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ユートピア・アラート 〜超能力少年と不可思議少女の世界革命〜  作者: 赤嶺ジュン
ユートピア・アラート2 ファイアドール・ユアセルフ
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エピローグ2


エピローグ2



 テクラ・ヘルムート争奪戦から、およそ一週間後。もろもろの事情で休校となっている人気のない第一高校の廊下を、一人の男と少女が歩いていた。


 二人共赤茶の制服に身を包んでいるが、少しだけデザインが違う。少女の方は学校の式典用の制服のためどこか真新しい印象をうけるが、男の方は少し着古した感が出ている。


 そしてさらにお互いの共通点を上げるなら、制服の下のいたるところに包帯が巻かれていた。男の方に至っては眼帯までしているが、それでも顔の痣を隠せていない。


「いやあ、お互い大変だったねえ、エボちゃん。僕は監禁拷問で、君はマインドコントロールと来た。今回ばかりは、御影君に感謝しないとねえ」


「……ええ、はい。そうですね、隊長」


「ありゃ。元気ない。いつもならここで、『あんなのに感謝とかありえないですから。顔面焼かれたいんですか?』ぐらいの暴言が飛び出すところなんだけど」


「そんな元気ないです。だって……」


 どう見ても文系名門高校のそれである廊下の途中で立ち止まり、彼女、エボニー・アレインは、耳まで真っ赤にして両手で顔を覆った。


「だって私、今回どう考えても痴女だったじゃないですかあッ! 何ですか!? やけどした場所自分で舐めて、半裸であの馬鹿と抱き合って大泣きするって……アアーーッ!」


 少女の告白と悲鳴が、閑散とした第一高校校舎に響き渡る。学生警備隊長、ジミー・ディランは、顔を引きつらせて一歩後ずさりをした。


「炎の中で抱き合ったまま寝ていたっていう、ルーベンス君の報告は本当だったんだんだね」


 若干どころかかなり引いてるジミーのその言葉がとどめとなり、エボニーはその場に突っ伏して動かなくなってしまった。


「うう……うう……。私、どう考えてもメンヘラだったし。かっこ悪かったし。全方位に迷惑かけたし。いっそ死ぬか。死んでやろうか」


「やめなさい。君の為に命をかけた御影君がマジで気の毒だから」


 ジミーがそう言うのに対し、エボニーはきっ、とまなじりを尖らせて、彼の顔を見上げるようにして睨みつけた。


「というか、何で私から学生警備の資格が剥奪されないんですか!?」


「だからそれも何度も説明したじゃん。君を処罰したら、同じく操られていた特設クラスのメンバーの大半も同様に罰しなくてはならなくなる。それに、事情はどうあれ今回の戦犯はテクラ・ヘルムートだ。客観的に見て、それは間違いない」


「……そうなんですけどお! けどお!」


「そして、学生警備の失態は全て僕に行くからね。ま、治安維持隊それ自体が騙されていたし、ついでに裁判所の連中も摘発したし、チャラってことで!」


「気持ち的にはそう簡単にいかないんですよお!」


 自分らしくない泣き言が、次から次へと迸る。ああ。これ精神病んでる。五月五日から何一つ改善していない。メンヘラでヤンデレだ。……いや、ちょっと違うか。


 とにもかくにも、普段暴言を叩き付けまくっているジミーに弱音を吐いてしまうくらいには参っている。それでもって、心なしか隊長殿の顔が嬉しそうなのがまた腹立つ。


 弱っている女の子最高、とか思ってないよな。この変態。


「弱っている女の子最高!」


「死ね地味親父!」


「……へ?」


「間違えた! お父さんじゃない! いや、さらに悪化した! ……そこでニヤつくなあッ!」


 そこからエボニーのハイキックが炸裂し、ジミーが涼しい顔でそれを受け止めるまでがワンセットだ。やはりこの男。実力だけ見るなら化け物である。


 そして何事も無かったかのように肩を並べて、廊下を歩き出すのもまたデフォルトだった。……自分で言うのもなんだが、一体何がどうなってんだこれ?


