第一章 開幕前-2
2
特別能力育成高等学校の出身だと言えば、一般の人間はたいがい第一高校のことを連想する。もう少し詳しい人なら、科学の第二高校、工学の第三高校、医療の第四高校についても言及するだろう。
しかし、知識の第五高校、となると話は別だ。第五高校がマイナーもいいところなのは至極単純で、超能力者が一学年に一人いれば珍しいほど、『平凡』な一般人の割合が高いからだ。しかもその限られた二、三人は、ほとんどが登校拒否となれば色々と見えてくる。
つまりは、御影の様に問題を起こした超能力者の島流し場所である。一応、学力偏差値的には第一位なはずなのだが、あんまりといえばあんまりな扱いだった。
御影は駐輪場にバイクを停めると、まだ着慣れない紺色の制服のポケットに両手を突っ込んで、第五高校の校舎を見上げた。
第一高校のそれとは比べ物にならないほど小さい。さらに言えば、ぼろい。小学校の校舎の方がまだマシだろう。
「ここまで予算配分が露骨だと、逆に笑えないな」
グラウンドに目を向けると、あまり使われていないからか雑草が目立った。当然、芝生のサッカーコート三面など贅沢な施設はない。
御影としては、登校できて授業を受けられればそれで問題なかったが。
既に一限の時間が迫っている事もあり、昇降口の人ごみはまばらだった。第一高校とは違い、第五高校は上履きがあり、昇降口で履き替える必要がある。
かかとを踏み潰さないように指を差し込んで上履きを調整する御影に、同じクラスの生徒が朝の挨拶をしてくる。それに適当に応じながら、御影は廊下を進んだ。
ただでさえ小さい校舎なのに、中央が吹き抜け構造になっているせいで余計に狭い。だが窓からの日光の量が多く、風の通り道もあって、御影としては好みだった。
第四学年の教室があるのは二階。御影はポケットに手を入れて階段を昇る。途中で同じクラスのサッカー部の連中とすれ違った。朝練が終わったのだろう。「よう問題児!」とはやしてくる彼らに、「うるせえ」と怒鳴りつける。一段上のフロアに出た御影は、そこで、教室前の小ホールに人だかりができていることに気が付いた。
少し影になったホールの中央に、青い光を放つ巨大なホログラムウィンドウが浮かんでいる。どうやら、この前行われた中間試験の順位発表が行われているようだった。
人込みの中に、見知った車いすの少年がいるのを見つけて、彼の元へと歩み寄っていく。御影の気配に気が付いたのか、彼、最年少弁護士クルス・アリケスは御影の方を振り返ると、得意顔でウィンドウを指さした。
「俺の勝ちだ、御影」
見ると、成績順位のトップでクルス・アリケスの名前が光り輝いていた。一方、御影はというと、そこから数段下がって学年五位だった。
「ああ、クソ。やっぱりか。数学でミスったな。いい問題だったのに、完答できなかった。まったく、情けない話――」
「ぬぅあにが情けないじゃ飛び入り超成績優良者がぁぁぁぁァァァァああああアアアアッ!!」
「――だじゃぼらあ!?」
クルス・アリケスの友人であるブレント・クルンプトンのドロップキックをもろにくらい、御影奏多はたまらず前の女子生徒の群れに突っ込んだ。
気流で背後もわかるはずなのに不意打ちをくらったことに若干戦慄しながら、御影は両手をふんばって上体を上げた。
そしたら、また悲鳴があがった。見ると、同じクラスの生徒会長、黒髪かきあげおでこ露出に眼鏡が正直いってドストライクなマリエ・フヴァーロヴァーの、なかなかに豊満でいらっしゃる胸をわしづかみにしていた。
柔らかく心地よい弾力を前にし、御影は首を傾げると、
「……今更おいしい展開? 俺、ラノベの主人公じゃないんだけど?」
「とりあえず謝りなさいな、この変態ッッ!!」
強烈なアッパーをくらい、今度は先ほどと逆方向に吹き飛ばされた。
