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夜叉には、巣という住処がある。
惑星CR53はほぼ砂漠化してしまったが、まだかろうじて、緑が残る場所があるのだ
ー巣周辺の野原ー
染は、ぼんやりと草を見つめていた。
何かを考えたいときに、外に出て風にあたることにしている。
「染ちゃん!」
ふと、急に声を掛けられる。
「忍」
若草色の肩、青い瞳。中性的な風貌。
忍は染のことをいつも気にかけてくれる。
「ほら、今日の夕飯の材料だよ。今日の、当番僕達だからね」
「ああ! そうだったー! 忘れてた。いつもありがとうね忍」
「そういえば彼は元気?」
「彼? ……ああ!千尋のこと? どうなんだろうね……最近はたまにしか顔見ないしね。アイツ、無茶するから心配なんだけどさ」
「染ちゃんには、僕がいるから心配ないよー!」
無邪気に笑いながら、染の肩を組む。
「あはは。ありがとうね。今日のご飯何にしようか?何がいいかな……」
「前と同じでいい気もするけど、ちょっと考えようか! そういえば最近鵺の気になる噂があってね」
染と忍は、巣に戻って歩いて行った。
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ー巣 広間ー
「おっ。ちーちゃん!」
千尋に気さくに声をかける彼は、数馬。
額が見える短髪のチョコレート色の毛、そして毛と同じ色の瞳が、柔らかい雰囲気を醸し出している。
身長は千尋より高く、頼り甲斐のある外見だ。
「数馬!久しぶり。遠征に行っていたのか?」
「ちょっと巣の周辺のパトロールをしてたんだ。最近、失踪事件増えてるだろ?人狼に襲われたって話も聞くし、物騒なんだよな」
「鵺とも冷戦状態だしな……」
「そうそう。鵺に関しては、ちーちゃんも気になるところが沢山あると思うけど、絶対に1人で頑張ろうとするなよ」
「わかってるよ。俺はまだまだ死ねないからな」
「そんなこと言ってこの間も……」
和馬は眉間に皺を寄せ千尋に駆け寄った。
「おい数馬!」
低い声が響いた。数馬の父であり、夜叉の長である、天霧海。
「ち、父上……」
海は黒い長髪を一つに束ねていた。大きな黒い瞳に圧倒されてしまう。
「これから定例会議をするぞ。お前は俺の跡を継ぐ身。気を引き締めろ」
「はい……」
数馬はうつむき肩をすくめた。海様(かいさまと話すときいつも辛そうだ。
千尋は、いつも思っていた。
千尋の前では朗らかな数馬だが、まだ千尋にも言えない悩みがあるのかもしれない。
数馬は海の後についていった。
千尋は、ただ静かに数馬の後姿を見送った。