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ユートピア・アラート 〜超能力少年と不可思議少女の世界革命〜  作者: 赤嶺ジュン
ユートピア・アラート3 イモーショナル・ジェイラー(前編)
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おまけ


NG集




Memory 1



 私は主人公として不適格だ。


 だが今日から私が主人公だ。万歳だ。別に嬉しくもなんともないが、抜擢をされたからには全力を出さなくてはならないだろう。


 一応はライトノベル枠である以上、やはりハーレム形成が第一だ。私は容姿端麗で賢い。クールビューティーなイケメンだ。完璧パーフェクト人間で、収入もばっちりだ。女性落とすだけなら容易。それでは第一高校へとのりだすと――。


「させねえよ!?」


 ん? 元主人公の御影奏多ではないか。


「主人公は交代してません! 今回だけ視点が変わっただけ! というか、何だこの会話形式? 地の文も会話文もなにもねえじゃねえか!」


 だからNGなのだろう。


「くそう! 何か一本取られた感じがして悔しいッ!」



Episode 1-1


「今日のニュース見たか」


「まだだ」


「なら見ろ。今ここで。これは命令だ」


 そう言って彼女は、クロワッサンの端を噛み千切った。何故だか、肉食動物が獲物を食いちぎる様を連想させた。


 言われた通りに、胸ポケットからペン型の端末を取り出し、ボタンとなっている天ビスの部分を押し込んでホログラムウィンドウを出現させ、ニュースサイトを開いた。


 『レーガン元帥結婚!』という見出しが躍っていた。


「マジでか」


「本編では違うから」


「……マジでか」



Episode 1-2


 メインに比べればかなり狭いエレベーターに、二人で乗り込む。御影奏多は壁に寄りかかると、両手をポケットに突っ込み、のんびりと言った。


「地下空間は、主に何で使われているんだ?」


「闇闘技場だ。クマと素手で戦ったりだ」


「……リアリー?」


「ついこの前も、リ・チャンファがクマ百頭組手を制したな」


「リアリー!?」



Memory 2


「馬鹿野郎。選ばれた時点で、優秀なのはわかりきっているだろう」


 明らかに喧嘩腰のディランに対して、ルーベンスがやれやれといった調子で首を振った。ヴィクトリアは部下の問題発言を聞くのが楽しくて仕方ないように、カラカラと笑った。


「もっともな意見だな。では、この場にはいないが、五人目を紹介しよう。彼は、治安維持隊の人間ではない。それどころか、学生だ。エイジイメイジア史上最大の小物にして、期待の憎まれ役。学生としてくすぶらせるには惜しい才能だとエイカーが……」


