれた。

 だから僕も、そんな両親に感謝の気持ちを籠めて応えた。


 でもね、だからって、つまらないことには変わらない。




 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




 つまらない日々は僕が死ぬまで一生続くだろう。

 つまらな過ぎて、気が滅入りそうだ。


 ……もしかしたら、もう滅入っていて、気が狂ってるのかもしれない。


 でもね、だからといって自殺しようとか、殺されようとかなんて思わない。だって、ソレは此処まで育ててくれたお父さんとお母さんの2人を裏切る事と同じだと思うから。


 だから僕は、両親の死を看取って、天寿を全うしてからしか死ねない。

 でも、そんなことを考えてても、やっぱりこう思ってしまう…。


 つまんない。


 僕はお父さんとお母さんに対して、とても申し訳ない気持ちになる……。




 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




 その日のその出来事は唐突だった。


 日付は……あんまり記憶に無い。元から気にしていなかったからね。

 ただ、そうだな……。曜日は確か、学校が休みの日で、その休みが1日目だった筈だから、土曜日じゃなかったのかな?


 その日僕はお父さんの運転する車にお母さんと乗って、少し遠めの買い物に行くことになってた。

 実はこの時の僕って高校3年生なんだよね。つまり受験生。

 それで、僕は一応、日本のだけどあの有名な大学からの進学推薦を貰ってて、その事でお母さんが物凄く喜んでたんだよね。


 買い物ってのはソレ関連。


 僕、次の4月から一人暮らしすることになるんだ。僕の家と大学は車での移動なら2時間掛かるか掛からないぐらいなんだけど、公共機関を使うとなるとダイヤ次第で3時間から4時間も掛かるんだよね。


 通学にそんな、3時間や4時間も掛けてられないよね?


 だから一人暮らし。で、今日はソレの物件捜しと家具とか消耗品などの日用品の購入と目星しい物の発見が目的。

 お父さんとお母さんが僕以上にノリノリで、僕以上に喜んでくれて、僕はソレを見て少し和んでいた。

 車内ではお父さんとお母さんが僕以上に僕の新生活について嬉しそうに話し合ってた。

 そんな、1番忘れがちで、でも1番大切な尊い時間は、その直後に瓦礫と化した。


 瓦礫と化した。なんて大仰に言ったけど、そんな大した事じゃない。いや、大した事なのかな?


 交通事故に遭った。高速道路を走っていたんだけど、急に目の前を走ってたトラックが急停車して、何を思ったのかバックしてきたんだよ。

 当然バックの勢いと僕達の乗る車のスピードで、咄嗟に止まる事も出来ずに衝突。お父さんとお母さんは即死だった。


 後部座席に座ってた僕はその時はまだ生きていたんだけど、窓ガラスが割れて、頭をぶつけて、頭から血を流して片目は潰れてた。

 その時点でかなりの重傷だったと思うんだけど、更に追い討ちが懸かった。

 僕達の後ろを走っていた車が、猛スピードで僕達の車に突っ込んで来たんだ。その勢いで、僕達の車はトラックと後ろから来た車にサンドイッチみたいにされて、車の原形を留めていないほどにぺしゃんこにされた。


 座席とか関係無く、あの横に長い車が縦にぺしゃんこになったから、当然僕もソレに合わせてぺしゃんこ。



 僕は18年の時を生きて、そして18年という短い人生を終えた。



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