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人間を捨てた  作者: 野生のスライム
悪夢
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見知らぬ部屋

思いつきというか夢で見たから衝動で書き起こしました。

終わりを考えながら気長に書いていく所存です。

あぁあと、最後一人称に変わってますが本編では今回限りだと思いますので気になる方は読み飛ばしても結構です。大したことは書いてありませんからね。本当ですよ?


 


 都会とも田舎とも取れない平凡な町、強いて言葉に表すならば田舎よりの町だろう。

 日本のそこにある、至って普通の高校に通っている何処にでも居そうな顔をした男子高校生、山下昂(やました のぼる)


 ──そんな彼の物語が今ここに始まる。


「いぃぃっぁああッ!」


 ──わけではなかった。


 普通に普通を足して普通で割った何処にでも居そうな普通の彼は、やはり反応(リアクション)も普通であり、今までの人間と代わり映えせず、ソレの期待には答えられなかった。いや、一つ普通とは言い切れない一面はある。だがソレが求めているものとは違うらしい。


「うーん、でもなぁいい感じに狂ってはいるんだけどなぁ私の好みではなぁ」


 彼とも彼女とも呼べるその個体は、現在の姿に従うのならば彼女と表するのが正しいのだろうが、取り敢えずはソレと表現するとして、ソレは口惜しそうにため息をついた。

 今まで老若男女様々な人間をソレが作ったおもちゃに無理矢理招待してみたはいいが、誰も彼もが似たような反応をし、行き詰まる。最初こそその光景も楽しめたものだが、何度も同じ光景の繰り返しだと流石に飽きがやって来るのだ。

 たとえそれを乗り越えたとしても結局のところ挑戦させた百の人間の中から一握りと言い表せるくらいの数名も答えを出し終える前に諦めてしまう。


 玩具の難易度が難しすぎたのではないだろうか?とソレは一考するが微塵も難易度を下げようなどとは思っていない。ソレにとってこの程度も乗り切れない人間には興味がないのだ。


「まぁまだ百人、めげるな私! っと……あれ?」


 ふと気が付けば山下昂は死んでいた。想像力が豊かなのだろう。腕から溢れる血は止まることなく、失血死したようだ。しかし死んだからと言って別に生命として終わりを迎えた訳ではない。彼にとって幸運だったのはこれが夢だったということ、つまり彼はただ単に死んだ夢を見ていたに過ぎないという話だ。


 つまらなそうにソレは小さく息を漏らした。彼が死んだと分かった途端に気を落とし、後処理をして次の人間を探しに行く。きっと山下昂は目覚めたときには夢の内容も霧がかかったかのように思い出せなくなるだろう。

 毎度の如くソレは「次こそは」と期待する。ソレの暇潰しに選ばれる人間は果たしていつ現れるのか。



 無口、長身、寝癖の直らない髪、イメージを一言で言えと言われれば根暗と表現される男子高校生。それが伊藤和寛(いとう かずひろ)という人間だ。

 学校が近いからという理由でその高校に進学し、現在は二年生になっている。友人なんて居らず、クラスメイトはクラスメイト止まりの他人。必要最低限しか喋らないことが理由にクラスからの印象も良いものとは言えない。


 そんな彼は土曜の夜、自室で間違いなく寝ていた筈だった。夢を見ている筈だった。けれど彼が今感じている感覚は非現実的なまでに現実的で風なんて吹いていないのに肌が揺れる。そんな感覚だった。


 目に見えるのは四方八方味気ない部屋。よく見れば発泡スチロールなのではないかとも思える四メートル程の立方体の部屋。色が付いている……白色以外のものと言えば三段の引き出しと本棚、厳重そうな金庫にこの部屋に一つしかない黒色の扉。ハッキリ言って何故自分がここに居るのかさっぱりだというのが彼の感想だ。


 その扉以外には出口らしいものはなく、壁は発泡スチロールのように簡単に壊れてくれそうにはない。それは和寛が壁を叩くことで証明し、寧ろ叩いた手がじわじわと痛むくらいには強度があったと判明した。それこそ本気で叩いたことを本人が軽く後悔している程だ。


