Memory 1
Memory 1
私は語り手として不適格だ。
軽かろうが。重かろうが。どうだろうが。
全てを一緒くたにし、公平に並べることしかできない。
だが、それ故に。
観測者になれた。
誰よりも達観し。
誰よりも観客でいられた。
受け入れがたい態度だ。いや、受け入れられない態度だと言った方が正しいか。特に、あの少年には拒絶されるような気がしてならない。
彼は、迷った。
迷うことが、できたのだ。
彼は。御影奏多はいずれ、私という存在を正確に認識するだろう。正しく、嫌悪してくることだろう。
それは、仕方のないことだ。
そして、どうでもいいことだ。
誰が否定しようが。誰に肯定されようが。
私にとっては、同じことだった。
私は思い出す。自分自身に、語り聞かせる。
愚かで、合理性の欠片もなく、決して『共感』しえない、彼女の在り方。その原因が、何なのかを再確認していく。
全ては感情だった。
感情ゆえに、歯車が食い違った。
一人の男が『アウタージェイル』というエイジイメイジア史上最大規模の反社会組織を立ち上げたのは、既に出来上がってしまっていた世界の在り方に対する悲鳴であり、文字通り『檻の外側』を目指して彼はひた走った。
それは目標であり、目的でもあったが、酷く薄ぼんやりとしたものだった。簡単な話、誰もがそこに問題があることを認識しながらも、その解決方法を知らなかったのだ。
本当は誰もが、理性ではわかっているのだろう。
現実に解決は無く、あるのは妥協のみであり。
理想とは己の欲望にすぎず、共有できるものではないのだと。
分かち合うことも、分かり合うこともできずに。皆がただただ、自分が見ている箱庭の景色が世界の全てであることを夢見て、異なる風景を愛でる人間を異物とし、戦いを挑み続ける。
恒久的な、平和のためにだ。
ならば、彼女の戦いもまた、欲望によるものだと言えよう。
人間を愛し、人間を憎み。
人間を信じすぎたがため、誰よりも人間から離れた。
人間を。感情の存在を、尊びすぎた。
それが、彼女だ。
私にとって、過去とは基本無価値なものだ。よって私は、何の躊躇いも、罪悪感もなく、極めて端的に、簡単に、七年前のあの闘争について定義する。
アウタージェイル掃討作戦。テロリストと政府による、かつてない規模の全面戦争であり。
現在超越者序列二位である、私、レイフ・クリケットと、優れてはいたが、まだ人として人の生を謳歌していた、彼女。
私たち二人の不毛かつ一方的な戦いが、幕を開けた瞬間であったと。
これは。
彼女が、なにゆえ『僕私』となったのか。
人間を極めし、人間になったのか。
その所以を、紐解く物語。
裏で万の人間が戦火で灰燼に帰してようが、数多の悲鳴が天球に木霊してようが。
私にとっては、ただ、それだけの話だった。




