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「睡蓮ですか。こんな遅くになんです」
「母様は何をやらされているの」
感情を表すことなく淡々と答える。
「私は何も知りませんよ。特に用事がないなら早く帰りなさい」
父は顔一つ変えず、淡々と答えた。
真っ白で短く切りそろえられた髪、丸いフレームの金の眼鏡。
白衣を着て白くやせ細った父は研究だけに没頭し、何も話を聞いてくれない。
「もう私から父様に色々聞くのがこれが最後だよ」
必死の叫びも届かない。
「今忙しいので、また後にしてくれますか」
嗚呼。この人にはもう何を言ってもダメなんだ。
私が、私が何とかしないと。
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憎獣達がいなくなった闇の森の中に数馬は倒れていた。
「大丈夫か!?」
憎獣を追い払った安堵で気が抜けたがふと我に返った。
必死に数馬を揺さぶる。
「……ちーちゃん?」
「気が付いてよかった。痛いところあるか?」
「あ、ああ……なんとか動けるみたいだよ」
手を握って閉じてを繰り返す。
「父さんを助けられなかった」
手を夜空に掲げて星を見ながら呟く。
「あいつら俺も父さんも殺す気なんだ。夜叉の人たちもこのままだど危ない。長の一族が死ねばあいつらはもう手を出してこないのか」
腕で顔を覆い声を震わせている。
「いや、数馬がいなくなったら皆混乱して余計に奴らの思う壺だ。すぐにでも海様を助けに行きたいが。夜の森は憎獣達の庭みたいなものだ。準備もしなければ」
「……そうだね。ちーちゃんがいてくれて助かったよ。ありがとう。……帰ろうか」
力なく笑うと二人は帰路についた。