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生理的嫌悪


 僕がローランに連れられ『カラス』のアジトに着いてから1週間が経った。

 僕はこの1週間、ローラン達が持ってきた物など『カラス』の物には口にせず、監視が付いた状態だったけど、森の動物やモンスターを狩って手に入れた肉と最初この世界に来たときに有った川まで行って水を確保することでなんとか餓えを凌いでいた。


 『カラス』のアジトで一夜を過ごした翌朝、何故か僕の寝ていた所に居たザザーザから『お前の武器防具は取り上げさせてもらった。お前が素直に俺達の仲間になれば武器も防具も返してやる。ただ手袋は別だ。アレは誰が持っても何かしらの理由で危険を招く可能性が高い。だから燃やして処分させてもらった』と言われた。

 ザザーザの言った事は本当で、確かに僕は剣とか防具とかの身ぐるみを剥がされていた。ただ、良心的なのかなんなのか、荷物には一切手を附けられなかったのは不幸中の幸いだった。おかげで水の確保や食べ物の持ち運びが心配するほど大変にならなくて済みそうだったから。


 ザザーザに武具類を取り上げられてから、僕はとにかく動物やモンスターを狩った。

 モンスターというのはこの世界に存在している動物より強い生き物の総称らしい。モンスターの種類は様々で、僕でも知ってる有名な空想上の生き物であるドラゴンやスライムやゴブリンなんかがモンスターになるらしい。動物との違いはその身にモンスターをモンスターたらしめている『魔石』という石が有るか無いからしい。

 モンスターの肉は普通の動物の肉よりも美味しく栄養価も高いらしい。ただモンスターの肉を短い間に沢山食べると、モンスターの肉の中に残っている魔石の欠片が人の体の中で集まり魔石になることが有るらしく、魔石が出来ると人間はモンスターになってしまうらしい。

 モンスターにとって魔石は魔法を扱う為の大事な器官であり、もう1つの心臓らしい。だからモンスターを倒す時は魔石を奪うのが定石なんだとか。


 僕はそんなモンスターや動物を、『カラス』のメンバーの監視付きだったけど彼等から借りた小型のナイフを使って狩って自分の糧にした。

 どうせこの世界で生きていこうと思えば、いずれ何かしらの命を奪わないといけない事はモナ・リザさんから貰った知識でわかってた。だから、これからこの世界に生きていく為にも、まずはこの世界に慣れるために必死に涙目になって餌付きながら命を奪って、そして解体した。

 解体はアクセロが担当の時に教えてくれた。解体を教えて貰った事についてだけは、『カラス』……というよりアクセロに感謝した。


 他にも、ただこの世界に慣れるために狩りに出ていた訳ではない。今僕がローラン達『カラス』に一切見付かることなく使える力と言えば、モナ・リザさんから貰った付与系創造の力だ。僕はこの1週間、特に寝る前と起きて動き出す前にこの力の練習をした。

 具体的には想像力を鍛えた。基本的に僕の想像力というのは一般人の域を出ない程度のレベルらしい。『こうだ!』と思った物事を基準にしか物事を計れない。だから、心の底から強く願っているか、能力付与の為に無防備のまま集中し続けるしかこの力を使えなかったのが1週間前だった。

 つまり『なんの助けもなく物は宙には浮かない』という常識に対して『その考えは本当に合っているのか?』と問うような能力、『妄想を現実に変える』ような能力、それがこの力の真骨頂だった。

 だからか、1度成功した筈の『強制睡眠』とその付与や『回復力上昇』『治癒能力上昇』の能力を再度付与させる事は出来なかった。ここで集中力とか想像力が足りてないとか、色々わかった。


 そうして1週間経ってようやく、まだまだ目を瞑る必要は有るけど、そこまで集中しなくても力を使えるようになった。

 まぁ、練習のために想像し続けた『ソナー』の能力だけだけど。


 『ソナー』は狩った動物の中に居たイノシシの牙を媒介に使う能力で、効果は『1度だけこの能力が付与された物に衝撃を加えたら加わった衝撃の強さに応じて周囲の状況がわかる』という能力だ。

 これを何度もイノシシの牙に付与して、何度も何度もアジト内の地面や壁や牙事態を叩いて能力を使った。


 これによってある程度このアジトの構造がわかった。

 まず、このアジトは半分天然で半分人工の洞穴だった。入口から1本道で延びる天然の通路を『カラス』達が壁を掘る事で拡張していって出来上がったのが今の大きさらしい。部屋はそれぞれ、出入口から見て最初の部屋であり食堂でもある空間、食堂から更に奥に延びて寝室として使っている空間、その更に奥にはローラン(ボス)個人の空間、そしてその更に奥の宝物庫として盗品を管理している空間となっていた。

