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人間を捨てた  作者: 野生のスライム
鍵と特訓と研究と
13/24

開かれるは門

やぁ久しぶり!野生のスライムだよ!結構時間空いたし軽く前回のあらすじでもしようか。


「学校に盲目の人間がやってきた!目を潰そうとしてくるやべーやつ!その原因はなんと女の子!事件解決のため女の子をナイフで切るがうじうじ悩んだ和寛は結局傷つけたことを後悔!私に人生渡して女の子を救ったのさ!色んな意味で意味わかんないね!」


うん?てめぇースライムじゃねぇな?って?

………今回も導入ッ!!


 


『鍵』という字を見て貴方は何を想像するだろうか。解錠に使う鍵?重要という意味での鍵?大まかに言えば基本この二つくらいだ。

 しかしこれを別けないといけない、なんて決まりは無いのだから二つの意味を持つ『鍵』が世の中には存在したっていいはずだ。少なくとも今回の話に関わる『鍵』はそういった意味を持つのだから。



 主婦がゴミ出しに歩き、仕事場へ向かう社会人が駅やバス停に現れる朝の時間帯。その駅付近に一人、異質な存在が混ざり周囲の目を引いていた。

 それは女性、見た目からだと多く見積もっても二十代前半、実際はもっと若いかもしれない。彼女の着る青いパーカーは社会人というよりは大学生を思わせる。だがしかし周囲の視線を集めているのはそんなラフな格好ではない。それを自然体のように、恐らく何を着たって着こなせるような美貌に目を奪われているのだ。

 物静かそうな顔と肩まで伸ばされた作り物のような白い髪。そのパーカーと同じ瞳の色からも日本人とは考えづらい。もしかしたら何かのコスプレなのかもしれないが、それにしても綺麗なのだ。美貌だとかとは少し違う。黄金比とでも言えばいいのだろうか。彼女を見た感想を十人に問えば、その十人がまるで芸術品でも称賛しているかのような言葉を返すことだろう。それほどまでに彼女には完成された作り物のような美しさがあるのだ。

 そんな彼女は周囲の目に気が付いたものの特段気にする様子もなく、適当な人間を一人決めて話し掛けた。


「私の弟、知らない?」


 第一声は挨拶でも何でもなく、誰からしても予想の斜め上をいくような質問だった。

 駅沿いのバス停にあるベンチ。そこで座っていたサラリーマン風の男は彼女に話し掛けられたことで一瞬見惚れ、次に質問の内容が頭に入り、数秒遅れでようやく答える。


「えっと写真か何かあれば分かるのですが」


 そう、この白髪の美女は写真や人相書きすらも持たず、たった一つの単語しか判断材料を与えないままに質問したのだ。当然彼女の弟どころか彼女すら知らない他人が、弟という言葉だけで一人の人間を見つけることなどできるわけがなかった。だから困り顔で質問を返す彼に彼女はこう答える。


「写真はない。でも私と同じで見れば分かると思う」


 同じというのは恐らく髪や瞳のことだろうと彼は思う。数少ない判断材料の中には姉弟という単語もあり、弟も白髪で青い瞳をしているのだろうなと解釈する。とすると彼の昨今の思い出にそのような人物は登場しないから、自然と彼は彼女の弟など知らないということになる。だから彼はその事実を告げた。


「うーん、すみません。お力になれそうにないです」

「そう」

「ところでなぜ弟さんを探しているんですか?」


 ふと気になった疑問を彼は問い掛ける。いきなり弟を知らないかと聞く理由。前置きを飛ばして簡潔に、しかし本題だけを切り出しているにも関わらず当人は焦りもしていない。彼女の行動に何の目的があるのか、一体弟に何があったのか、そんなほんの少しの好奇心が彼の口を動かした。

 それに対し何かを隠す様子もなく、素っ気なく、しかしほんの少し言葉を欠いて彼女は答える。


「待ち合わせ。中々来ないから場所を間違えたんじゃないかって」

「なるほど、だから探してるんですね」


 男は納得し、「もし見掛けたらここに連れてきますよ」と言い残し、歩き去っていった。親切と言えば親切ではあるのだが不自然にも思える行動。仮に仕事に行くのだとして、途中見掛けたとして、本当に連れて戻ってくるのだろうか。上部だけ親切そうな雰囲気を出しているだけかもしれないが、何なのだろうと彼女は思う。

 それで他に視線を変えてようやく周囲の反応に気づいた彼女は納得する。誰も彼もが先程の見惚れた目とは違い、彼女に奇異の目、もしくは哀れむような目を向けていたのだ。話し掛けようと思っていた輩も打って変わって腫れ物を触るような、いや避けるように止めた足を動かしていた。


「残思……リックの言ってた通り。見分けのつかないやつも居るんだ」


 それは単なる呟き、先程までとは違う本当の意味での独り言。その小さな声は誰も聞くことはなく、また聞いたところで理解されるものではなかった。

 さて、周囲の目が好奇から反転した状況になってしまったわけだが、しかし彼女は普段同様に気にする様子はない。慣れたとか我慢して無視をしているとかではなく、最初から周囲の目は気にならなかったからだ。どちらかというと興味が無かったからだろうか。持っていても意味の無いものが失われた。それに悲しめというのは演技のできない彼女には難しい話である。



