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ー森ー
白く長い髪を揺らしながら少女は河原に座っていた。
目は光を閉じ込めたような黄金色。
「そろそろかな……」
透明な川の流れを指で遊びながら呟く。
「会いに行くからね」
ー巣内部数馬の部屋ー
日光が差し込み、彼の横顔を照らす。
椅子に腰掛け資料の整理をする和馬。
茶色の髪が揺れる。
しかし、あの女はどこであんな術をかけられたのだ?
人間を全く違う生き物にできる術……あるとしても禁忌なはず……。
昔の文献に何か資料があるかもな。
力強くドアを叩く音がした。
「どうぞ」
「……悪い……仕事中だった?」
「ちーちゃんか……どうしたの?今日は見回りする日じゃないの?」
数馬が節目がちに答える。
「今日は休み。あのさ、昨日捕まった女性に会いたいんだけど」
「あ……あの女にはもう会えないよ」
数馬は千尋と目を合わさずに答えた。
「地下牢にいるんじゃないの? まさか処刑し……」
「あの女は殺された」
数馬は静かに答えた。
千尋は呆然と和馬を覗き込む。
数馬の拳は硬く握られていた。
そして、躊躇いながら、起こったことを話し始めた。
ー7時間前 地下牢 AM1時ー
「体調はどうだ?」
「……何も覚えていないんです」
女は答えた。外見は憎獣になっているが、言葉は話せるようだ。
外に暮らす憎獣も普段は大人しい。
しかし、野生の憎獣は言葉は話せないはずだが……。
「お前を憎獣に変えたものの正体は誰なんだ?」
「……わかりません。主人が突如憎獣化したんです。そして、私に襲いかかってきて……」
女は目に涙を溜めながら答えた。
「人から憎獣に突然変異……病かなんなのか……」
数馬は腕を組み考え込んだ。
「その答えは、鵺にあるのかも……主人は、油売りをしていて、鵺の八城に油を持っていっていたのです」
「そうなのか……ということは、顧客リストなどを見せてもらうことは可能なのか?」
「はい。自宅に戻れば可能だと思います。……うっ……」
「どうかしたか!?」
「いえ………化け物になった私を殺さずこうしてお話を聞いてくださることが本当に嬉しくて………」
「いや、お前は何も悪くないよ。人間に戻る術も見つけてやる」
「ありがとうございます」
女は心からの笑顔を和馬に見せた。
「………ぐっ。ぐああああああああああ」
女が当然叫び出し、両手で頭を押さえてゆかにうずくまった。
「頭が頭が…頭が割れる………ぐあ………声が………この声は………ああ、貴方だっ……… ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」
断末魔の叫びが聞こえると同時に女の頭部が爆発した。
紅く染まった和馬は目を見開き、立ち尽くした。
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「え……ということは鵺が関連してるのか?」
「もしかしたら………という段階だけどな。今のことろ。しかし、早く人間から憎獣に変化する原因を突き止めないと………嫌な予感がする」
「そのことは、海様には伝えたのか?」
「父上にはこれから報告する。父は鵺の長とも交流がある……どうお考えになるのか……まあ、とにかく今日は寝ようぜ。ちーちゃん疲れただろ」
「いや………俺はいつもと特にかわらないけど、数馬は大丈夫か?」
「少し疲れたかな………最近は、公務も溜まってたしな」
「無理するなよ」
「ああ。ちーちゃんもな。また灯さんのことが何かわかったら教えるから」
「……ああ」
この事件を発端に、夜叉と鵺、そして千尋の運命の歯車が大きく動き出すことになった。