謎の男
第五話 謎の男
近所の野村さんは一通り正太達から話を聞くと、警察に連絡した。そして、一人一人に「無事でよかった。」と言いながら、ハグをした。正太にとってこのハグはとても暖かくて、優しく感じた。しかし、たけしはハグされそうになると、振り払おうとした。
正太は今回起こったことを、親に話した。親はびっくりしていた。その夜正太はまた眠れなかった。それからしばらくは学校での授業も聞く気になれず、二週間が過ぎた。あの死体のことも、段々と頭から薄れていき、食欲も段々と戻ってきた。事件があってから、数日間はあの時いたメンバーで話合ったりもしていたけれど、今は全くと言って良いほどその機会は無くなっていた。
さらに数週間が過ぎ、正太はあることに悩んでいた。それは、正太が習い事から帰る時の事だ。毎晩塾の帰りに、人通りが少ない所で後ろから足音が聞こえてきて正太が走れば、後ろで走る音がして、正太が止まれば後ろで音は消える。正太が後ろを振り替えると、誰もいない。とにかく正太は怖くて仕方なかった。
そんなある日、正太はじゅんと二人でいつも足音がする場所へと塾から帰る時間と同じ時間になるようにして行った。人通りは少なく外は暗い。さっそく、そこの道を二人は歩き始めた。すると、いつも通り足音が聞こえてきた。じゅんは驚いた顔をして、正太を見てきた。正太もじゅんを見て、深く頷いた。でも、いつもと違って後ろの足音のペースが速い。正太は驚き、後ろを見たが、やはり誰もいなかった。二人は立ち止まった。するとじゅんが、「本当に誰もいないんだな、、。」と震えた口調で言った。「そうだよ。いつもこうなんだ、、。」と正太は言う。しかし、二人はまた信じられない光景を目撃する事になった。
それは、あっという間で二人も唖然としていた。二人の前には、見知らぬ高身長の髭の長い男が一人立っていた。その男は、何もない所からいきなり現れたのだ。現実では決してあり得ないような事に驚きを隠せない二人だった。男はニヤリとして「すまんな、ビックリさせて。」と言った。隣でじゅんが頷いたのが、正太には少し見えた。「あのー、どちら様で?」と正太は質問した。すると男はじゅんの方を見て、「君に話したい事があるんだ。」と言い、指を鳴らすと再び何もない所から車が一台出てきた。二人は目を丸くした。男は二人を見るとまたニヤリとして、じゅんに視線を向けた。「では、来てもらおう。」と男はじゅんにそう言うと後部座席のドアを開けた。「えっいや、親が待っているので、、その、、。」じゅんはそう言うと後ずさりした。「ハハッ僕が怖いのか?まあ無理もないな。ならこうしよう!君の友達にも来てもらおう!」と男は言うと、正太に視線を向けた。目が合った正太はもう一度さっき聞き逃されてしまった質問をした。「あの、どちら様ですか?」男は少し顔を歪めて、それから表情を元に戻してこう言った。「まだ、それは言えない。」