探偵団の夏休み 夕焼けの公園で
序章 親友
僕には親友が居た。ずっと仲が良くて、離れてもずっと一緒だと思ってた。だがそれは粉々に打ち砕かれてしまった…。
第一章 探偵団の夏休み
ジリジリと照る太陽、焼けるコンクリート、近くの公園で聞こえるセミの声…。
夏がやって来た。卓達は終業式を終えると歩きながら夏休みの話をしている。
「あの後から依頼がぐっと増えたよね?」
優月は嬉しそうだった。
「まぁ…流石にあの時みたいな事はないけど。またそれも解決していかないとな。」
卓はランドセルからはみ出た定規を気にしながらそう答えた。
「今年の夏休みは楽しい事になりそうだな。」
亮也は卓とはまた別の事を気にしていた。
「とりあえず、今日は一旦帰って、明日優月の家に集合しよう。」
「分かった。」
そして、三人は別れていった。
翌日、優月は顔を洗って灰茶色の髪の毛をとかすと前髪を三つ編みにして左耳の所でくくった。
そして、兄である大樹の所へ向かう。
「お兄ちゃん、今日家に友達来るんだけど…この部屋使っていい?」
大樹はため息をついた。
「今日は部活だから全然良いけど…どうして自分の部屋じゃ駄目なんだ?」
「私の部屋はエアコンないし、電波の調子も悪いから…、」
「なぁ、友達って何人来るんだ?」
「ん〜と、二人かな」
「それなら、リビングの方が全然良いと思うな。あそこならパソコンもエアコンもあるだろう?」
「そっか…ありがとね。」
優月はその後両親にそれを伝えた。
そして大樹が部活に行った後、卓と亮也がやって来た。
「二人とも!お父さんとお母さんには言ってるからリビング使ってよ。」
「優月、ありがとう。」
「亮也君、私のアカウントで良かったらパソコン使って良いって。あ、変な事はしないでよ?」
「うん、助かるよ。」
亮也はパソコンを起動させ、卓はカバンの中からノートを取り出した。
「で、今回の依頼は何なんだ?」
亮也は依頼の受付をしている掲示板を見た。
「何か…、最近『声』が聞こえるんだってさ。」
卓が画面を覗くと、『あやの』と書かれたアカウント名の横に丸く切り抜かれた犬の写真があった。
「また調査しに行くの?」
「いや、その前に中田のおばちゃんの所に行かなくちゃな。なんでも飼ってた猫が逃走したらしい。」
「なるほど…、それじゃあ行こうか、」
三人は家から出て、中田のおばちゃんの所へ向かった。
中田のおばちゃんはおどおどしながら卓達を見た。
「なんか…ごめんなさいね。」
「いえ、猫が脱走する事は良くありますんで。また気にしときますね。」
そして次の依頼客の方へ向かった。
メールで送られた地図によるとここだそうだ。『緑川』と書かれた表札の家のチャイムを鳴らす。
そして現れたのは若い女性だった。
「私は緑川彩乃、あなた達が探偵団のみんなね?」
卓の合図で三人は一斉にこう言った。
「「「死出山怪奇少年探偵団、ここに見参!」」」
彩乃は歓声を漏らした後、本題に入った。
「実はね、ネットの方にも書いたんだけど、最近自分にしか聞こえない『声』が聞こえるの。」
「そうなんですか…、心当たりはないですか?」
「う〜ん、なんだろう…。せめていうならそれは聞いた事があるような気がするんだよね…、」
卓達は彩乃の家に入った。どうやらピアノの講師をしているらしく、ピアノや楽譜の本があった。
「何か、大切にしてるものとかないですか?」
彩乃は考え込んだ。
「う〜ん、仕事の道具であるピアノを大切だし、後は…、」
彩乃はポケットからハンカチを取り出した。
「これは一体?」
「これは亡くなった友達が持ってたハンカチなんだけど…、ずっと持ってるんだよね。」
卓ははっとした。
「それ、貸してもらって良いですか?」
彩乃は笑顔で差し出すと、卓は目を閉じてその中の記憶を覗こうとした。
そして目を開けた卓は彩乃の方を見た。
「ひょっとして…、返して欲しかったんじゃないですか?」
「えっ…?どうしてわかったの?」
「このハンカチ…、友達がお母さんに貰って大切にしていたものなんです。きっと死んでもそれを気にしてるんじゃないですか?」
彩乃は目を閉じて頷いた。
「うん…、そうだったんだ。物の記憶を見れるのって本当だったんだね。今度その友達の所へ行ってみるよ。」
「俺の力がどこまでなのか分からないのですが…。」
「凄いと思うよ。だって人の記憶は改ざんが多いって社会教師の友達も言ってたから、物の記憶というのはそれがないから良いと思うよ。」
「あっ、ありがとうございます!」
そして、卓達は帰って行った。
「なぁ卓、」
亮也が珍しく深刻そうな顔をしていた。
「一体どうしたんだ?」
「優月、今日は二人にしてくれないか?」
優月は驚いた。
「亮也君、珍しいね。どうしたの?」
「大事な話が有るんだ。」
卓は亮也に引かれるように夕焼け空を駆けて行った。
第二章 夕焼けの公園で
卓はブランコを漕ぎながら、亮也を見つめている。
「で、話って何なんだ?」
「実は…、」
亮也は俯いていた。
「僕はこの夏が終わったら引っ越さなきゃいけないんだ!」
「えっ…?!」
卓は思わずブランコを漕ぐのを止めた。
「父さんの転勤のせいで、俺も引っ越さなきゃいけなくなった。それももうこっちに戻る事は無いんだって。」
「それじゃあ…もう亮也とは居れないって事?」
亮也の声は震えていた。
「本当は引っ越したく無い!せっかく卓と優月と仲良くなったのに、もう別れなきゃいけないなんて…。」
卓はブランコから降りて亮也の手を取った。
「俺だって嫌だよ、」
「卓……、」
「だから、この夏が俺達三人の探偵団の最初で最後の夏だ。どうせなら最高のものにしたいよな!」
「そっか…、」
亮也は卓の手を握った。
「ありがとう卓、僕も最高の夏にするよ!」
そして二人は別れた。
亮也の姿が見えなくなった後、卓は嗚咽をあげた。
本当は卓も悲しかった。だが、亮也にこれ以上悲しまないで欲しいと思ってずっと我慢していた。
卓は涙を拭って家に帰った。するといつものように由香が迎えてくれた。
「お帰り、何かあったの?」
「それは……、」
卓は今は何も言いたくなかった。
「晩ごはん出来てるわよ、手洗って来てね。」
追及しなかったのは母親の優しさが故だろうか、卓は洗面台で手を洗った。
そして、いつものように食べようとした時、ある事に気づいた。
「あれ、お父さんは?今日は休みだったよね?」
由香は顔を曇らせた。
「瞬さんは…、今はそっとした方が良いかも知れないわね…、」
卓は父親である瞬の珍しい行為に驚いていた、そして食事を早々に済ませ、二階の書斎に向かった。