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とある文書データから抜粋
○都市内部崩壊誘発システム(暗号名:反転の大樹)についての報告
諜報員による法の抜け穴を突いた秘密戦争は、既に限界を迎えています。現地で兵隊を育成し、敵対組織、国家を攻略するという図式は当時非常に画期的なものではありましたが、工作員の独走による作戦の露呈等により現地の人間に刻まれる本国への敵対心は、決して無視できるものではありませんでした。
秘密戦争により、逆に数々の内戦、紛争が泥沼化していったことは周知の事実です。情報が瞬時に共有され、非日常が日常に映り込み、ありとあらゆる意味で戦争それ自体が忌避される時代が到来しました。リスク管理を求める声が高まるのに反比例する形で、『目に見える闘争』が徹底的に叩かれるようになったのです。だからこその秘密戦争でしたが、もはや秘密という単語は形骸化しているという認識が正しいと思われます。
我々が提案する都市自壊誘発システムは、その秘密戦争に新たなイノベーションをもたらす、革新的な兵器となります。あるいは、戦争を起こさずに、戦争に勝つシステム、という説明が適切でしょう。敵国の都市が自ら崩壊するように仕向けられれば、本国にまったく犠牲を出すことなく勝利することができます。具体的な説明を展開していきましょう。
話を簡単にするため、ある国に敵対するテロリストの存在を仮定しましょう。彼らが都市に攻撃する際には、二つの選択を迫られます。一つは、政府機関の襲撃予告を出し、実行に移すこと。示威効果は非常に高いものの、政府の威信にかかわるため警備等が非常に厳しくなるという欠点が存在します。二つ目に、予告なしの無差別テロを敢行すること。これを行うのは容易ではありますが、示威効果は見込めません。
以上から考えましても、『無差別』でかつ『予兆がない』犯行がもっとも阻止しづらいことがわかります。では、政府機関にとって最もアンコントローラブルな殺人とは何でしょうか? もちろん、内部犯、国民が国民を殺害する、ごくごく一般的な『殺人事件』となります。
ここで重要となるのは、どのような国であれ地域であれ、程度の差こそありますが、必ず殺人は存在するということです。つまり、殺人は異常ではあるが、非日常ではない。疎まれるが、決して根絶できるものではなく、暴力は人間と表裏一体であり、人を殺す人間というのは、あたかも運命に導かれたかのように人を殺すのです。
では、その偶発的な殺人を、必然的にすることができたとしたら?
ある地域で、殺人を含めた凶悪事件が同日に複数発生した場合、警察組織の統制の混乱及び、日常の崩壊の印象を現地市民に植え付けることが可能となるでしょう。
アドバース・セフィロトとは、同時並行検索システムであり、かつ、犯罪心理学、社会統計学等の人類の英知を結集した人工知能となります(※人工知能と脳の思考システムを同一視することの問題については別資料を参照の事)。
情報化社会が到来した今、人類の行動の全てがデータとして保存されていると言っても過言ではありません。通信販売の購入履歴。動画サイトの閲覧記録。その他、SNSサービス等での発言。それらのデータを収集し、一人一人を分類し、それぞれの犯罪行為に走る危険性を数値化するというのが、非常に大雑把ではありますが、システムの説明の骨幹となります。
普段の何気ない行動の足跡から、その人物の内面を読み解くことは非常に難しい。そのため本システムは、過去の犯罪者、あるいは危険思想人物のデータと照らし合わせる形になります。既に本国で実証実験がされており、少なくとも数値化することには成功しています(※クラウドデータを引き出す場合のサイバー防衛面での問題については別資料を参照の事)。
ここで重要となるのは、本システムは決して『一般人を犯罪者へと変貌させるもの』ではなく、あくまで既に存在する犯罪者としてのポテンシャルを持つ者の割り出しを行うものであるという点です。AIプログラムを使用し、SNS等を通じて対象とアクセスし、犯罪行為へ導く機能は搭載されてはいますが、諜報工作と組み合わせても成功率は1%未満です。殺人を必然にすると前述しましたが、それはあくまで都市内部崩壊の第一手、日常に異常をもたらすための足掛かりに過ぎません(※某国での実証試験データについては別項を参照の事)。
ある人物の危険度を分析するというのは、何も殺人に限った話ではありません。例えば、自殺、暴動など、『都市に危険をもたらすであろう行為』をもたらしやすい人物については容易に、それも広い範囲で検索することが可能となります。また彼らには、AIによるSNS、電子掲示板でのコンタクトによる無意識下での誘導が殺人者以上に効果的となるでしょう(※既に存在する世論誘導目的の諜報工作及び、AIによるものと看破されることを防ぐ通信経路分散については別資料を参考の事)。
本システムと諜報工作を臨機応変に組み合わせていく事で、一都市を崩壊に導くことは、現時点で理論上可能であると結論付けることができます。ただし、対象の都市の治安が著しくよい場合、あるいは社会的に安定している場合には効果を見込めません。
理想的な条件としては、
1.社会情勢が不安定であること。
2.何らかの対立構造が内部に存在すること。
3.情報社会成立の初期段階であること。
等があげられます。それぞれについての詳しい分析は――