「いや、誰だよそれ」


「ロイド・ウェブスターだ」


「いや、ホントに誰だよそれ!?」


「確か設定では、この時点ではまだ十歳だったような気がするのだが」


「いや論点そこじゃねえし!」



Episode 2-1


 円卓の四割ほどが埋まったところで、元帥が声を上げた。


 御影奏多の方を振り返ると、案の定まだ空席が数多くあることに怪訝な顔をしていた。


「貴様が原因だぞ。四月一日の事件を口実に、円卓で『役立たず』とみなされた将官が全員更迭された。その補充がまだ済んでいない。補充する気もないのだろうが」


「……噂には聞いてたけど、減りすぎじゃねえか? あの女はヒトラーか何かか?」


「仕方があるまい。円卓逆ハーレムは精鋭でなくてはならないからな」


「パードン?」


「なかなかに個性豊かなメンツが残ったものだ。イケオジ枠のラハティ中将に、小心者枠のニーラント少将。ヤンキーなスワロウに百合の八鳥に極道女のリ・チャンファ……」


「いや、元帥の守備範囲広すぎんだろお!」



Episode 2-2


 そういう流れだと思っていたのだが。弟子入りした主人公を、師匠キャラがまず叩きのめす。漫画やゲームでよくある展開だ。


「ふざけんな! レベル1でいきなりボスキャラと戦えとか、どんなハードモードだよ!」


「某伝説のゲームは、最初からラスボスに挑めたらしいぞ」


「待て! 何故お前が、四百年前のあの有名ゲームを知っている!?」


「しかし、『自然の息吹』を英訳した副題のゼル伝は本当に名作だったな。あのためにスイッチを買ってもいいぐらいだ。お陰で作者の執筆も遅れたしな」


「何の話!?」


「四百年後の未来人から、読者の皆様に一つ有益な情報を提供しよう。ゼルダは、神だ」


「いや確かにそうだけど、どうせならもっと重要な情報与えようや! というか、お前本編でもNG集でもボケ倒して、ホント何なの!?」


「最後の悲劇的結末が嘘のようだな。まあ私は悲しくもなんともなかったが」


「自分で言うな! そしてさらっとシリアス要素混ぜないの!」



Memory 3-1


 そう言いながらルーベンスが卵型の映写機に手を触れると、新たなウィンドウが出現した。彼の操作により、報道各社が一般市民へと提供される映像がいくつか映し出される。


 それを見てディランが顔をしかめると、舌打ちを一つした。


「全方位からホール映してるな。これなんかわざわざ近場のビルから撮ってるぞ。どれにも映らずに強行突入とか無理だろ」


『そこは、私に任せてもらおうか』


「というと?」


 ディランの促しに、彼女は続けて言った。


『私が現場近くで、リオのカーニバルばりの派手な衣装で踊りまくり、注意を引いて……』


「痛すぎるからやめろ」



Memory 3-2


 いや。きっとこの表現は、正しくないのだろう。


 第二十七特殊部隊。この部隊は、存在からして、破綻していたのだから。


 それに気がついたときには、時すでに遅く。


 ジミー・ディランが、腰を回し、右足を高々と上げ、目の前の男の首へと、横なぎの蹴りを入れようとした、次の瞬間。


 ――グキィッッッ!!! というすさまじい異音が、ディランの腰から聞こえてきた。


「――――ッ! ――――――――!!!」


「じ、ジミー」


「同情してくれるなルーベンス! みじめになる!」


「その歳からぎっくり腰とは。無理してハイキックなどするからそうなる」


「コイツ、ノータイムでトドメさしに来やがった……ッ!」


「あの……大丈夫ですか?」


「そしてテロリストにまで心配されたーーッ!!」



Memory 3-3


「頼みたいことがあるのですが、いいでしょうか?」


「内容によるな」


 当たり障りのない答えを返しつつ、自販機へと向かう。投入口から硬貨を入れ、ミネラルウォーターのボタンを押そうとしたところで、彼女の声が私の耳に飛び込んできた。


「不老不死をもたらすという宝石を盗んできてもらいます。上下白スーツに白のシルクハットで」


「どこの怪盗『子供』英訳だ」



Episode 3-1


「ご老人。なぜ、御影奏多に仕えている」


 私はかなり赤みの強い麻婆豆腐をレンゲで掬い取り、ウォーレンに話しかけた。


「なぜ、とは?」


「言葉通りだ。子供が主というのは、珍しい話だと思うのだが」


「ハハハ。簡単な話です。ずばり、趣味ですよ」


「UYUKQ”B+F<S”$R+F”EEKQ”!!!???」


「何ですとお!?」


 麻婆豆腐が辛すぎて口内が大火事カムチャッカファイヤーになった。


 私の意識はそこで途絶えた。



……Aruimideno Happy End.