そのまま廊下に大の字になって、人生のどこで何を間違えたのだろうかと真剣に悩む御影に対し、ブレントとマリエ生徒会長が交互に怒鳴りつけてきた。
「突然転校してきた一週間後の中間テストで学年十位内って何!? しかもそれで満足してないとか、知識量で超能力者に対抗できると思ってた俺が馬鹿みたいだろッ!」
「御影君! 確かにあなたがイケメンで、その経歴から一部の界隈に絶大な人気を誇ることは承知していますが、それでもセクハラはセクハラですからね! わかってます!?」
「やっぱあれか。あの夜に、クソアマを拾っちまったのがいけなかったのか」
「「話を聞けッ!!」」
二人の上履きの底が高速で振ってくるのを、横に転がることで大人げなく回避した御影は、その場に立ち上がって制服の埃を払った。ちなみに、二人の攻撃も受身等で受け流していてそんなにダメージはなかったりする。
「まあまあ、二人共落ち着け。ブレント。別に俺より成績が低かったからって、何が問題なんだ。真の知識人は、数値化できない価値を追い求めるんじゃないのか?」
「悟ったようなこと言ってて何か腹立つ……ッ!」
「それから生徒会長。そう怒らなくても大丈夫だ。あれは事故だ。何故なら俺は胸好きではない。ましてや尻好きでもない。……強いて言うなら、髪だな。うん」
「最悪ですわ、この男ッ! それ謝罪じゃなくてただの性癖暴露ですよね!?」
「んじゃまあ、そういうことで。もうすぐ授業だ。教室に行こう」
二人の正拳突きを正面から両手のひらで受け止めつつ、周りに集まっていた野次馬に声をかける。ブレントを宥め、マリエに対して今度は本気で謝りながら、御影は教室に移動した。
御影の席は窓際で、一番後ろのクルス・アリケスの一つ前となる。秋風が吹きこみ、よもぎ色のカーテンがそよぐのをぼんやりと眺める御影に、アリケスが口を開いた。
「らしくないぞ、御影」
「どういう意味だ?」
「ハイテンションすぎる。無理するな」
「いや、無理なんてしてないよ。これっぽっちも」
「相手を振る形だったとはいえ、アレは不本意な別れだったろ」
「おいおい、間違えるなクルス。あれは振ったんじゃない。俺が振らせてもらったんだ」
「……彼女も同じようなことを言っていたよ。振られたんじゃなくて、振られさせてもらったって。まったく、二人共無駄に厳しい」
「それだけのことをやらかした自覚はある」
正直言って、第一高校を退学処分にされただけで済んでいるのは、どこか釈然としない。間違いなく、ルーク・エイカーの力が働いているだろう。
今の自分の立場を考えると、それが余計なことだとは断じられなかったが。
「彼女の様子は?」
「落ち着いているよ。あの様子なら、裁判も問題ないだろ。一審のスピード判決、情状酌量を勝ち取れるはずだ。というか勝ち取る。それが俺の仕事だ」
「そうか。それはよかった」
「だけど、第一高校にはもう戻れないだろうな」
「それはお互い様だな。俺は別に問題ないが」
「努力で主席の座を勝ち取り続けた秀才が、よく言うよ」
御影はそれに反応せず、前の黒板の上にある時計を見た。授業まではあと数分。ちなみに、この高校では授業で実際の黒板を使う教員が多い。その方が便利なのだとか。
「まあ、過ぎたことは過ぎたこと。ひとまず御影は、来たる七天祭のことを考えないとな。個人代表はもちろん、団体代表としても」
「……不祥事で転校から数日の生徒が代表になるって、お前らそれでいいの?」
「そもそも第五高校には超能力者がほとんどいないし、お前は第一高校でも首席だったんだから当然だろ。お前には出場する義務がある」
「夢見る子供たちのために?」
「お前が蹴落としてきた、全ての人間のためにだ」
「へいへい。ダークヒーローって奴もつらいねえ。というかさ」
