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落日の月

作者: 神邑凌


落日の月


(転落の宴)


電話機を自分で外した

明日は電気もガスも止まる

いつでもすぐに終われる

このまま人生そのものも終わる事が出来る


広くなった部屋で最後の宴

コンビニで買った弁当を広げる

お茶を横に置き弁当に口をつける


ドラマが終わるわけでもないのに

悲壮感が漂っている

重たい空気が部屋中を漂っている

ご飯が喉に痞えて重い

時間が経ち過ぎたのか少し硬いご飯

お茶を口に

蓋が転がりくるくると


「どこで踏み外したのだろう?」とふと思い

つい半生を顧みる

お茶の蓋と同じ

何処で止まるかも分からない

右に行くのか左に行くのか分からない

我が人生が

琥珀色なのか、バラ色なのか、鉛色なのか

何も分からない


がむしゃらに生きてきたのに

この城を空け渡す

これは落城なのか、野に下るのか

そんな大層なものではないが

空け渡す


それから

いよいよご飯が喉に痞えだし

お茶も冷え切って

無理、耐えられない

終了。

転落の宴は終了。


最後のお風呂

明日にはガスも止まる


お風呂の湯が溢れるくらい涙を流す

人並みに、多くの人と同じように

未練がましく涙を流す


「今までの人生で一番辛い日なのかも」と

心でつぶやく

涙が枯れ、それでも肩で泣き続けている


とうとう全身を湯船に沈め

汗も涙もプライドも全部流す

「畜生!」

ザザァーと洗い場一杯に水が溢れ

過去が渦巻く、現実が渦巻く

そして全部あっと言う間に

容赦なく給水口に吸い込まれる


その時


全身に新しい命が生まれたような気がした

何かが興り始めている

「さぁ」と力強い声が部屋中に響く

吹っ切れた。

お風呂から上がった時は別人に


「ガチャ」と玄関のドアを閉め鍵をかける

シルエットになった我が家に一礼をする

「お世話になりました」

何もかも失った

気がつけば多くのものを失った

友も仲間も信頼も

あんなに丁重にしてくれた人達も今は居ない

あんなに媚を売りつけたやつらも今は居ない

生きるとはまさに奔流の世界


終わった


そしてもうそんなことどうでもいい

何もかも失ったけど

やる気が残った。笑顔も少しは残った

思えばお風呂で全身を沈めたとき

どん底だったのだろう


明日から

新しい住まいで

ちっちゃなアパートで

おもしろ、おかしく、ゆかいに、たのしく

それだけを探して生きて行こう


見上げれば

真っ赤な月が俺を見つめている

がんばれよと

俺を見つめている

負けるなよと

俺を見つめている















kamimuraryou

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