別れても必ず会える 白浜町考古学部一
終章 別れても必ず会える
その後、卓達は楓の元に行った。
「なんか、昨日から無くなってね。もう大丈夫だよ。」
「そうですか…」
卓はほっと胸を撫で下ろすと同時に、瞬の極端な霊媒体質の恐ろしさを思い知った。
エマとは今日でお別れだ。
「私も死出山怪奇少年探偵団の一員になれたかな?」
「はい!またなにかありましたらお願いします!」
エマは真海と一緒に帰っていく。
「日本にはあまり来れないけど、また連絡してね。」
「本当にありがとうございました。」
卓達は大きく手を振って見送った。
卓は亮也の方を見た。夕方の風が日を追うごとに涼しくなっていく。この夏が終われば、亮也とはお別れだ。
三人揃って探偵団をやれるのは残り僅かになった。
そして、お別れの日がやって来た。卓と優月は亮也のもとへ行く。
「絶対会えるよな?」
「うん…、また何処かで会おうな、約束しよう。」
「亮也、ありがとな」
そして、両親と一緒に車に乗って、北の方に向かってしまった。
「なんか、寂しいね。」
「死出山怪奇少年探偵団も出来なくなったね.......、」
「二人だけだったらただの探偵コンビだよ、俺は探偵団がやりたいんだ。」
「そっか、やっぱり亮也君が居ないと駄目だよね…。」
二人は車が見えなってもしばらく動かなかった。
水鳥橋にて
亮也は青波台と同じく白浜町の水鳥橋という所にやって来た。青波台と違って山と湖の景色と、見慣れぬ場所。亮也はいつかそれが日常の風景になると思うと、寂しくなった。
始業式で挨拶をする時も心細かった。もう、この場所を一人で生きていかなければならないと思っていた。
家に帰るときも一人だった。卓達と知り合う前もそうだったが、気持ちは違った。
ずっと寂しかった。それが卓達と会えて変わったのだ。だが、それすらも終わってしまった。
亮也はある公園の横を通った。すると遊具で遊んでいる小さな子供が二人と、その横で自分と同じくらいの少年が見守っていた。
キャップを目深に被っているので、少年の顔は見えない。
亮也はどういう訳か、近づいた。するとそっちも気づいたらしく、こう話しかけられた。
「君は…、転校生の子か?」
「そういう君は?」
少年はキャップを取った。
「俺は向井大地、ほら、同じクラスじゃないか!」
大地はクラスで他の男子の真ん中に居た。
「あっ…、そうだったね」
大地の所にさっきの子供がやって来た。
「その子達は?」
「ああ、俺の兄弟さ、海星と空」
亮也の胸の辺りに来る身長の少年で海星で、もう一回り小さい少女が空だった。
「このお兄さん、始業式で喋ってたね!」
「ねぇ、何処から来たの?」
二人は目を輝かせて質問してくる。
「僕は影山亮也、青波台から来たんだ。」
「へぇ、そうなんだ!」
亮也は大地の方を見た。自分の事を俺という所や、常に目を輝かせている所、なんとなく…
「なんか、大地君見てると転校前の友達思い出して…。」
「へぇ、青波台だったら会いに行けるんじゃないか?どんな奴なんだ?」
「あの子ともう一人の女の子で、探偵団やってたんだ。死出山怪奇少年探偵団って、」
「死出山…?俺のお父さんの故郷じゃないか!」
「えっ、そうなの?!実はその友達のお父さんもそこなんだ。」
「へえ、ますます会ってみたいな。そうだ、秋はどうだ?水鳥橋から見える紅葉は綺麗だぞ?」
「また連絡してみるよ!」
そして亮也と大地は別れた。
「あの子とは…、なんとなくいけそうな気がする。卓達とも会わせてみたいな。」
そして秋、紅葉はすっかり色付き、水鳥橋には人が集まっていた。
「亮也、久し振り!」
卓は亮也の姿を見ると、駆けつけて来た。
「卓、会いたかったよ!」
「亮也君、元気そうだね!」
久々の探偵団の集結で三人は喜びに満ちていた。
「で、俺に合わせたい人って誰だ?」
「それは……、」
亮也は背後にいる大地を見た。
「君が卓だね?亮也から話は聞いてるよ。俺は向井大地だ。」
「大地、よろしく。」
卓と大地は握手をして、笑って見せた。
白浜町考古学部一
…その後、卓達は中学生になった。青波台中学校には考古学部があり、卓と優月はそこに入った。
担任教師は社会科の立川楓だった。
「お久し振りです!」
「久し振り、この部活はね、三校合同でやってるのよ。」
「そうなんですか、」
部活では、普段は地域の文化の調査や遺跡探索をしていて、夏休みには三校集まって見学会に行く。
今年は、赤城谷の赤城に行ってきた。
「この辺まで城壁があって、その跡が残ってるんだよ。」
赤城谷中学校の先輩である白石穂香がそう説明した。
「随分大きかったんですね。」
一年生である卓と優月、水鳥橋中学校の亮也と大地はしっかりそれを聞いていた。
「今は何もないけど、赤城の他に青波台にもお城があったんだ。」
同じく赤城中学校の先輩である菊川翔も説明する。
「合同でこうして歴史を探しに行くのってたのしいよね?」
「うん、そうだね。」
そして、昼食の時、卓はある事を明かした。
「俺、夢があるんだ。」
「それは、一体?」
「この能力を使わなくても、ものが持つ記憶とか、歴史とかを知れるようになりたいんだ。」
優月は頷いた。
「卓君なら出来るよ!」
「そうか、卓頑張れよ!」
「俺も応援してる!」
「みんな…、ありがとう!」
卓は笑った。その笑顔は…、いつか見た『光の樹』よりも輝いていた。