傍観と介入の分岐点
なんか調子よくてかなり書けた。
それと唐突ですが更新をしばらく止めます。
いやね、この話に使えないネタを思いついちゃったので、ね?
無性にそっちを書きたくなった次第です。
飽きたらこっちに乗り換えて、こっちに飽きたらもう一つの方にという形にしようかなとか思ってます。
なんか言ってることが屑男のような気がしてきました!
では幕間にしようか迷った本編どうぞ
世界は事あるごとに分岐する。
誰が死んだ。誰が死ななかった。何か起こった。何も起こらなかった。一つの事柄にいくつもの分岐点が存在し、その分岐のたびに裂け、増殖し、並び立つ。人はそれを並行世界と呼称する。
しかし、呼称するに至っても並び立つ世界同士が互いを認識することはない。地球も、銀河も、宇宙空間さえも、ずれているそれらを重ねて見ることはしないのだ。
そして、ここに一つ。並行世界が存在する。残思という現象を持ち合わせる世界とは別の、いわゆる魔法と呼ばれるものが存在する地球。
本来互いが不干渉であり、また認識することのできない別世界。それをとある魔法使いは偶然にも発見してしまった。発見してしまったのである。
そこからは早い話で、その魔法使いは俗世間的に天才と称される部類の人間であり、そう長くない期間で意図して並行世界の観察を行える術を編み出した。やがていくつもの分岐の内、古くに別たれたこの世界ならば、と一つの世界に注目をすることとなる。
その魔法使い、名をリックレリック・クレロットという。
彼が彼の世界で成した偉業は数知れず、どのような言語でも相手に意思を伝え、また受け取れる魔法を作り出し、世界の言語を事実上統一してみせたのは歴史の教科書にも載っているほどだ。
けれどそれとはまた別に、彼の悪名も世間に広く知られていた。その例として一つ、彼は幼少の頃より生物実験をしていたらしく、好意的な人間は彼の周囲に少なかった。だからなのかは知らないが、彼は三十の歳に禁忌とされる人造人間を作り出し、それを妻とした。
当然、世間はこれを激しく非難し、彼を倫理観のない狂人として貶めた。その多くは彼の才覚を妬んだ魔法使いが主であったという。また、数は少ないが彼を擁護する人間もいたようで、その大多数は独身だったとかなんとか。
ともかく、それでリックレリック・クレロットという人間は表舞台から身を引いた。当たり前ではあるがホムンクルスも一緒にだ。
それから数年後、彼は並行世界を発見する。その頃には彼の身体はホムンクルス技術により、素材さえあれば際限なく再生させることができるようになっていた。つまるところ不老だ。時間は生き続けるだけある。だから彼はその時間を使って疎ましい世界からの脱出を試みることにした。
並行世界の観察から始まり、ついには干渉、移動を可能とする魔法を形にするところまで彼は漕ぎ着ける。その頃には研究材料集めとして世界中を奔走していたことからも、彼自身、己の世界に飽きがきていたらしい。いつの間にか疎ましいという感情が、移動するのであれば見慣れぬ未知が蔓延る、こことは大きく異なる世界に、という好奇心の感情となっていたのだ。
そして並行世界移動を決行する頃には、リックレリックには家族ができていた。何十年と付き添うホムンクルスの妻との間には、ホムンクルスが故か、子を授かることはできなかった。
しかしそこはリックレリッククオリティ、子供もホムンクルス技術で作り、我が子のように育てた。
最初は娘を一人。育てていく内に夫婦揃ってその娘を溺愛し、過保護に過保護を重ねた過保護の二乗で護衛を兼ねて、双子の息子を作り出す。その後、娘に妹が欲しいとねだられ更に一人、その妹に弟が~ということでもう一人。
計七人家族で異世界旅行に行こうかとなった移動決行日、娘二人は生まれた世界に留まることを宣言する。末の息子は未だ幼く、知らない世界に連れていくのはどうなのだと娘二人が引き取った。護衛の双子も護衛対象が残るのなら俺も……と言いたげではあった。
しかし! 護衛対象はリックレリックの妻にも適応されると、当日になって急に明かされ、理不尽極まりないと双子は父に抗議する。だが、やはり最低限片方はついてこいということになり、双子の片割れ、コントラという名の息子がついていくこととなった。
世界移動から数ヶ月後、コントラは徐々にではあるが自分の知らない地球になりつつあった。当初は魔法が存在しないというだけで物珍しい風景ではあったが、自分自身は魔法を行使できるということで特に問題はなかった。
魔法のない歴史も、細部に変化は見られたがおおよそ主軸とも呼べる大筋に変化はなく、例えばコントラの世界での長篠の戦い。当時は連続発動ができなかった高威力魔導砲も三段撃ちという戦法で擬似的連続発動を確立させ、結果織田信長の勝利となる。といった具合になんとなく同じ道を沿っているのだ。