御影は周囲へと目を向けて誰も聞き耳を立てていないことを確認すると、アリケスの方に顔を寄せて囁きかけた。
「団体戦って、確かあれだろ? 学校ごとの代表が五対五で戦うやつ」
「そうだな」
「第五高校の枠、そもそもあんの?」
「あるぞ。七天祭には第五高校も出場資格がある。団体じゃなくて個人、最終日の枠もそうだ。個人の方は出られる人間がいないから基本第一高校に回されるけど、団体戦は強制参加」
「どうして?」
「やられ役が必要なんだよ。超能力者と一般人の実力差が絶対であることの宣伝。というか、お前もしかして、七天祭について全く調べてない?」
「興味なかったからな。少し前まで、出るのは当然だったし」
「……その当然を勝ち取るために、彼女はあんな事件を起こしたんだがなあ」
そう言われてしまっては、こちらとしても黙り込むしかない。複雑な表情で腕組みをする御影だったが、背後に気配を感じて振り向くや否や、上から降ってきたチョップを受け止めた。
先ほど御影の背中にドロップキックをかましてくれたブレントが、片手を御影に掴まれた状態のまま忌々し気に舌打ちした。
「可愛げがない」
「前も言っただろう。俺は周囲の気配を探知することができる。お前は殴られると分かっていて避けない選択をするか?」
「しないな。だが御影、お前は駄目だ」
「いや、どうしてそうなるんだよ」
ブレントは今度はあからさまに舌打ちをすると、もう片方の手に持ってた三つの缶を、それぞれの机に置いた。ちなみに、二人がコーヒーで、御影だけオレンジジュースだった。
冷たい缶を持ち、プルトップを前に倒す寸前で、御影は顔をしかめた。
「ちょっと待て。もうすぐ授業じゃね?」
「第五高校は授業中も飲食OKだ。その代わり、周りに迷惑かけるのは厳禁。成績落ちても自己責任。いい加減慣れろ」
「匂いは?」
「お前、そんな些細なこと気にするわけ? どんだけいい子ちゃん?」
「厳しい家庭に生まれたんだ」
「ほーん。それで、第一高校では歴代最悪の問題児ねえ」
ブレントが缶を開けて、中身を口の中に流し込む。クルスは車いすに備え付けのポケットに缶を滑り込ませて口を開いた。
「そう言えば奏多、お前の家族について聞いてなかったな」
「ん? そうだっけ?」
今度こそオレンジジュースの缶のプルトップを倒しながら、御影は首を傾げた。空気が抜ける音が耳に心地よい。
「家族ね。何を期待しているのか知らないけど、大して面白い話じゃないぞ」
「別に。ただ、気になっただけだ」
「ふうん。ま、そういうこともあるか。クルスも知っての通り、母親とは幼い頃に他界している。超能力者として選抜されるよりも前の話だ。父親は数学教師」
「教師! お前の父親、数学教師なの!?」
なぜだかブレントがオーバーリアクションしてくるのに、御影は戸惑いながらも頷いた。
「そんなに驚く事か? というか、アイツは数学教師の面よりも、ただただ変人としての側面が強いぞ。まず、無茶苦茶頭がいい。合理の化身だ。んでもって、ホログラムをかなり嫌悪している。いや、あれは避けてるのか? 何にせよ、俺が紙の本を好むのは、父親の影響が大きいことは間違いないな。いつも書斎に引き籠もって、難解な数学の問題を解いていた」
無数の本棚に囲まれて、小さな机の前で最中を丸め、一心不乱に数式を書きなぐる後ろ姿。父親に関する記憶の大部分は、その光景で埋め尽くされている。
コンピューターを使わずにどう生活するのかと常々疑問だったが、九歳ぐらいのときに何と一目見たものを写真のように記憶することが可能であることが発覚した。つまりは、完全記憶能力だ。息子としては、あの親をもって何で自分の頭はそこそこなのが疑問なくらいだった。