「それで? 御影君のお見舞いには行ったのかな?」


「……それは、まあ」


 御影はかなりの重傷で(当たり前だ)、今もなお入院中のはずだ。怪我の理由の九割は自分なのだから、そこで謝りに行かないほど、エボニーも鬼畜じゃない。


「そこで、よくある幼馴染の感動的な会話があったと見た! 『感謝のしるしに、今度メイド服を着てくれ!』『オッケー!』、みたいな!」


「いや、よくはないでしょうそんな会話。あと真面目な話、私にメイド服は似合いませんよ」


「……着たことあるの?」


「中学の学祭で一度。絶望的に似合わなくて、御影に大笑いされて、そのまま小学生以来の殴り合いの喧嘩に突入しました。メイド服で」


「エボちゃん。男女差別につながりかねないのを承知で言うけど、僕は時々、君の性別がどっちなのかわからなくなるよ」


 若干へこむが、ジミーがそう言いたくなる気持ちも、わからなくもない。女性としては、背が高すぎるのも問題だ。スカートがまったく合わない。御影よりも背が高いし。それで、あの男が傷ついている様子はまったくないが。


 良くも悪くも、普通の価値観がまったく適用されない少年だった。そしてそれは……エボニー・アレイン自身にもまた、当てはまることなのだろう。


「大した話はしてないんですよ。私がごめんって謝って、アイツが大馬鹿がって言って、そのあといつもみたいに口げんかして終わりです」


「……」


「隊長?」


 急に黙り込んで、その場に立ち止まってしまったジミーの方を振り向いて、彼女は首を傾げた。そんな彼女を見て、ジミーは戸惑うように首を振って言った。


「わからないな」


「何がですか?」


「ちょっと話題を変えるけどね。君達、四月一日の後はどんな会話したんだい? あのときは、逆に御影君の方が君に迷惑をかけたよね。まあ、普段からそうなんだけど」


 質問の意図が分からない。ジミーの顔色を窺おうとしたが、丁度廊下の影になっている部分に立たれているため、残念ながらわからなかった。ここはやはり、素直に彼の質問に答えるのが吉なのだろう。


「そうですね。ちょうど、今回を逆にした感じですかね。色々愚痴ったら普通に謝られて、私がアンタが謝るとかありえないって茶化して、また言い争った、みたいな」


「…………」


 ジミー・ディランは再び無言で首を振ると、疲れたように肩を落として、猫背になりながらエボニーの横を歩いていった。


「前に、君達の関係が歪だといったけど、訂正しよう。歪というか、異常だった。まさか、無償の献身が、双方に働いていたなんてね」


「……」


「君達にとって、互いに迷惑をかけあうのは当たり前、というわけだ」


「いや、確かにそう言われればそうかもしれませんけど……そんなに変ですか?」


「変だね。十二分に」


「……はあ。そんなものですか」


 なんだか拍子抜けしてしまい、気の抜けた声が出てしまう。そう言えば確かに、色々と関係性が変化してはいるが、そこは変わっていないかもしれない。


 御影奏多はエボニー・アレインのために命を懸けることを、是とするだろう。その逆も、またしかり。それはただの事実だ。


 いつからそうなったのかはわからないが……ジミーに改めて指摘されるまで、忘れてしまっていた。まあどうでもいいが。


 彼女はジミーの背中を追いかけて小走りになり、隣に並ぶと、また少し陰鬱な気持ちになって言った。


「そんなことより、学生警備のみんなは、絶対私のこと馬鹿にしてますよね」


「……どうしてそう思うんだい?」


「だって、私は今回、正義の味方どころか悪の権化だったわけで……」


「確かに今回、君は間違えた。それは三年前も同じだ。でもね、エボちゃん。正しい人間はいないけど、間違えることしかできない人だって、この世に一人もいないんだぜ?」


 彼が何を言いたいのかわからず戸惑っているうちに、二人は学生警備室の扉に辿り着いていた。思わず、ごくりと唾を飲み込んでしまう。そんなエボニーの様子に、ジミーは含み笑いをすると、引き戸を一気に開け放った。