これをリックレリックは面白いと喜んだ。残念ながらコントラにはそれの良さが分からなかったが、久々に見せた父のはしゃぐ姿にコントラは子供みたいだとなと感想をつけ、母と一緒に笑いながら父を見ていた。
そしてとある日、リックレリックは拠点とした第二の我が家に何かを連れて帰った。彼はその何かに肩を貸しているようなのだが、しかし彼以外それを認識することはできなかった。だが、リックレリックがその何かに許可を出すと、やがて家族全員がそれを認識することが叶う。
それは黒く、不定形でおぞましい、蠢く触手の塊。だが常に変化を続けているも人のような輪郭は崩れず、だが決まった形に固定されることはない。異形の怪物。
無論、もとの世界にもいなさそうなそれにコントラは忌避を覚えた。まず最初が恐怖ではないとは流石別世界と後に知る和寛は思うのだが、これはまた次の機会にて。ついでにそれは、この世界での住宅獲得経緯は魔法でちょちょいのちょいなので叩いても何も出てこないと語られ、和寛が安心感を抱く程度には後の話である。
さて、その怪物を連れて帰ったリックレリックはそれを興味の対象として見た。だから連れて帰ったのだが、ともかくその怪物はこの世界での特異性であると彼は見たのだ。
その怪物によってリックレリックを含む三人は残思を認識することができるようになった。その日からこの世界での見方が大きく変わったのは言うまでもない。
そしてクレロット家に持ち帰られた怪物はどうも怪我をしていたらしく、リックレリックが直々に治療を行うこととなる。そこでその特異性が生物ではない別のものであることを理解し、己の世界との比較から面白い結論を導きだした。
「コントラ! ミリシア! これは面白いよ! やっぱりこの世界と私達の世界は似通っていた。古くに分岐して独自の進化をしてはいても根本は同じみたいなんだ!」
「治療するって言ったくせに騒ぐな、痛い。手元が狂ってる。それで傷に触れるな、痛いから」
どう見ても触手しかないその体から、どう聞いたって少女のものと思われる声が発声される。口調こそ荒いがその見た目に反した声帯はもはや美しさの冒涜とも呼べるほどだった。
「あぁ、絃奈君だったかな? ごめんね、君には生物的な治療はできないみたいなんだ。だから魔法を使うけど、もしかしたら拒絶反応とかあるかもしれないんだ」
「はぁ、魔法?」
「使っていいよね?」
「どうせならもう少し頭の成長した人間を選ぶんだったなぁ」
「いいよね?」
「うるさい、傷を開くな、いいから早くそれを止めろ」
少し話は変わるが、納豆と聞くと藁で包んでいるあれを誰しも想像することだろう。それで藁で包んだものを藁苞といい、藁苞で包んでいる納豆を苞納豆という。
そして今まさに苞納豆を開くが如く、リックレリックは裂けかけていた触手を縦に開こうとしていた。早急に止められたので傷はさほど広がってはいないが。
その後、特に拒絶反応などはなく、むしろ親和性が高いと思われるほどの効果で怪物の傷は回復し、怪物は一人の少女の姿を形取った。やや足下から蠢く触手が覗けるが、前後の繋がりもなく、唐突に、不定形の怪物が定形の少女となったのだ。その光景は誰もが驚き、目を見張る。
「そうか、君は姿も変えられるのか。ペットにしようかと思っていたが止めた。君は今日から家の娘だ」
「はぁ、魔法とか意味不明なものを見せられて驚いてるってのに、突拍子がないな」
その声に似つかわしい顔が歪む。あからさまに面倒だと顔に書かれている。けれどもリックレリックは表情一つ変えなかった。
後に、一ヶ月に渡り絃奈の脱出劇が繰り広げられるのだが、その全てを阻止されてクレロット家の最低限のマナーが叩き込まれる。そこには別世界の存在は魔法を覚えられるのか、という実験もあったのだが、結論はできないで終わった。
それから二年と少しの時が過ぎ、リックレリックは単独でどこかへ、その妻ミリシアは今の人数では少し寂しいからとコントラの弟を召喚するべくいなくなり、現在クレロット家にはコントラしか居なかった。
「もしや本当に面白いことは世界に存在しないのでは? 暇で暇で仕方がない」
わざわざそれを口に出す程度に彼はやることがない。世界の真理に気づきかけた彼の言葉を否定するように、ただ首を振る扇風機は己の役割を果たさんと風を送っていた。
そんな扇風機の前であぐらをかいて、開けた窓ガラスから外の青い青い空をコントラは眺めていた。雲らしい綺麗な形の雲が流される風景。庭に一本だけ植えられた木が風に煽られ葉を揺らす。そして空からは絃奈が一人降っていた。
「あー、おかしいなぁ。暇過ぎて疲れちまったんだろなぁ。親方、空から絃奈が」
「カミングスーン!」
「今じゃねぇか」
