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2年と決意


 この話から数話、巻きます。




 僕がトーマンさんに保護されてから2年が経った。

 トーマンさんと再会して話してからは、まずリハビリを頑張った。トーマンさんにこの世界の魔術を使わない医療技術の事を聞いたんだけど、僕の怪我は魔術を使わなければ日常生活を送れるまでに半年は余裕で掛かるほどの怪我だったらしい。

 この世界の魔術を使わない医療技術って、要するに焼く・度数の高いアルコールを傷口に掛ける・湯煎した清潔な布で傷口を縛る・放置のどれからしく、毒じゃない限り体内に異物が入ってたとしたら1度傷口が閉じて体力も回復してからまた開いて取り出すまたは抉り出すらしい。つまり二度手間で衛生的にも体力的にも労力が物凄く掛かるらしい。

 これが魔術だと、体内の異物を魔術で取り出す・内臓を魔術で癒す・緊急で無い場合、清潔な布で傷口縛って傷口が塞がるのを待つって流れで終わるらしい。傷口を癒さないのは、自力で治せれば自己治癒能力が上がるからと考えられてるからみたい。


 おかげで単純に地球基準で考えると日常生活を送れるまで半年掛かるところを半分の3ヶ月まで減らせられた。魔術様々だ。

 だから3ヶ月間トイレ以外ほとんど寝たきりだったから、そのリハビリをとにかく頑張った。この世界、普通に起き上がれるようになれば、基本的にはすぐに元の生活に戻る習慣が有るみたいで、僕も本来ならすぐに行動しないと駄目だった。駄目だったんだけど、僕が物凄くお願いしたのとトーマンさんのご厚意で、医者判断で『完治』と言われるまで居させてもらった。そうして、『完治』と判断されるまでに1ヶ月掛かった。つまり4ヶ月間、僕はトーマンさんにお世話になったっていうわけだ。


 治ってからの僕は、トーマンさんに付与系創造の事をそれとなく暈して話して、色んな武器や防具や日用品に能力を付与することでお礼をすることにした。

 例えご厚意とはいえ、4ヶ月間も居させてもらったんだから、僕に出来る事で恩返ししたいと思ったからね。で、アルバイトなんかの社会経験も無い僕がトーマンさんにすぐに返せる事は何かと考えた結果、トーマンさんの用意した物にそれに合う付与をすることにしたんだ。


 で、僕が新たに覚えた付与能力が『切れ味アップⅠ』『防御力アップⅠ』『研ぎ要らずⅠ』『解体補助Ⅰ』『灯り』。それぞれ能力は名前の通りかな。


 これ等の能力が付与された物をトーマンさんに返して性能テストをしてもらった結果、トーマンさんの手伝いをすることになった。つまりトーマンさんの商売の手伝いをするってこと。

 僕の役割は、開店作業と閉店作業の手伝い、それにトーマンさんが渡してくる物にそれぞれ合った能力を付与すること。

 僕が1時間で付与出来る数はだいたい5個ぐらい、つまりだいたい1個の能力を付与するのに10分強ほどの時間が掛かった。だから、1日に僕が付与出来るのは単純計算だと120個、ここにご飯食べたりだとかお店の手伝いとか色々考慮すると、1日だいたい50個前後能力を付与出来る事になる訳で、トーマンさんは『1日数量限定』って特典で、僕が能力付与した物を売り出した。


 お手伝いと言ってもちゃんとお給料は発生してて、この売上の約10%が僕の懐に入る事になってて、この1年8ヶ月でかなり稼がせてもらった。

 この世界の1ヶ月は30日。5週間有る。それが12ヶ月で1年。

 お金は上から、金板・金貨・銀板・銀貨・銅板・銅貨・鉄板・鉄貨が有って、モナ・リザさんの知識と元の世界の物価を考えると…、だいたい鉄貨が10円で、そこから十進法で上がっていく感じかな。

 そしてベビリオさんは、僕が能力付与した物を、1つ銀貨1枚から売り出してた。つまり1つ辺りの僕の収入は銅板1枚。1年8ヶ月だと単純計算銀板6枚ってこと。日本円にすると600万円。これ、1年計算だと360万円になるから、新卒の収入として考えたら勝ち組じゃないかな?