「物静かで、謙虚な人でな。自分の意見をほとんど言わないし、ましてや怒ったところなんて見たことがない。ほら、子供ってよく理不尽な癇癪を起したりするだろ? でも、それを頭ごなしに否定したりしないんだよ。必ず最後まで聞く。それで、一言、二言だけコメントしてきて、なぜだかそれがすとんと胸に入ってくるから……」
そこまで話したところで、御影は周囲の生徒が自分のことを凝視していることに気が付いた。
御影は少しだけ顔を赤らめると、何かを誤魔化すように咳ばらいを一つした。
「やめやめ。この話はこれで終わりだ。ったく。余計なことを喋らせやがって」
「ちょっと待て! これから面白くなりそうだったのに、そりゃねえよ!」
「黙れブレント。お前は家族のことをネタにされて楽しいか?」
「楽しいね!親が未だに家でイチャラブしてるのが超ウゼェ!」
「あ、そう。幸せそうで何よりなこと」
「コラ! そろそろ授業が始まりますわ! 自分の席に戻る!」
巨乳生徒会長(実際にそう呼ぶ度胸はない)マリエ・フヴァーロヴァーが両手を何度か打ち鳴らす。いつの周りかできていた三々五々に散っていくのをぼんやりと眺めていた御影は、ふと生徒会長がこちらを見つめていることに気が付いた。
「何だ? セクハラで訴えるのか? それは大変だ。クルス。弁護頼む」
「心にもないことを言わないでくださいな。わざとでないことはわかっています」
彼女は頬に朱を入れて、そっぽを向いてしまった。
思わず真顔になる御影に、マリエは表情を引き締めて向き直ると、両手を机に叩きつけた。
「御影君」
「……なんです?」
「七天祭団体戦。第五高校初の優勝を狙いますよ」
「オイオイ、マジで言ってんのかそれ」
椅子の前の方を浮かせてゆらゆらと揺らしながら、御影は首を振った。
「相手は第一高校をはじめとしたエリート集団だぞ?」
「あなたは一位だったでしょう?」
「そりゃそうだけどさ。個人戦ならともかく、団体戦となると……」
「それに、第一高校の絶対性は、失われつつある」
御影は一度口を閉じると、後ろのクルスへと問いかけの視線を向けた。
彼は車椅子の上で器用に肩をすくめてみせた。
「俺よりも、奏多の方がわかっているだろう。中学時代のトップスリーの内二人が離散している。それだけでも混乱が予想されたのに、ソニアが休学して、首席である奏多がここ第五高校に転校した。もう何が起きるか、わかったものじゃない」
※ ※ ※ ※ ※
トウキョウ特別能力育成第二高等学校。
科学を極めることを信条とした者達が集う、科学者育成専門学校だが、その実、戦闘を可能とする超能力者も多い。治安維持隊への就職を好まないものや、専門性を身に着けることで特殊部隊や特設部門への配属を狙う意識の高い生徒たちもいる。
そんな第二高校の頂点に君臨するミュリエル・ボルテールは、多くの生徒に囲まれながら、椅子の上からぼんやりと天井を見上げていた。
第二高校は五つの特別能力育成学校の中で、最も予算が回されている学校として知られている。敷地面積こそ第一高校よりも狭いが、大学でも珍しいような実験用器具が配置され、高価な実験材料も湯水のように使う事ができた。
校舎のデザインもまた、第一高校と対照的だ。第一高校を古式ゆかしき伝統ある建築構造物とするなら、第二高校は先端技術(といっても大部分が再現された過去の技術だが)を屈指した、『現代』建築と言えよう。外壁は基本ガラス張りだが、空調は完備され、快適に過ごすことができる。白を基調とした柱や壁の群れは、逆に古代ギリシャの建築群を思わせ、かつ所々に配置された緊急用シャワー等が科学の色を濃厚に醸し出している。
教室の机や椅子もまた、アクリル板やプラスチックを用いた、人工味溢れる作りとなっている。ミュリエルとしては、使えれば別になんでも良かったが。
「ねえ、ミュリエル! 話聞いてる?」
「ほえ~?」