開いていた窓から身体の一部を触手に戻して回転しながらの完璧な着地。速度を殺して止まったときには、どこぞの蜘蛛男のような格好でそんな決め台詞を言い放つ。
そこそこの家族付き合いで忌避感こそなくなったが、やはり苦手意識は消えない。コントラにとってはそんな相手、その名を絃奈である。
「いやいや、義兄さん。もうすぐ来るのは私じゃなくて暇しない出来事だよ」
「あん?」
「どうせいつもながらに暇だとか宣ってたんでしょ? そんな義兄さんに妹の私が用意しました厄介事! きっと気に入ると私は思うね!」
「要らねぇよ」
真顔で拒否するコントラは、やはり曲がりなりにも絃奈の兄と言うべきか、その厄介事がどれだけ面倒かを早くも察していた。
近頃の絃奈は義父であるリックレリックに似てきている。口調も性格の悪さも、なんとなく寄っている程度だが、コントラが彼女の話を断るにはそれで充分な理由だった。
「まぁ、予想通りな反応で。あ、これ地図ね。ここに屋敷があるから。今から義兄さんが行かないと一人、死んじゃうかもだから。行かないにしてもしっかり命の重さに後悔してね?」
「は? おい、ちょっと待て一般人巻き込んだのか!?」
「それじゃ私は時間に追われる女だから、他にも一杯やることあるし、じゃあね!」
義兄の言葉なんぞ無視して捲し立て、絃奈は窓から消え去った。家にはただ呆然と妹が去っていった窓を眺めるコントラと、赤いチェックマークの入った地図が残っていた。
あの場から何か持ち合わせることはなく、苦労人は急ぎ走り出していた。姿を消して、空中を全速力で走り抜ける。どれもこれもこの世界では異常だが、魔法のおかげで誰もがそれを知覚しない。
そして家から出て数分後、地図にあったチェックマーク、すなわち屋敷へとコントラは到達した。
(さて、誰を助ければいいんだ?)
すぐさま物影に姿を隠すコントラだが、そもそも存在自体を魔法で隠匿しているのでそれそのものに意味はなく、ただ格好としてその場の彼らを観察する。
絃奈と同じような存在か、それとも女の子を背にする少年か、もしくはその背にいる女の子か。その中の誰を助ければいいのかと。
(確かあいつ、俺が行かなきゃ一人死ぬとは言ったが死ぬやつが良い人間だとは一言も言ってねぇんだよな)
コントラがすぐさまに駆けつけても手を出さなかったのはそれが原因であった。時に絃奈とは悪を助け善を挫くことがある。コントラも深くは知らないが、何かしらの目的のために絃奈は何でも利用しようとするのだ。
だからもしかしたら今回、厄介事としてコントラを悪の側に置こうとしているのではと勘繰るのだ。コントラ自身そんなのは御免であり、姉や妹達に胸を張れる男でいたいと善を貫く。故に、この場で助けるべき相手を探していた。
「では、あなたが動かないのであれば、私から始めさせていただきましょうか」
そんな声がコントラの耳に入る。出入口を塞ぐように立っていた鳩面が構えを取っている。このままでは少年を突き飛ばさんと鳩面の得物が飛び掛かるのは明白であった。
しかし少年はナイフを構えただけだった。逃げるでもなし、飛び掛かるでもなし、その場から動かない。だが、その光景はコントラにとって懐かしいものだった。
魔法の世界に生まれ育ち、姉を守らんと奮起していたかつての弱い自分。まだ研ぎ足りない力で精一杯に守るだけの戦い。それがコントラの目に映った。少年と過去の自らが重なって見えたのだ。
(なるほど、気に入った)
「一撃で沈まないでください、ねッ!」
鳩面が放ったのはどう見ても一瞬でけりがつく一撃。彼自身それで終わると思っているからこそ、予想外に期待を掛けてそんな言葉を口にしたのだろう。だから彼は喜ぶべきだ。彼の期待する予想外がそこにいるのだから。
(やらせない)
窓ガラスなんて悠長に開けていられない。もうすぐそこまで終わりは飛んでいる。ならばそれに追い付くほどに加速しなければ彼は到底間に合わない。
(そいつは俺が育てると今決めたッ!)
だから手が届く。守ることに特化した矛。矛盾の片割れ。攻撃こそ最大の防御を体現させるリックレリックの最高傑作が一人。
「大丈夫か? 若人よ」
高揚する心で少年に問い掛ける。
そんな彼の名をコントラと云う。
和寛が楓花を守ってなかったら介入しなかったかもしれない。
でも楓花がいると(楓花の影響で)和寛は必ず守るようになっている。
つまり和寛が助かったのは楓花がいたおかげ?
Q:とてつもない速さでコントラが突入した結果、物凄い突風が発生してガラス片が和寛達に突き刺さったりしてないの?
A:コントラ「守るっつってんのに俺が傷つけてどうするよ? 無論魔法で勢いを相殺してやったさ」
あと関係ないけど令和祝い? で久々にペヤ〇グの激辛食って痛い。
いや、どことは言わないけれど。トイレで令和一日目の思い出を作ることになってさ。超痛い。