 実はこの2年ずっと悩んでる事が有って、それは僕がこの世界でこの後、どうやって生きていくかって事についてなんだよね。


 トーマンさんにお世話になりながら色々この世界で何をやりたいか考えてたんだけど、結論が出ないままだった。

 そりゃ前の世界と比べたら安全面を考えると月とスッポンなこの世界だけど、前の世界よりもこの世界はシビアで、実力主義で、文字通り何事も自己責任で、つまり前の世界と比べると自由度の高い世界だと言えるだよね。だから何かしたい事は有るかな?って考えてたんだけど、目的が見付からなかった。

 いや、生計を立てる為に、『冒険者になろうかな?』だとか、『このままトーマンさんにお世話になるか独立して商売をしても良いかな?』だとか、『騎士になってこの国の人を護るのも良いかな?』だとか、考えつく進路を考えてはみたんだよね。だけどどれもしっくり来なくて、結局1年8ヶ月もの間、ダラダラとトーマンさんのお世話になり続けてた。


 でも、流石にそろそろ自立しないと駄目だって感覚が僕の中に有るんだよね。

 だって、日本基準で言うなら、今の僕はアルバイト先で住み込みで働いてる20歳になったフリーターな訳だよ?フリーターは不味いでしょ?だからこのズルズルとトーマンさんのお世話になるよりは、トーマンさんと一緒に働くにしろ働かないにしろ、1度ケジメとして節目を作らないと駄目だなって考えてるんだよね…。


 んー、と言っても、今の商売を本業か副業にして、もう1つ何か、収入源となる仕事をするのが現実的なのかな…。

 1番イメージしやすいのは、騎士か兵士になるか冒険者になる事だよね…。でも3つともこの世界基準では僕の年齢では色々と遅いんだよね……。騎士も兵士も冒険者も、全部15歳には始めてないと世間一般的にはキツいって言われてるらしいからね。

 でも、せっかくお父さんから教えてもらった技術を腐らせるのも嫌だしな……。


 ……今後の相談って事で、トーマンさんに相談してみよう。




 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




 「トーマンさん、ちょっと良いですか?」


 今日の閉店作業を終えたタイミングでトーマンさんに話し掛ける。


 「なんですかユズキ君?」


 この2年でトーマンさんは僕の事をユズキ君と呼ぶようになった。


 「実は…、折り入って相談が有りまして……」


 「…………出て行くのですか?」


 思わず息が詰まったのが自分でもわかった。図星、とまでは行かないけれど、その可能性も考えていたところに言い当てられてしまった訳だから、内心少し狼狽えた。


 「いえ、結果的にそうなるかもしれませんが、そうなるかもしれないことも含めて相談をしたいと思いまして」


 「……わかりました。私の執務室に来てください。そこで話しましょう」


 トーマンさんの後ろに着いて、トーマンさんの執務室に向かう。

 トーマンさんの執務室に行くのは、これで3回目だ。1回目は今居る屋敷の案内で。2回目は今の能力付与に関する商売の契約の為に。


 トーマンさんに促され、中の下座側に座る。対面にトーマンさんが座った事で、話を始めた。


 「それで、どういったご相談ですか?先程の様子から察するに、まだここを出て行くと決めた訳ではないようですが」


 「はい。えー、今の僕の状況は、僕の故郷で言いますと定職に就かず住み込みで働いている成人という扱いになります。僕の故郷での成人は20歳ですのでこれまではまだ時間が有ると考えられていたのですが、流石に20歳になったので、このままトーマンさんの許で働かせていただくのか、それとも新しく商売を始めるなり冒険者や兵士になるなりするのか、どうするかはまだ決めていませんが、いずれにせよここらで1度節目を作っておかないと駄目だと考えているんです。


 ですので『トーマン商会会長』のベビリオ・トーマンではなく、普通に人生の先輩であるベビリオ・トーマンさんに今後の僕の人生について相談したいと思いまして」


 「…………な、る、ほ、ど……。あくまで相談相手は商会長の私ではなく、1個人の私という訳ですか」


 「はい。忌憚なき意見を聞かせていただければなと」


 「そう、ですね……」


 トーマンさんはそこで区切ると、腕を組んで左手を顎に当てて何かを考え始めた。このポーズはトーマンさんが何かを熟考するときにするポーズだ。だから、このポーズが終わるまでトーマンさんの返事を待つ。


