12
気付いたらもう朝だった。
昨夜の出来事が嘘のように青い空が広がっている。
父さんが誘拐されたこと全てが嘘だといいのに。
ふと考え込むと最悪な結末を考えてしまう。
あの白い憎獣の姿、只者ではなかった……思い出すと身震いしてしまう。
父さん無事でいてくれ……。
物思いに耽っていると、ドアを叩く音がした。
巣は15歳以上になると1人1部屋与えられる。
外観は巨大な要塞になっており、巣の目の前の緑とは真逆の雰囲気の無機質な建物である。
「どうぞ」
「おはよう。体調大丈夫か?」
「俺はなんだか、ちーちゃんに≪大丈夫?≫ばかり言われてるな!」
「無駄口を叩けるのは元気な証拠だ」
千尋は軽く微笑む。
「海様を攫った憎獣はどんな奴だ?」
「残念ながら白い毛の塊の中に赤い目が2つあったことしか、わからんのだよ……」
数馬は両掌を上にし、肩を竦めた。
「とにかく森の中を探すしかなさそうだな」
顎を触りながら千尋は答えた。
「海様がいなくなったことは国のみんなもすぐに気付く。数馬、お前が長になって夜叉の指揮をとってくれ」
「俺が!? ちーちゃんのほうが適任だよ。俺はこういう指揮をとるのは向いていないからさ」
「ただの戦闘員の俺よりも、次期頭首のお前の方が適任だろ」
「いや……俺は大事な人を守れなかったから……」
「……姉ちゃんのことか。数馬のせいじゃないよ」
「いや、俺がもっとこの力を上手く使えていたら……」
「起動か……10歳になると急に目覚める力……不思議だよな」
「憎獣化した女の最期が頭にこびりついていて最近よく眠れないんだよ……父さんも攫われて……俺どうしたら……」
数馬の手は震えている。
上から手を重ね握りしめる。
「俺は、数馬と染がいてくいれたから、今も生きてるし、姉ちゃんのことも諦めずにいられてるんだ。嫌なことがあると、過去のトラウマもどんどん思い出してしまって、暗闇に沈みそうになる……一緒に頑張ろう」
千尋の真剣な眼差しに気恥ずかしくなり下を向く。
「……ちーちゃんは本当に真面目だよな。……恥ずかしいじゃん!」
笑いながら手を払いのける。
「そういう恥かしいことを平気で言うのは、好きな子だけにしたほうがいいぜ! 罪な男! 逮捕するぞ!」
「え!? 思ったことそのまま言ってるだけだけど……。俺表情全然変わらないし、自分の無表情なところ好きじゃやないからコロコロ表情が変わる数馬が羨ましいよ……」
「兎に角!」
数馬は声を張り上げる。
「今日の朝礼で俺が昨夜あったことをみんなに話すよ。」
落ち着いた声で決意を述べると、身支度に取り掛かった。