オナジユメ
光に包まれている村。人々の悲鳴。兵士に押さえつけられている子供達。
そして、それを見つめる人影。
男なのか、女なのか。大人なのか、子供なのか。
わからない。見えない。ただ、表情はぼんやりだけど見える。
無表情・・・いや、少しだけ悲しそうな、表情だ。
「それ」はこちらに向かって歩いてくる。
少しずつ、ゆっくりと。何かを言いながら。
「ーーーーーーーー。」
聞こえない。悲鳴はよく聞こえている。
「それ」の声だけが聞こえない。
「ーーーーーーーーーーー。」
聞こえない。
近付こうとしたその時、突然後から肩を掴まれた。
「起きろ!」
突然の大声に驚き、歌乃は体を起こした。
長い髪が大きく揺れる。
いつの間にか寝ていたらしい。
「・・・すごくうなされていたぞ。」
歌乃を起こした男が心配そうに歌乃を見つめる。
「また、あの夢か?」
「・・・うん」
歌乃は少し間を空け、うなずいた。
また。そう、この夢を見るのは何回目だろう。
こんな夢を見ているのだから気持ちがいいわけがない。
それは誰もがそうだ。しかし、それ以上に。
ひどく申し訳ない気持ちになる。
人の悲鳴、憎しみの顔。恐怖の顔。そして聞こえない声。
「いい加減に村長に相談したらどうだ?もう何回も見ているなら何かの暗示かもしれないぞ?」
若干笑い混じりに助言する男。
「・・・うん。今日の夜話してみる。ありがとう、グレイン」
小柄で銀の短髪。青色の瞳。歌乃の幼馴染み的存在の少年のグレイン。
歌乃とグレインは昔から何をするにも一緒だった。
「髪も顔もひどいことになってんぞ。ヨダレも垂れてる。とりあえず顔洗ってこい」
「うわ!ちょっと見ないでよ!変態!」
「おまっ・・・時間になってもこないから心配して起こしに来てやったのに何だその態度!」
「え?・・・うわ!もうこんな時間じゃん!!やばいよ、開店に間に合わない!」
赤色の長い髪を振り回しながら歌乃は慌てる。髪と同じ赤色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
走って洗面所に消えていった。
「用意は全部終わってるぞ!!村長にももうお前を起こしたらすぐ出ると伝えてある!つまりあとはお前の用意だけだ!!」
グレインはそう叫ぶと溜め息をついた。
「こりゃギリギリになるなぁ・・・」