 体感5分ほど経ったタイミングでトーマンさんは腕を解き、僕に向き合った。


 「まず、トーマン商会会長としての意見を言わせていただきます。

 貴方は既に我が商会の重要な商会員です。何より、貴方の才能は他に渡したくない。だから何が何でも貴方を手許に置いておきたいと考えています。


 ですが、ベビリオ・トーマン個人として言わせてもらえば、貴方はまだ若い。そりゃ成人したての若造共と比べれば歳を取っていますので彼等と比べれば若造と呼べるほどではありませんが、私からすれば貴方も十分若造です。ですので若い内から経験を積むという意味でも、このまま我が商会に居るよりかは、冒険者にでもなって世界を知って来るのも良いのではないかと思ってます。


 まぁ、別れは寂しく悲しいものですから、例え冒険者になったとしても、この街から出ずに今後とも副業として我が商会に貴方の才能を発揮してほしいものですがね」


 最後のところでウインクしながらトーマンさんが言う。

 実際、考えていた進路の中で、トーマンさんが呈示してくださったのは1番現実的なものだった。

 何より、生計的には定期収入が手に入る見込みが有る事が、今後とも関係を続けていきたいと言ってくださるトーマンさんの気持ちが嬉しかった。


 僕の中で、既にトーマンさんの意見に決定してしまおうとは考えてるけど、なんで兵士や騎士じゃなくて冒険者を薦めたのかは聞いておかないと。

 まだそっちに進む可能性も十分考えられるしね。


 「真剣に考えてくださりありがとうございます。

 今のトーマンさんの考えを聞いて僕の中である程度どうするか、もう決めているのですが、1つだけ質問良いですか?」


 「なんでしょう?」


 「何故冒険者を薦めるんですか?正直兵士や騎士の方が安定した収入が得られて安全そうですからそちらも良いんじゃないかと考えているんですが……」


 「ユズキ君は知らなかったんですか?兵士も騎士も、副業は禁止されているんですよ」


 なるほど。それなら確かに、兵士騎士冒険者なら冒険者1択かな。


 「なるほど。わかりました…。


 トーマンさん。決めました。これまで散々お世話になってて大変申し訳ないんですが、今月を以て僕はここを辞めて冒険者になろうかと思います。そして更に申し訳ないのですが、冒険に必要な装備や用品はトーマン商会で揃えさせていただくので、今後とも副業という形でこちらのお世話になっても良いですか?」


 言った後、頭を下げる。本当は立ってから頭を下げた方が良いんだろうけど、気持ちが逸っちゃって座ったまま頭を下げてしまった。


 「頭を上げてくださいユズキ君。ユズキ君のその提案は、即決具合からみるに最初から考えていたものかもしれませんが、明言して薦めたのは私です。ですので頭を上げてください。

 むしろこちらからお願いしたい。今後も私達を贔屓してくれますか?」


 「勿論です」


 頭を上げて、手を差し出す。トーマンさんも僕が差し出した手を握り返してくれた。



 こうしてこの世界に来て2年と少し。僕はようやく、自分の足でこの世界を歩く事になった。




 『研ぎ要らず』は某大人気有名箱庭ブロックゲームの耐久エンチャントレベルと同じで、『灯り』は全方位懐中電灯みたいな感じです。


 ベビリオに希望(のぞむ)が能力について話した伝え方は「僕、武器なら切れ味を、防具なら防御力を上げる事が出来るかもしれません。なので何でも良いので武器や防具を持って来てはいただけませんか?それをここまで良くしていただいたお礼とさせていただきたいんです!」的な感じです。







『切れ味上昇〇』

この能力が付与された物の切れ味を〇段階上げる。


『防御力上昇〇』

この能力が付与された物の防御力を〇段階上げる。


『研ぎ要らず〇』

この能力が付与された刃物はレベルに応じて研ぐ必要が無くなる。


『解体〇』

レベルに応じて解体のしやすさと解体するものの解体後の質が変わる。


『灯火〇』

この能力が付与された物に魔力が込められた時、込められた魔力量に応じて周囲を照らす。レベルに応じて明るさが変わる。



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