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ー巣 大広間ー
巣の住人は毎日の朝礼の為に集まっている。
皆は父さんが誘拐されてしまったことを知らない。
今まで父さんの陰に隠れていた俺。
両手の拳を握りしめ、まだ立っていた壇上に上がる。
皆の目線が俺に集まる。
「皆聞いてくれ。……父上……海が憎獣に捕らわれた」
「……数馬様? ……海様が!? そんな。夜叉は終わりだ」
「鵺の長に助けを求めるしかないのか」
「海様がいなくなってしまっては夜叉は終わりだ。誰が我々を導いてくれるのか」
広間全体が騒めきだす。
「み、皆さん!!」
複数の視線が数馬を貫く。
「わ、私が、父の代わりに皆さんを導きます」
「数馬様が…?」
数馬の目の前にいた老人の目が困惑の色を見せる。
「いつも俺は父上の後ろに隠れていました。俺なんかが、長になれるわけがないと。憎獣は言葉を話さない。しかし、父上を攫った憎獣は言葉を話した。これが何を意味するのか私もわかりません。こうしている間も父上は恐ろしい目にあっていると思うと、今すぐにでも助けに行きたい。しかし、私一人では無駄死にしてしまう。どうか皆さんの力を貸してください。お願いいたします」
長の一人息子として幼い時から厳しく育てられた数馬。
表向きには明るく人当たりが良い少年。しかし、本来の姿は人前にでるのが苦手な内気な少年だった。
静まり返る広間。
……駄目だったか……俺が一人で父さんを助けに行くしかないか……。
「俺、数馬と一緒に行きます」
聞きなれた声の主が手を上げる。
「……ちーちゃん……」
「戦闘経験のない皆さんに急に海様救出を頼むのは、志願者もいなくて当然です。俺のような起動を使える戦士が行くべくなので親友の数馬と行ってきます。……もし俺たちと一緒に来てくれる方がいたら、この後残ってください。」
(千尋……)
染は無言で千尋を見つめていた。