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ユートピア・アラート 〜超能力少年と不可思議少女の世界革命〜  作者: 赤嶺ジュン
ユートピア・アラート2 ファイアドール・ユアセルフ
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おまけ


NG集




Memory-1


 ゆっくりと、ゆっくりと、後ろを振り返る。


「お前、どうして……」


 そして、彼女の視界は、真っ白に塗りつぶされていき――。


「どうして格好がバニーガール!?」


「どういう状況よ!?」


「HAHAHA! 僕の趣味だよ、エボちゃん!」


「犯人お前か! この変態中年サボり魔が! 何をどうやって着替えさせた! いろいろと見ちゃってるなら、そこんとこ詳しく解説プリーズ! 男の欲求フルオープン!」


「男二人はそこになおれッ!」




一章





 彼女の声が、テクラの耳に飛び込んできた。


 弾かれるように、ロイドがテクラの元から離れた。


 テクラの視界に、声の主の姿が飛び込んでくる。ジーンズのベルト通しにジャラジャラとつけられた銀のアクセサリー。胸の上で光る十字架。大きな輪の形をした金のイヤリング。総じて軽薄な印象を与えてくるが、胸元に付けられたバッジがそれを吹き飛ばす。


「学生警備副隊長の、エボニー・アレインよ。その子、私の好みだから渡しなさい」


「公式百合設定!?」


「両刀よ」


「もっとまずい! 読者さーん! これはおまけコーナー特有の暴走ですから!」


「本編輸入希望!」


「させるかあッ!」





 茶髪の男子生徒は肩を竦めると、手にしていた二つの缶コーヒーのうちの一つをクルスの机に置き、自分の缶のプルトップを起こした。


「それで? 何か面白いニュースある?」


「……あるな。それも、とびっきりのが」


「ハハ。いいのか、ハードルを上げて? もうめったなことでは驚かないぞ?」


「お前の推しが、バックダンサーと盗んだバイクでアダルトなランドにゴートゥヘブン」


「世界よ滅べ! 推しはラピュタでまじバルス!」





 ウェアラブル端末である時計の表面に触れ、ホログラムウィンドウを出現させる。あの、自分より背の高い幼馴染からメッセージが届いているのを確認し、彼は盛大に顔をしかめたが、その内容を見て更にげんなりとした顔になった。


「おい、ソニア。これ見てみろ」


「何です?」


「副隊長殿が学校中の女を食い散らかしてることが、ついに外部に漏れた! 苦情とファンレターのどっちが多いか賭けてみない?」


「キマシタワー!」





 予想外の言葉に、エボニーとソニアは目をしばたたかせる。御影はシャーリーとつないだ手を無理やり振り払うと、彼女の顔に人差し指を突きつけて叫んだ。


「知らないって言ってんだよ! この赤毛、誰!?」


「そ、そんな! 私ですよ! シャーリー・ピットっす! 三年前、一緒にナガサキを走って、いつかどちらかが天下を取ろうと約束したじゃないですか!」


「何の話!?」


「ボート、レース!」


「抑揚うぜえ!」





「アレイン先輩!」


「な、なによいきなり」


「嘘ですよね!? 御影先輩の電撃ビフォア・アフターが凄いんですけど!」


「いや、そう言われても」


「アフロな田中さんになってるって、どういうことですか!?」


「苗字まで変わって何があったあ!」





 流石のシャーリーも、あまりのことに呆然と口を開いている。エボニーは腕組みをとくと、マクミランの方へと一歩足を踏み出した。


「マクミラン先生。今、何とおっしゃいましたか?」


「え?」


「え? じゃありませんよ! 私と寝れないって、どういうことですか!」


「アレインせんぱーい!?」


「テクが悪いですね」


「クッ! 修行が足りなかった……ッ!」


「先輩このネタもう三回目くらいですけど、それでいいんですか!?」





 無駄に格好良くて、若々しくて、なんかもう並んでいるだけでこちらが霞んでしまって正直うざい超絶イケメンは、呆れたようにため息を吐くと、胸に右手を当て、曇りなき眼でこちらを見つめてきた。