 それでその黒い扉には鍵穴があり、どうやら鍵が掛かっているらしい。試しに和寛がドアノブを捻ってみても開く様子がなかったことから、部屋を出るにはまず鍵をどうにかしなければならないようだ。

 と、そこへ何処からともなく声が聞こえてくる。清流のような透き通った声だ。しかしそれは機械的で感情の読み取れない、抑揚の無い声でもあった。まるで何十回と同じ文を読んでいたのではないかと思うような喋り方で次の言葉を告げる。


「鍵はその部屋にある。脱出するも居座るも自由だ。けれど居座れる時間には制限がある。最後まで自由にするといい」


 声はそれっきり聞こえなくなる。最低限のことだけを言ってあとは放置ということだろう。パッと辺りを見渡したとしてもこの部屋に監視カメラやスピーカー等のような類いは見受けられない。つまり、これは夢なのだろうと和寛は解釈した。早々にそう決めつけると彼は心を躍らせる。つまりこれは脱出ゲームというやつだ。別段彼は謎解きが得意という訳ではないが好きな部類の趣味ではある。世の中にはリアル脱出ゲームなるものが存在すると知ってはいた彼だが、実際に体験したことは一度もなかった。だからこそ夢とはいえ子供のように胸を高鳴らせているのだ。


 では早速と、ざっと辺りを見た彼は本棚から漁ることにしたらしい。

 大抵の脱出ゲームに無意味な設置物というものはない。特に本棚などは本に書かれている情報。パスワードだったり指示だったり、時には本の中心が切り抜かれていて物が隠されていたり等。仮に無意味だと思えるような設置物があったとしても絶対にそこには何かあると思わせたり、逆にその辺にはもう何もないと思わせたりと様々な役割がある。

 つまり何を調べようと損はなく、逆に何から調べようと然程変わりはないのである。


 誰もそこに何かあると言った訳ではない。ないのだが自分ならそうするという考えに基づき行動する和寛はしばらくもしない内に『暗き部屋』というタイトルの本に注目する。他の本は図鑑や辞書等、普通の図書館でよく見かけるようなものだった。だというのにこれだけは少し違い、手作り感溢れるクレヨンで描かれた見た目に目を惹いた。


 開いてみるとこれは絵本だということが分かる。様々な種類の部屋が各ページ事に描かれており、最後は真っ黒な黒一色のページ。率直に言って怪しすぎるのだ。かと言ってだからどうすればいいかなんて分からず、制限時間なんてものもあるのだからと和寛はその本を一旦放置とした。まずは他を一通り見てから考えるというわけだ。


 金庫はやはりというか鍵が掛かっておりテンキーパネル式で最大八桁までの数字が入力できるらしい。しかしこれもパスワードが見つからない現状手のつけようがないわけで、ざっと観察を終えると次に和寛は引き出しの方を調べることにした。


 引き出しは和寛が最初に見た通り三段しかなく結構低い。だから和寛は高さ的に自然と屈む形で調べることとなった。そうして手前近くの引き出し、要は一番上の引き出しに手を伸ばす。すると何かに突っ掛かるわけでもなく、固定もされていなかったようで滑らせるように中身を確認することができた。その中には白紙の束が山のように入っており、全てを一枚ずつ調べていれば時間はあっという間に溶けてしまうだろうと察する程であった。だから和寛はじっくりとは調べなかったが、流すように目を通してどれもが白紙であり、何のためにあるのか分からないと認識する。なので和寛はそのまま白紙の束を元の位地に戻しておいた。

 二段目は一段目と同じく白紙の束が、これも全て白紙でしかなく一段目と同様に元の場所へと戻し三段目へと目を向ける。開くとそこには紙が一枚だけ、しかしこれは白紙などではなく文字が書かれていた。