 パン、パン! と。複数の破裂音。


 すわ銃声かと身構えてしまったエボニーは、次の瞬間、宙を舞うリボンやら紙吹雪やらに、呆然と目を見開いた。


 室内へと、目を向ける。普段殺風景なその狭い部屋は、いたるところに飾り付けが施されており、真ん中に寄せられた机の上にはケーキやらローストチキンやら、豪奢な料理がところせましと並べられていた。


 グレッグとアリシアが、破裂させたクラッカーを手に笑っている。奥に立っていたシャーリーとリエラが顔を見合わせて、シャーリーは満面の笑みで、リエラはいつもの眠たそうな顔で、口に手で作ったメガホンを当てた。


「「退院、おめでとう!」」


「イェーイ! 予算解放! 御馳走だらけ! ヘルムートさまさまだな!」


「流石にその発言はどうかと思うよ、グレッグ!?」


 ワイワイと、隊員たちが勝手気ままに騒ぎ出す。


 ……言葉が、出てこない。


 呆然と立ち尽くすエボニーに、ジミーは微笑を浮かべて言った。


「あのときの言葉を、今一度言おうか。ようこそ、学生警備へ」


「――ッ!」


 不覚にも、目頭が熱くなってくる。


 涙腺が決壊する前に、エボニーは両手を持ち上げて、無茶苦茶に目を擦ると、ジミーを睨みつけて言った。


「この格好つけ」


「アハハ。男の子は何歳になっても男の子というわけさ。ま、ひとまず全部忘れて、パーティーを楽しもうじゃないか。笑顔が全てを解決するとかいう世迷言を信じてみるのも、たまには悪くないだろう?」


「……ええ。そうですね」


 エボニー・アレインは、本当に珍しく、彼の言葉に素直に頷くと、隊員たちに微笑みかけて警備室へと足を踏み入れた。


 人は、どうしようもなく間違える。それは、絶対の真実だ。


 それでも、成し遂げられることだって、確かにあるのだと。今はそう、信じていよう――。



  ※  ※  ※  ※  ※



 ――それは、わずか数年前の、しかし少年と少女にとっては、永劫の彼方に置き去りにされたに等しい、ある一つの小さな約束。


 草原。どこまでも広がる原っぱの上に、二人はいる。褐色の少女は大きく伸びを一つすると、寝転がる少年を見下ろして言った。


「ねえ、カナタ。友達って、何だと思う?」


「また難しいこと考えるね、エボは」


「アンタと違って、賢いのよ私は。それで? 答えは?」


「そんなこといきなり聞かれても、わからないよ」


「このバカナタめ」


「……そのあだ名、嫌いなんだけどなあ」


 少年は口を尖らせると、草原の上から体を起こした。服に草や土の欠片が、たくさんついてしまっている。少女は手を伸ばしてそれをはたき落としながら、続けて言った。


「私はね。お互いを、利用し合うのが友達だと思うの」


「ふうん。よくわからないけど、なんだかそれは、哀しく聞こえるな」


「どうして? 誰かを利用するには、大抵それに見合うお礼をしなきゃいけないじゃない。ただ友達だってだけでお互いを助けるって、すごい素敵だと思うけど」


「……そう言われると、確かに」


「でしょ?」


 賛同を得られたのが嬉しくて、少女は顔をほころばせた。


 こう言っても、みんな大抵、理解できないというように首を振る。特に大人の中では、恐い顔で説教してくるような人も少なくなかった。


 その点、彼はこちらの言いたいことを素直に受け止めてくれる。彼はあまり頭のいい方ではないが、それは大きな長所だと少女は思う。


「だからね、カナタ。約束しましょう? 私たちは、お互いを利用するの。何も言わなくてもそうする権利を、お互いに持っているの」


「じゃあ僕が困った時は、エボを頼ればいいんだね?」


「うん、そういうことよ! だって、私たちは友達だもの!」






 こうして、その何でもない約束は、忘却の海へと飲み込まれ。


 ――二人の青春を、甘やかに狂わせる。




……Utopia Alert 2 "the Clying Girl was You" is the End.


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