あの日曜日から
適当に書いてたら思ったより長くなりました。なので切りました。髪の話じゃないです。
前半黒幕少女。
和寛君にナイフを渡した私は家に帰っていた。うん?自分の家なんてあるのかだって?そりゃあるさ、地べたで寝たくないからね。二トリでも良かったんだけどやっぱりプライベートというものは大切だ。見えている見えていないではなく、一人の空間が欲しいじゃないか。まぁ家とはいってもマンションなんだけどね。
偽名を使った架空の人物がここには住んでいる。そう私だ!関係者全員の記憶を操作すれば会ったこともない人物と接触した記憶を植え付けることができるからね。見えない私も立派な住民。いやぁー大変だったし疲れたよ。
それで私は自宅に帰ってきたわけで、何をしようかなって。いやいやいや常に真面目で常時忙しい私ではあるけれどその労力は基本的にイタズラというか真面目に不真面目するために使うわけで、そうではない今は暇で暇でしょうがないのだ。
あーっとそう言えば丁度いい感じに暇潰しできそうなものがあるじゃないか!昨日、なんとなーく気になった日曜日の午前中にやる戦隊ヒーローや仮面ライダー、魔法少女。見たことはないがだからこそ見てみたくなった私はそれらを録画していた筈。よくぞ閃いた今の私!よくぞ録画した昨日の私!っということでいざ試聴しよう。
さて腕時計を見てみればあれから一時間ちょっとくらい経ったようだ。現在時刻は正午、つまりお昼時。コマーシャルなんかは飛ばして見たけれど、うんうんなんかインスピレーションというか面白そうな発想が湧いてきそうだ。
さーてさて、もうこうなれば時間なんて一時間も一秒も全て同じだ。気づいたら一日経っていたー!みたいなことになりそうだね。いやぁ楽しい。
そんなウキウキ気分であーでもない、こーでもない、と考えていると壁に掛けられている時計の針が十一時丁度を指しているのが目についた。時間が逆流するわけもなし、ハハハこやつめ嘘つきおって、そんなに早く時間が経つわけがなかろう。どれ私が午後二時くらいに戻してやるか。そぉれ時計回りでくーるくる。
よーし、大体イメージも固まってきたし軽く運動でもしてこようかな。具体的にはランニング九割に南極外縁バタフライ一周。……うん?水着がない。あ、そもそも買ってなかったね。泳ぐことなんて今までなかったもんだから仕方ない仕方ない。でもどうしたらいいだろうか、スク水買おうか、スポ水買おうか、もしくはこのままの服装でやるか、ビキニは流されそうだから無しとして。
やや!?小銭を持って水着を買いに行こうと思ったら空が真っ黒に染まっているではないか。まるで午後十一時二分の夜空のようだ。と、手首辺りを見ながら思う私。
いやしかし我が家の時計は午後二時ピッタリを指している。むむ?これは……タイムトラベル!なんということだ!私は未来の世界に迷い込んでしまったのか!でもご安心、時計の針を戻せばいいからね。よし、これでもう私も午後十一時三分の存在だ。
「ふぅ」
いやぁ本当楽しいね。半分ふざけてたからちょっと疲れたけど一人でやってるのが勿体ないくらい楽しい。今度和寛君でも巻き込もうかな?
