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鵺の拠点は砂漠の中にある。
風が吹き荒れ、姿を見ることは困難だが確かに八城はそびえ立っていた。
「兄様!」
華の弾む声が向けられた先には、長い銀髪の男がいた。
彼の名は仁。
琥珀色のつり目が彼の美しさを引き立てている。
「華。どうしたんだ? 遠征に行っていたはずでは?」
「だって、だって、兄様が久し振りに、八城にご帰還なんですものー! 今回の遠征はお断りしちゃいました」
「そうか。近頃寒くなってきたし、体に気をつけるのだぞ。物騒な、妖もでているようだしな。」
「そうですよね。夜叉のやつらを制圧するのでも手一杯なのに……近頃、鵺内も荒れております」
「そうだな……よりよい国にするために、私たちができることをしていこう」
「兄様……。あっ!私からプレゼントがあります! ……これ」
「これは…月花だな。めずらしい。どこで見つけたんだ?」
「遠征のときに、見つけて、持って帰って育ててたの。月花には、主人を守る力があるって。兄様はよく戦場に行かれるから」
「華……ありがとう。大切にさせてもらう」
会釈をしながら微笑む。
「私が、勝手にしたかっただけなの! ……じゃあ、私もう寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
白い花弁が床に散った。
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ー巣 食堂ー
「えっ!?」
「しーっ! 染ちゃん声が大きい!」
夕飯の食材を集めた小型カプセルを調理人に渡しながら忍は答える。
「だって……」
「最近、巣の外が物騒になったと思わない? 動物たちも減ってきた気がする。凄く嫌な予感がするんだ」
「だからって、そんな……それは禁忌よ!? そんなこと海様が知ったら……」
「誰か!!!! 誰か助け……」
突如、古びた衣服を着た女が血相を変えて食堂に飛び込んできた。
「ウッ……ウウッ……」
女は、フラフラとよろめき、染に向かってくる。
「ど、どうしたんですか!?」
「主人が……」
そう言いかけると女は染に覆いかぶさるように倒れこんだ。
「きゃっ!」
「……っ」
女の首元には、禍々しい「憎」の文字が浮き上がる。
「これは……憎獣の印……」
今まで経験したことのない事態に周りがざわめきだす。
「憎獣!? そんな化け物伝説ではなかったのか!」
「最近失踪者が増えたようだが、関係しているのか?」
「お母さんっ! 怖いよ!」
「静まれい!!!」