『二人の兄は嘘をついている。三男は嘘をついているつもりはない。二人の兄だけを問い詰めろ。真実は三男が教えてくれる』


 誰が本当のことを言っているのか当てるクイズが世の中には存在する。だがこれはその類いとは少々違うようだ。クイズであることに違いはないのだろうが、きっとこの二人の兄と三男は比喩なのだろうと和寛は思う。ともなれば真実は脱出の為のヒント辺りだろうかとも。そこまで考えた和寛は、ならば解かない理由はないとそれに集中した。

 まず状況的にこの三人は三段引き出しのことを指しているのではないだろうかと予想する。大量の白紙があった一段目と二段目が二人の兄、この紙以外何も入っていなかった三段目が三男。


「ふむ、だからどうした」


 ついつい口が滑ってしまうのは周りに誰も居ないからだ。とは言え冷静さを掻いて思慮を狭めるのは頂けないと考え直す。

 和寛はじっと文を見つめながら頭を冷やし、そして考えるのは文の後半、『二人の兄だけを問い詰めろ。真実は三男が教えてくれる』である。

 教えてくれると言っても流石に実際として喋る訳ではないだろう。きっと、恐らく、断言できないが無法地帯のような夢ではないのだからある程度現実に沿った内容になっている筈だ。だから何かしら形として現れる筈、と和寛は頭を捻る。そこで問い詰めろというのは何を表しているのかについて悩んだ。


(問い詰める、二人の兄に問い詰める、何を?)


 悩み、悩んで和寛は前文に目を戻す。


『二人の兄は嘘をついている。三男は嘘をついているつもりはない』


(そう、嘘だ。嘘を問い詰める。どうやって? ……いや、まずこの嘘は何の嘘だ? 真実を教えない為の嘘?ならそれは、言い換えれば真実を知っていることになる)


 一段目と二段目にしか白紙はなく二人の兄が嘘をついている。白紙が嘘だと仮定した場合、真実は何処へ行ったのか。既に和寛は、引き出しの中には白紙しか入っていないことを確認している。


(三男は嘘をついているつもりはない、確かに白紙は無かった。つもりはない、ということはもしかして白紙の有無が意図的かそうではないかの違いなのか?)


 和寛は最後の言葉に目をやる。


『真実は三男が教えてくれる』


(つまり最終的に、嘘である白紙が中にあったことも考えると、多分三段目の引き出しの中にヒントが現れるんだろう)


 嘘をついている、ということは二人の兄は真実を知っていることになる。知らなければ意図的に嘘をつくことはできない。仮に意図的ではない場合、これは真実を知らないかもしれないが、それであれば三男と表記を別ける意味が分からなくなる。だから三男は真実を知らない。嘘をついているつもりがないのだから今ある状況が三男の全てだ。ならば真実(ヒント)は二人の兄、一段目と二段目の何処かに隠されている可能性が高い。


 取り敢えず和寛は一段目の白紙、二段目の白紙、と念のため別々に分けて外に出す。白紙=嘘である場合これで嘘を全て取り除いた形になるのだろう。けれど今見えている二段目の中身は空っぽで底しか見えない。勿論底板に何か細工があっただとかでもないようだ。

 嘘は真実を混ぜた方が騙しやすいと言うが、少なくとも和寛にはあの白紙の束に別の何かがあるようには思えなかった。それが最初ざっと見たときに思った和寛の感想だ。しかし無意味に用意されていたものでもないのだろう。


 一応これで三段目に何か変化はないかと調べようとして和寛は二段目を閉じる。だってそうしなければ三段目の中身が見えないからだ。今までもそうして上から順に調べていた。高さ的にそっちの方が楽だから。けれど今、二段目を閉じたとき和寛は聞こえる筈のない音を聞いた。それは今までも確かに聞いていた音ではあったが、今聞こえるのは到底ありえないことだった。

 まるで紙が何かにぶつかったかのような、擦れたかのような音。今までは一、二段目の白紙の音だったのかもしれない。だが今は違う。


 和寛は咄嗟に一段目を開く。だが、そこには何もない。そして一段目を閉じるとまたあの音が聞こえた。

 二段目を開いてもやはり中には何もない。一段目と同様に、二段目の引き出しの底に細工がされているようにも見えない。

 一段目と二段目を閉じると音がする。目に見える場所には何もない。だとしたら何処から音は聴こえるのだろうかと一度考え、そうして和寛は引き出しの構造上、一段目と二段目の裏には開けば一定の空間ができることに気がつく。そこで紙に書かれていた文章を思い出した。