と、まぁそういうわけで?私は外に出た。こんな暗い夜道でこーんな美少女が歩いていたら「キャー!痴漢!」ゴキッバキッグチャッみたいなことが起こりえないとも限らないし、私はちょこっと警戒しながら歩いていたんだ。詳細に言えば、何かいないかなぁ?と辺りを観察しながら。
そしたらね?そしたらさ、いいかい?偶然にも、偶然だよ?残思を見つけることができたんだ。フゥーッ!運がいいね私は。それでしばらく観察をしていたんだ。勿論対象に気づかれないように呼吸も鼓動も全て止めて、地面スレスレを水平移動しながらついていったんだ。
それでね面白いことが分かったんだよ。あの子、他者に過剰なまでの感情を音と共にぶつけることができるみたいなんだ。激昂した人間とは少し違うようだけれど、なんだろうねあれ。強烈な負荷で目が使い物になってないようだし、耳を澄ましていた私も目が膨張というか沸騰というか、ともかく破裂しそうになった。まぁ潰れたところで再生させればいいんだけど。
それで耐えきれなかったものが目に異常を発生させたとして、外部から干渉してくる孤独感、恐らくは少女のそれが人間の心を喰らい尽くしていくって感じかな?しかもあの子、それを意図してやっていないんだ。凄く面白そうな残思だね。無垢なくせにやっていることは邪悪極まりない。私よりやっていることえげつないじゃないか。
しかもあの子の感情をぶつけられた人間、耐えきれなかったんだろうね。心が半壊している。見た感じもうあの少女にすがるしか心を保つ方法がないんだろう。たぶんそれは無意識的な行動で、そんなことを考えられるほどの思考すら残ってはいないんじゃないだろうか。あくまで仮説だけどね。
さてさて本題として、今の和寛君にあの残思を接触させたとして、大丈夫かな?あの子の感情の高揚が強ければ強いほど負荷も大きくなると予想するわけだけど。
ちょっと試してみようか。丁度示し合わせたかのように窓の開いたトラックがやってきたからね。私はちょこーっと手を伸ばしてその運転手の視界を塞ぐ。ふふふ、私ほどにもなれば目眩がしたと勘違いさせる程度の目隠しができるのだ。脳をちょちょいとね。え?それ目隠し違う、だって?別にいいじゃないかどっちでも。
そうして影から運転手の判断を遅らせて、もう片手で心があれな男の手を引いて道路まで誘導する。当然二つはぶつかってその後の結果としては予想通り。さてあの子はどんな反応をするだろうか?
「なんで……ねぇどうして?歌を聞かせてくれるんじゃなかったの?寂しいよ。独りにしないでよ」
うーん視界が真っ暗だぁ。さっきよりも強烈なの入りましたー!流石にね、続けざまからのパワーアップは耐えられないって。でも負荷は感情に比例するのが分かったから私の両目の尊い犠牲は無意味ではなかった!そして再生!お帰り私の両目。
しかしどうしたことか、少女は小さく泣き出してしまった。
「うぐっ、ぐずっ」
「そんなに泣いてどうしたんだい?」
当然優しい私は声を掛ける。マッチポンプ?知らない言葉だぁ。
「ャァッ!?ぇ?え?お姉さん何処から出てきたの」
とても面白い発音で驚いてくれた。うん隠れていた甲斐があったというものだ。しかし私が何処から出てきたのかなんてどうでもいい話を一々話す私ではない。さっさと本題を喋らなくては話がどんどん脱線して何を話そうとしていたのか分からなくなるからね。私のことは私が良く知っている。
「何か悲しいことがあったのかな?」
「……うん、友達が居なくなっちゃって」
「なるほど、縁が切れたというわけか」
目を動かせば色んなものが切れたお友達がすぐそこで横たわっている。そんなわけだけどご存じの通り、わざわざ墓穴を掘るようなことを言う私でもない。
「そんな君に良いことを教えてあげよう」
「良いこと?」
「そう!君とずっとお友達になってくれる人を私は一人知っているからね。紹介してあげよう」
「本当に!?」
何やら友達というものに並々ならぬ思い入れがあるらしい女の子に、私は親切に和寛君の通う学校とその道順を教えてあげた。
「その人の名前は?」
「それは秘密だ。会ってからのお楽しみ、というか見つけられた時の御褒美だと考えるといい」
「うんありがとう。幽霊のお姉さん」
幽霊?あぁ心臓止めたままだった。
「そうだ。これに道案内をしてもらおう」
「この人に?」
「…………ゥゥ」
余程負荷が大きかったらしい、今の今まで空気のようだったトラック運転手の心は、完全に壊れて消えかけていた。だから会話の最中に代わりとして私がちょっと改造を施し、ナビのような機械的思考に再構築してみたのだ。なんかゾンビっぽいことになっちゃったけどナビが終了したら元の静かな廃人に戻っているだろうから問題なし。まぁなんか元から音に反応して狂人を増やしていくような思考回路に書き換わってたんだけど、ね?そこはほら、刺激というか試練?困難なくして成長なし!助言くらいはするけどさ。
そんなこんなで夜の道に消えていく二人を見送って、一人になった私はつい言葉を口に出す。どうせここには聞く者がいない。どうせもうあの子を止めることはできない。
「さて、これから少し忙しくなりそうだから前もって言っておこうか」
何人もいない事故現場。しかし次には事故があったかも定かではなくなる。まだバレる訳にはいかないのだ。
「サポートも欠かさない私って優しいなー!」
次回後半盲目少女、お楽しみに。
黒幕「……スクール水着って何処に売ってるんだろう?」