Episode 3-2


「NGが思いつかない……だと!?」


「仕方ねえだろ。この、突撃隣の女風呂回って、存在自体がNGだし」


「というか、こういうイベントは主人公である貴様がこなすべきだと思うのだが」


「それもそうだな」


※Sakushakarano Answer:御影君が典型的ライトノベル主人公からはあまりにもかけ離れているから。レイフ? アイツは性欲抑えられるから無問題。


「いやそれでいいのか!?」



Episode 3-3


 彼は砂利道を外れて、雑木林の中へと進んでいく。それを追う形でしばらく歩き、邸宅からある程度離れたところまで来たところで、ルークが立ち止まった。


「レイフ君。君はどちらかといえば、一般の価値観から外れた人間だ。それは否定しないね?」


「一応は」


「君は外れている。何でボクシちゃんに惚れないんだ。普通惚れるだろ。かわいいぞ?」


「惚れたら第三部速攻で完結だぞ。メインテーマからも外れるな」


「ならば、私に譲れッ! 君にとって不要なモノでも、私にとっては有用だ!」


「いや、貴様もそういうキャラじゃないだろうに」



Memory 4


 どの派閥にも属せず、教員からも見捨てられ、家での居場所も失った者達が集まってできたグループ。認められない力を認め合い、傷をなめ合うためだけのシェルター。それが、彼女の所属していた、『ミュージアム』という組織だった。


「いろいろな特技を持った子たちがいました。舌打ちを一分に二百回出来る舌使い。地上十階からの目薬に成功した幸運男。『ホワタタタタタタタタタタタタタタタタタ!』をマジで実現しようとして脱臼した……」


「くだらなすぎないか?」


「ば、馬鹿にしないでください!」


「ちなみに貴様は何ができる?」


「鼻からうどんが食べれます!」


「社会のゴミだな」



Episode 4-1


「四月に手ひどくやられた経験からすると、精神系でも生物系でもないよな。となると、法則系ぐらいしか思いつかないが……あの壁、風の槍をそのまんま跳ね返したよな。どう考えても自然には起こりえない。お前の能力は一体何だ?」


「コピー能力だ」


 御影奏多がむせた。


「ごめん。今なんて?」


「吸い込んでミラーだ」


「どこのピンク玉だてめえ!」



Episode 4-2


「貴様――」


『待てレイフ! さっきまでのは俺じゃない! 俺の声だけど……俺じゃないんだ!』


 御影奏多の叫びが、御影奏多の独白を遮る。ここに来てようやく、私ははっきりと、今まで話していた相手の正体を認識した。


『悲しいことを言うなよ、御影奏多。俺は誰よりも御影奏多だ』


『違う! 俺が御影奏多だ! あんた、名は!?』


『俺は俺だあ!』


『嘘つけ! 俺が俺だあ!』


『ティアマト彗星ドーン!』


『それ入れ替わり! いやネタとしてはそれをパロったポプテをさらにパロった……ああややこしい!」


「また配信時点で最新のネタを」



Memory 5


「あなたが『最優』だというのなら、僕はそれをも超える存在となろう。ありとあらゆる人間を理解し、あなたの『心』に傷を残せる、唯一無二の人間となってみせよう。必ずだ。私は、必ず……」


 エレベーターの扉が開く。彼女はその中に乗り込むと、こちらを振り返り、私をきつく睨みつけてきた。その眼光だけは、歪み揺蕩う視界の中でも、くっきりと見えていた。


「――覚悟しろ」


 彼女は、ある種の決意と共に、唇を引き結んだのかもしれない。

 彼女は、ある種の諦念と共に、口元を緩めていたかもしれない。


 どちらかはわからない。だが彼女は確かに、結論を出し。


 私という存在を、見下ろして。


 その、思いを。


 言葉として、紡ぎ出した。


「必ずあなたと、デートしてデレさせる」


「……決め台詞を台無しにしなくてはならない決まりでもあるのか?」



プロローグ


 バイクにまたがり、荒い動作でエンジンを入れる。轟音と共にバイクは急発進すると、周りに置いてあった自転車の間を縫うようにして道路へと飛び出した。ウォーレンに通信を繋ごうと一瞬考えたが、彼は今邸宅にはいない。


 アクセルを限界まで踏み込む。御影は喉奥からこみ上げてくる激情に身を任せて、ハンドルを強く強く握りしめた。


「――やべえトイレ行きたい!」


 彼の声は誰に届くこともなく、閑散とした無関心の街の中へと、溶けて消えた。




……Thank you for reading!!


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