 和寛は夢を見ている。昔、きっと十年も前の記憶。普段から笑顔の溢れる父が泣き崩れ、現実を呪うように嘆いていた。母はそれに何か言うでもなく、いや、父を想えばこそ何も言えないままに、見守るように後ろに立っていた。それを自分が寝室の扉の隙間から覗いているという夢。居ても立ってもいられないもどかしさと尿意を強く覚えた一瞬。それを脳裏に和寛は目を覚ました。


 和寛の眼前に広がるのは見知らぬ部屋。五畳程の広さがある部屋の中央に布団が敷かれ、和寛はそこで寝ていたのだ。あの(とき)と同じように、もう目覚めることはないのではないかと密かに感じていた和寛の思いは起床と同時に霧散した。

 部屋は暗く、カーテンが閉められてはいるが、そこから透き通る光は無い。つまり現在の時間帯は恐らく夜であろうことが伺える。勿論カーテンの向こう側が何かに覆われていないことが前提の話ではあるのだが。

 暗闇の中、目覚めてしまったのだからと体を起こそうとすれば、左に引っ張られるような感覚が伝わり和寛はそちらに目をやった。まさか布団に制服が縫い付けられたのかと目を凝らしてみれば、「あぁなんだ」とその原因に頬が緩む。

 そこには和寛の服を掴み寝ている愛らしい子供の姿、つまりは和寛が助けようとしたあの少女の姿があったのだ。右手の甲に包帯が巻かれていること以外に変わった様子もなく、寝息は安定していた。

 しかしどうしたものかと和寛は悩む。これでは起き上がろうにも起き上がれない。少女を起こさずに立ち上がるには少女の手を離させる必要があるのだが、寝ているとは到底思えない強固な握り拳に和寛は颯爽「あ、こりゃ無理だな」と無の境地に辿り着く。幸い今は夜だ。何時かまでは部屋に時計がないので確認できないでいたが、夜であることに違いはない。


(……うっし、もう一眠りするか)


 そう思うや否や和寛は瞼を閉じる。二度目の眠りは程遠い。しかし彼は横になるままだ。

 この場合、呑気というのは少し違うのだろう。覚悟、逃げ(諦め)の方が強いのかもしれないが心境としてはそんなものだ。今寝ている部屋が本来誰の部屋なのかなんて、状況からでも和寛は大体の察しが付き、それでも本来の住民がここに居ないということは今は用が無いということに他ならない。

 束の間の平穏か、最後の睡眠となるのか。どちらにせよ和寛はこの静かな一時を感じていたかった。最後になるのなら尚更、穏やかに過ごしていたかったのだ。


 気づけば和寛は眠っていたのだと知る。眠気なんてこれっぽっちも無かったというのにいつの間にか部屋は明るい。カーテンの開いた窓ガラスからは快晴が覗けて如何にも暑そうな景色である。

 いい加減横のままだと辛いようで和寛は上半身を起こす。渇いた口内を早く潤したい衝動もあったが、それよりも先に和寛は軽い背伸びをした。固まった背筋が(ほぐ)れるような快感を感じ、それと同時に違和感を覚える。上半身を起こすことに何の問題もなかった。その違和感は原因があるからではなく原因が居なくなったことで生まれた感覚である。要するに少女が居なくなっているのだ。

 しかしそれで和寛が焦ることはない。ただ少女は二度寝した自分よりも早く起きたのだと認識するだけだ。考えてもみてほしい。家族が朝起きたらベッド、もしくは布団から居なくなっていた。それで一々行方不明だなんだと騒ぎ立てるだろうか。今の和寛としてはそれに近い心境で現実を眺めている。それがどれほど異常なことなのか和寛は欠片も考えない。考えようとしない。そもそもとして選択肢にない。

 そんな中、音が聞こえた。異常でも何でもない、日常でもよく聞く音。窓ガラスが開けられる、横に引かれた時の音。


「起きたかい?まだ寝てる?起こしに来たよっ!!私、参上(さぁんじょう)ッ!!」


 隣室へと繋がる扉ではなく、わざわざ外が見える窓ガラスを開けて入室してきた少女(怪物)の姿。無駄だと断言できる元気と共に和寛はそれを目撃する。


「お?今起きたってところかな?タイミングバッチリだね!」


 二度寝したことによる軽い頭痛。そこへ鳴り響く少女の声。色んな意味で疲れた頭は、ある種悪夢を見た日以上に疲労していた。額に手を当てて俯くような形で和寛は言う。


「ごめん、もうちょっと声を落として」

(うるさ)かったかな?それはすまないことをした。二日酔いならぬ二度寝酔い。この場合酔ったと言うのかは置いといて、さぁ朝だ!起きて顔を洗いなさい!」

「いや待て立てるから、自分で立てるから!」


 母親が寝坊助の息子を叩き起こすように、如何せん力の入らない寝起きの和寛の体を引き上げて洗面所へと引きずっていく少女。気恥ずかしい和寛は恥ずかしがりながら抵抗をするが、少女の人間離れした怪力の前には無力も同然だった。

 その後悪乗りした少女に「はい、お顔洗いまちょうねー」という辱しめを受ける和寛ではあるのだが、本人の名誉の為にも深くは語らないでおこう。









なーんで二度寝って知ってるんですかねぇ?


あと、最近忙しくて今後もまだ忙しさが続きそうです。

なので更新頻度が雨漏り程度になるかと思います。

それにあたり更新が止まったら(失踪したな)ではなく(私生活疾走してんな)とでもお思いください。

ではでは。

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