『二人の兄は嘘をついている。三男は嘘をついているつもりはない。二人の兄だけを問い詰めろ。真実は三男が教えてくれる』


 二人の兄だけを問い詰めろ。ここまで来てようやくその意味が分かった気がする和寛は、だから真実を教えるのは二人の兄ではなく三男なのか、と答えが間近になり、思わず顔が緩む。

 問い詰めて(開いて)(白紙)吐き出させて(取り除いて)、それでようやく真実の存在を確認できるようになったわけだ。


 しかし、ここまでは単なる想像に過ぎない。それを事実とするには答え合わせをしなければならないのだから。だから開きっぱなしの二段目をそのままに、一段目の引き出しを開ける。すると何かとても軽いものが落ちるような音が和寛には聴こえた気がした。

 必死に考えた答えが正解だったという高鳴る胸を落ち着かせながら、やや興奮気味に一段目と二段目を閉じて三段目を引く。中には今まで無かった縦長の紙切れが、長さは丁度一段目と二段目の高さを合わせたくらいだ。それを和寛は摘まみ上げ、何かの数字が表記されていることに気づく。そこには八つの数字だけが書かれている。


『26610108』




 さて要らないとは思うが正体不明な黒幕的私からも説明しようか。

 これは一段目と二段目を同時に、かつ三段目は閉じていなければ解けなかった謎だ。あまりにも簡易過ぎて謎とも呼べないかもしれないけれどね。もっと大掛かりで複雑怪奇なものをいつか作ってみたいものだ。おっと話がずれた。


 えーと、人間遠いところにあるものは無意識と手近なところから手を伸ばす。何故か?その方が楽だからだ。そうやって一段目が開けば二段目を調べる為にそれを閉じなけらばならない、そうしなければ一段目が邪魔をして二段目の中身が確認できないから、そうすれば一段目と二段目、必ずどちらかに挟まれてこの紙切れは落ちない。

 うん? もし仮に下から調べた場合だって? そうか謎が分からず適当にやった時についてだね。違う? 元から下から開ける派? どっち道同じだろう。


 さて、その場合順に引き出しを開ければ紙切れは三段目の引き出しの奥にできた隙間に落ちることになるだろうね。一々閉めていたら紙は落ちることはないし、三段目の引き出しだけを閉めるような理由があれば別だけど、そんなの謎が解けた時くらいじゃないかい?


 あれ、それじゃあ最悪詰むんじゃ……みたいな顔をしているね。してない? そう、どうでもいいけど私は詰むような設計をするほど性格悪くないからね? いやほんとほんと苦しむ姿も絶望する姿も好きではあるけれど不可能だと確定してる状況を眺めるほどつまらない性格してないよ。ちゃんと詰み防止はしてあるさ。


 実はこの引き出し無理矢理外すということができないように作ってある。というのも一段目と二段目は本体と硬く繋がれており、人間の力で引き離すということはまずできない。そもそも彼はそんなことしなかったけどね。

 そして例外として三段目の引き出しは簡単に取り外しができるようにしてある。これは詰み防止の為だが前述のような状況になれば白紙の束の音が邪魔をして偶然見つけるか謎を解かないかしない限りこの紙切れを発見することは困難だろう。また最初に三段目を外し、仮に中を覗いたとしても紙は二段目からはみ出ないピッタリサイズにしておいたから見つかることもほぼない。つまり状況は殆ど変わらないという訳だ。


 でもね、手段が残されているというのに、何も知らず何もできず焦り慌てる姿を眺めるというのもまた乙なものだと私は思うんだ。

無意味な設置物のくだり『返事がないただの屍』とかジャンルこそ違いますが色々ありますよね。ああいうの好きです。

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