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ーーー海が襲撃される前日ー巣の目の前に広がる野原ーAM10時ーーー
とてもよく晴れた日で空の青色が眩しい。
忍は毎日の日課である、花摘みをしていた。
「あっ。この花、染ちゃんが好きな花だ」
砂漠化してしまった星のため草花の種類は少ないのだが自然が残る場所には花々を見ることが可能だ。
緑の草花に紅がとても目立つ。
「緋花」
ポツリと呟く。
小ぶりの緋色の花。燃えるような赤色。シロツメクサを赤くしたような花だ。
染の目の色と似ていて、染本人もこの花を気に入っている。
(押し花の栞を持ち歩いている)
「花たちは毎日綺麗にただ、咲いているなあ……」
巣に住んでいる、小さい子やお年寄りなどあまり遠くへ行けない人たちは花を持ち帰るととても喜んでくれる。僕にできる些細なことだ。
僕は起動することができない。
力もなく頭がいいわけでもない。何の取柄のない僕。ただ、染ちゃんの傍にいたい。
染ちゃんを守りたい。
こんな僕にできることは限られてるけど、最近元気のない染ちゃんの笑顔が少しでも多く見れるきっかけになってくれればと思う。
緋花をハサミで切り取る。
「染ちゃん喜んでくれるかな」
染の好きな花を持ち帰ることの嬉しさで口元が緩む。
ーーーーーー巣ー弓道場------
弓道着に身を包み髪を一つに束ねる。射る瞬間は全神経を的一点に集中させる。
緋色の瞳が真っ直ぐに見つめる。
ヒュンッ
染らしい迷いがない真っ直ぐな矢は的の中心を貫いた。
矢を射るときは心の迷いがあると真っ直ぐ飛ばない。
邪念を捨てて目の前の的に全神経を集中させる。
「染ちゃん!」
聞きなれた声が響く。
「忍! どうしたの?」
「弓の練習がそろそろ終わるころかなと思ってね」
「さすが忍! 私のことお見通しだね」
太陽のような笑顔を向けられると心が晴れる。
「これさ、染ちゃんが喜んでくれると思って……」
背中に隠していた摘んだばかりの緋花を染に差し出す。
「わ~ありがとう! 緋花くれるの忍だけだよ~嬉しいな。ジャムとか作ってみようかな」
無邪気にはしゃぐ染。忍は口元が緩んだ笑顔を見せる。
染とこうして笑いあっていたい。いつもと同じ平和な日々がずっと続きますように。
染と他愛もない話をしながら忍はそう願っていた。