「友を救うのに、理由など必要ないさ」


「言っていることは間違ってるはずなのに、何か説得力があって余計腹立つ!」


「すまない。貴様は、愛と勇気だけが友達だったか」


「……何だって?」


「だが私は、幼少期の恩を忘れない。お腹を空かせた私に、アンパンをくれた恩を!」


「作品間違えてない!?」


「ディラン! 新しい顔だ!」


「絵面がホラーすぎる!」




Memory-2


「いやあ、寝坊した! 遅くなってごめ――」


 面接官にあるまじきことをヘラヘラと笑いながら言ったおっさんの頭に、直後、洗濯していない男性の靴下が束になって落下した。


「いたずらが悪質過ぎない!?」


「全部先生のですよ?」


「Oh,yeah!?」




二章





 そんなどうでもいいことを考えているうちに、目の前のウィンドウに通信の映像が表示される。なかなかにバイオレンスな絵面に、流石の彼女も表情を引き締めた。


『ハ~ヒフ~ヘホ~!』


「情景描写ができないレベルでアウトだッ!」




「水臭いですよ、奏多。この際言っておきますが、あなたは自己評価が少々厳しすぎます。そんな、自己嫌悪の塊になる必要はないと思いますよ?」


「……」


「性格は最悪ですが、ベッドの上では最高です」


「…………何だって?」




 言語中枢が焼き尽くされた。


 胸に熱いものがこみ上げてくるのがわかる。日々の労働基準法完全無視の業務で心がすさんでいたが、そもそもにおいてグレッグは、テクラ・ヘルムートのような弱者を救いたいと願って学生警備に入ったんだった。そう。あれは、超能力者に選出されたときのこと。グレッグは父親に、ノブレス・オブリージュについて教えられたのだ。


 守るべきは、騎士の魂、弱者の命。カムランの戦いをへてこの世界に転生し、幾星霜。ついに聖剣の輝きをもって、神が創りだした願望のコップ、聖杯に白髪のせいで巣くった悪の大魔王アンリマユを打倒するときがきた。だがそこに立ちふさがるは、青タイツの犬が大好き槍兵と、弓を使わない副業弓兵本業主婦の赤マント、そして……。


「待って! 回想続けないで! 世界が変わる! 誰かツッコミを!」


『つまり、グレッグの過去編は現段階でまったく考えられてないってことね』


「クソォッ! メインキャラがウラヤマシイ!」




 腕を肩に回し、己を抱きしめる。舌を少しだけ突き出し、舌なめずりをし、テクラ・ヘルムートは、目の前の強者へと笑いかける。


「美しい者を自分の物にしたい。それは、人間として当然のことだと思いませんか?」


「なるほど。君は……そういう人間なんだな」


「というわけで、ラブレターの書き方を教えてください!」


「それ俺に聞く!? というか、奥手すぎる上に古風だな!」


「だってグレッグさん、中学時代とかに恋愛とかいろいろ拗らせてそうだから……」


「その評価は残念ながら正しいが、そう思うなら他をあたれよ!」




「なあ。強さっていうのは、何だと思う?」


「……」


「俺は、強さって言うのは、そのまんま力のことだと思っていた。でも、どちらかと言えばやっぱり精神面の方が大きいと知った。友情、努力、勝利。これが王道なんだよ」


「……(汗)」


「やっぱりね。俺って、主人公としてどうかと思うんだよね。色々と面倒くさいじゃん?」


「やめなさい! これ以上は、色々とタブーだから! 作品が根幹から崩れるから!」




第三章




「シリアスだから、一つだけよ!」


「二回目読んだ時に、思わず笑っちゃうようなのはNGな! 絶対駄目だからな!」


「行くわよ!」


「カモーン!」


 それでも。このネタ本当にやっていいか、わからないけれど。


 エボニー・アレインの言う事は、すでに決定されていた。


「――お願い! 私を、助け(だきしめ)て!」


「いいともー!」


「「第二部、完!!」」




エピローグ


「そこで提案だ、御影奏多。四月一日の出来事を、全て嘘にする気はないか?」


 一瞬、喉が詰まったような、そんな気がした。


 別に彼女が持って来たケーキを口にしたわけでもないのに、何故だか息苦しさを覚える。御影はヴィクトリアに目を向け、彼女が真剣な表情をしているのに更なるプレッシャーを感じつつ、慎重に口を開いた。


「……どういう意味だ」


「やっぱ異世界行こうぜ?」


「またそれかい!」


「一巻から書き直しだ。スライムになるのと自販機になるのと鎧になるの、どれがいい?」


「選択肢がひどすぎる!?」




エピローグ2


 草原。どこまでも広がる原っぱの上に、二人はいる。褐色の少女は大きく伸びを一つすると、寝転がる少年を見下ろして言った。


「ねえ、カナタ。実はこの二巻ね。二十万字書いて完結させたのを、一度没にしてるのよ」


「……何だって?」


「しかもね! 私、メインヒロインじゃなかったのよ! 序盤で毒盛られて、そのまま終盤までずっと寝てたから!」


「作者頭おかしいんじゃないの!? ……ちなみにメインヒロインは?」


「シャーリー・ピット」


「没になるべくしてなっている! 書く前に気づけえッ!」




……Thank you for reading!!



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