 出入口から宝物庫として使われている空間まではだいたい40メートルほどだった。僕の地球での50メートル走のタイムが6秒5とかだったから、食堂とかにある障害物の事を加味しても10秒も本気で走れば簡単に外に出れる。それも宝物庫からじゃなくて寝室とか食堂とかからなら更に早く出れると思う。

 この情報は『カラス』から逃げるにあたり僕にとって一筋の光明だった。


 『ソナー』以外の能力も少し目を瞑って集中する必要があるものの最初と比べるとスムーズに力を使えるようになったと思う。



 さて、そんな1週間が経った今日。僕にとってかなり大きな出来事が起こった。


 今日は1週間振りに仕事に行くとかなんとか言ってローランは何人かを連れて出て行ったんだけど、帰ってきた時に明らかに『盗品』とは呼べないものを背負って帰ってきた。


 人だ。しかも、恐らく僕が助けた護衛をしていた人。同人数。


 僕は自分でも震えているとわかった声で、聞くのが恐かったけど勇気を振り絞ってローランに尋ねた。


 「ろ、ローラン、彼等、は…?」


 「お前へのおみやげ」


 そう言って彼は彼等を僕目掛けて乱暴に投げてきた。

 僕は咄嗟に受け止められるだけ受け止めたけど、流石に5人も投げて来られれば僕1人では対処出来ない。必然的に僕は背中から倒れた。


 僕の上に5人の人が乗る。だけど不思議な事に、彼等は何故か、人にしては()()()()()()()()()()()


 「ハハ、悪ィ悪ィ。一応()()()()()()()()んだが、流石に()()は重かったか」


 「おまっ、なんっ、いや捨ててっ、どっいう…、ローラン!!」


 「ンな興奮すんなっての。いやぁ、俺もな?お前が1週間経ったってのに全然仲良くしてくんねぇし、どうやったら仲良くなれっか考えたんだよ。

 酒を渡しても受け取ってもらえないし、飯用意しても食わねぇし、女を用意しようか聞いても拒否するし、俺も何が良いか色々真剣に考えたんだ。

 そしたらコイツ等がアジト近くまで来てて、帰ってくるタイミングで()()()俺達と鉢合わせたんだよ。そんでコイツ等は言って来る訳だ。


 『俺達を助けるために貴様等が連れ去った男の子を返せ!!』ってな。


 アジト近くまで来ててしかも()()を返せなんて言う不届き者だ、当然だが即殺した。

 殺して、さぁ後始末をしよう!そう思った時に俺は思い付いた訳だ。


 『そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って。

 ただ流石に中身も詰まったままだと持ち運びが大変だからさ、中身だけは捨てさせてもらった。まぁ死ねば土に還るか獣に喰われるかだから、お前が狩る動物やモンスター達の為に餌を用意した形だな!


 どうだ、ユズキ?俺達からのプレゼントは?」


 「--------!!」


 そこからのしばらくの記憶は無い。ただ、記憶を失う前に口の中に何か込み上げて来るものが有ったから、恐らく吐いたんだと思う。


 僕が吐いて恐らく気絶した理由はいくつか有る。

 僕の持つ倫理観。僕の倫理観と彼等との価値観との乖離。彼等の発想。そして何より、ローラン含め、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この事実が実際に彼等にその真意を聞かなくてもわかる表情(カオ)をしていた。


 ルキアスも。

 アクセロも。

 ワブも。

 サッカスも。

 ウィルマも。

 ダーダも。

 ドルドルンデも。

 ボビーも。

 マルクスも。

 マルコスも。

 ユーバッハも。

 トーンも。

 ナーバナスも。

 ザザーザも。


 彼等は根本的に僕の価値観の中の『人』の人格が破綻している。地球に居た頃で言うなら学校で犯罪者に関する授業で習った、心理学に於けるパーソナリティーの1つである『反社会性パーソナリティー』で、その上『サイコパス』だ。


 道理であんな掟が有る筈だ。そもそもからしてこの盗賊団は人として破綻していた。そりゃ仲間が死のうとヘマしようと助けないのはむしろ当然の事だろう。

 つまり『カラス』は、今残っている正規の『カラス』のメンバーは、本当に人としてヤバイ奴等の集まりという事だ。


 その事に意識がハッキリしてから気付いた僕は、本気で彼等から逃げなければという強い情動に駈られ、やはりその結論に到って思い出して再び吐いた。



 僕は改めて、立てた誓いを達成するために逃げる方法を考える事にした。




『空間把握』

この能力が付与された対象から発せられる音または魔力から周囲の空間を把握する。発せられる音の大きさまたは能力発動時に込められた魔力次第で把握出来る距離が変わる。



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