クラスメイトであるミン・チー・チュニーが、半透明の板でできた机の上を何度か叩いてくるのに、ミュリエルは何度か瞬きをした。
ウェーブのかかった黄緑の長髪を揺らして、声の方へと目を向ける。真剣な表情をしたチュニーと、その少し後ろに控えるロメオの姿が視界に飛び込む。
チュニーは第二高校でも一、二を争う美女として知られており、チュニー自身それを自覚している節がある。長い髪をツインテールにしているが、不思議と幼さは醸し出しておらず、かといって似合っていないというわけでもない。身長は女性としては中程。下は大胆なミニスカートで、白い太ももは同性のミュリエルから見ても美麗だが、黒革のブーツがアクセントを添える。上には一般的なTシャツ、さらに白衣を肩にかけるようにして羽織っているのも至極自然だ。総じて、媚びすぎず雑すぎずの微妙なラインをついている少女だった。
一方、ミュリエルはというと、ごわごわの白衣を普通に着ている感じだった。チュニーを見習いたいと思わなくもない。
いつもチュニーと共にいるロメオは、これといって特徴のない少年だ。無表情で、格好もトレーナーにジーンズと野暮ったい。ただミュリエル的には顔立ちは悪くないように思う。
「なんですか~? 私、瞑想中でしたよ~?」
「眠くなったの間違いでしょ?」
そうチュニーが呆れ声を上げると、机を囲む他の生徒たちもクスクスと笑った。ロメオは無表情だった。もう少し明るければ、それなりに好みなのだが。
「ミュリエル、昼寝するとき天井見上げる癖があるよね。何で?」
「だって~、寝顔見られるの恥ずかしいじゃないですか~?」
「そう思うなら、もっと睡眠きちんととった方がいいよ。寝不足は美貌にも大敵だよ? せっかく可愛い顔してるのに」
チュニーが両手を伸ばし、頬を挟んで、むにーと押してくる。ミュリエルは唇が縦に伸びた状態で、もごもごと口を動かした。
「チュニーにくりゃべれびゃたいしちゃことないですよ~」
「うーん。この状態でいつもの口調を崩さないって、一周回って大物だよ」
そう言われても困る。というか眠い。何時間寝ようとも朝は弱い。
段々と目を細めていくミュリエルに、チュニーは一度頬を手で押し込んで解放した。衝撃に目を瞬かせる。チュニーは少しだけ胸を張った。
「いつまでもそんな調子じゃ困るよ? もうすぐ待ちに待った五大高校対抗戦、『七天祭』! 今年は優勝も狙えるんだから!」
「面倒くさいですね~」
「そうは言っても、やっぱり人間兵器としての性能も重要だよ? ほら、ロザリンド・ウィルキンスとか、超越者だからこそ自由な行動が許されてるわけだし?」
「ウィルキンスさんですか~。『忘却された鉄は錆びつき、流水の淀みは腐敗を生み出し、寒冷に凍り付く』。……とは言いますけどね~。錆と腐乱と氷の中に閉じ込められたいって願うのは、普通の話だよね~」
「……? 何の話?」
「何でもないよ~」
のんびりと首を振る。緑の髪の端をちょっと掴み、彼女は破顔した。
チュニーはしばらくの間、何かを疑うような表情でこちらを見つめていた。ちょっと怖い。思わず首を縮める。チュニーの後ろでロメオが僅かに身動きした。
「チュニーはこう言いたいんだ。今年の七天祭、ミュリエルにも頑張って欲しいって」
「え、ええ、そうよ! ソニア・クラークは持病で休学。御影奏多は退学処分。中学の一位は第三高校にいるけど、周りはただの機械オタク。私達にとっては、大きなチャンスなんだから!」
「争いごとが苦手なことは知っている。だけど、ミュリエルはうちのエースだ。できれば、力を貸して欲しい」
「言われなくても頑張りますよ~? 私も学校愛はあります。だけど……」
面積の広い窓の向こうに広がる、ビルとホログラムの群れを眺めながら、ミュリエルは珍しく表情を曇らせた。
「そんな状況でも、第一高校を超えるのは、難しいと思いますけどね~」